彼女からの手紙 12通目
心ここにあらず、閉校式は何も頭に入ってこなかった。こんなことならずっと図書室に残っていれば良かった。
「手紙は見つかったかい?」
全部で100枚あって11枚目まで見つけたと報告した。
「先は長いね」と大笑いされた。
「彼女がこういう悪戯をするとは思わなかった。だけどあそこは来週の水曜日までには空にしないといけないんだ。どうする?続きを探すかい?君は明日、東京に帰るんだろう?」
最後まで探すと答えた。自分が探すしかない。自分以外の誰かに見られたら大変だ。
何時まであそこにいていいかと尋ねた。
「今日は特別だ。夜9時までなら良いぞ。帰るなら、教務室にいる先生に声をかけなさい」
はいと返事をして、私はまた図書室に戻り、涼宮ハルヒを探した。
――正解だよ。さすがにあれには怒ったよ。ちゃんと謝りにきてほしかったな。
――次は「普門館を目指す吹奏楽の物語。『私はこんな三角関係を絶対に認めない』」
――正解だよ。ねぇ、君って、私の事、好きだったんでしょ?
――次は「幼いころの彼女が泣いた理由を知る為に、部誌のバックナンバーを探す省エネ主義者のお話」
――正解だよ。あの頃の私は君のことがちょっと気になってたかな?ちょっとだけね。
――次は「エベレスト冬季南西壁無酸素単独登頂への挑戦」
――正解だよ。一緒にいる間に、もっとたくさん本の話をしたかったね。
――次も山岳系「登山者の興奮状態が極限に達し、恐怖感がマヒする。冷めた時が一番怖い。『ジャンボが消えた』」
――正解だよ。私ね、不眠症だったんだ。両親の離婚がきっかけでね。
――次は「彼女はジョン・F・ケネディそっくりに殺された。200冊以上を上梓した作者の伝説的な処女作」
――正解だよ。夜はクスリを飲まないと眠れなかったの。
――次は「注射好きで破天荒な精神科医が患者の病を治療する短編集」
――正解だよ。君と一緒の時だけはクスリを使わずに眠れたの。なんでだろうね?
――次も医療シリーズで行くね。「不定愁訴外来、別名愚痴外来の講師と厚生労働省の役人の物語」
――正解だよ。私は土曜日とか日曜日も、夏休みも冬休みも学校に来て、司書室が開いてないか、チェックしてたんだけどな。
――次は「中村青司の館の物語。『私はやはり、彼らを憎まないわけにはいかない』」
――正解だよ。大学1年の時に、突然戻ったのはね、あの頃は色々あって全く眠れなかったの。だから眠りに行ったの。
――次は「演劇弱小校に強豪校からの転校生と、学生演劇の女王がやってきた。そして彼女たちの『銀河鉄道の夜』が始まる」
――正解だよ。あの日はひさしぶりにぐっすり眠れたよ。
――次も演劇部系行こうかな。「4人の名前に東西南北が入るから、『羅針盤』」
彼女の手紙はまだまだ続いた。