彼女からの手紙
「五つのオレンジの種」なんてタイトルそのままじゃないか、とも思ったが文庫版は短編集で別のタイトルでまとめられている。読んでいない人にはわからないか。
私は駆け足で、文学コーナーにあるアーサー・コナン・ドイルの著書を探す。子供たちが私についてくる。目的の本はすぐに見つかった。今度は文庫に収まるサイズのメモ紙がはさんであった。
――正解だよ。私は東京で元気にしています。来年3月で卒業します。
――つぎは少し難しいよ。「2つの時計をもつ男」
どうやら手紙はこれだけ終わるわけではないらしい。それに次が思い出せない。
子供たちと先生に事情を説明した。先生に連れられて子供たちは教室に戻って行った。もうすぐ式が始まる。式が始まるまでには次の手紙を見つけたい。
思い当たる作品は2つ。片方は外れだった。もう片方は、短編集だったはずだが、誰の短編集だったか思い出せない。心当たりを何人か探ったが、5人目でようやく正解の9マイルにたどりついた。
――正解だよ。大学1年の時、1度だけここに戻ってきたのに、君は何も言わなかったね。
――つぎは「1つの事件、6人の犯罪研究会、7つの推理、警察とあわせると8件」
また次の文庫をご指名だ。これはすぐわかった。ついこの前、再読したばかりだ。
本棚から毒入りチョコレートを取りだす。
――正解だよ。私は声をかけてほしかったんだけどな。
――つぎは「本名も経歴もわからない名探偵。紐を解いたり、結んだり」
これもすぐにわかる。私が一番好きな探偵だ。奇しくもその本は隅にあった。
――正解だよ。ところで、不思議に思わない?私が本の中身を知ってるなんて。
確かにそうだ。彼女はいつも寝ていた。本を読んでいる姿を見た事がない。
――つぎはちょっと新しいのにするね。「ポゥ、カー、エラリィ、ヴァン、アガサ、オルツィ、ルルゥ、そしてドイルが事件に巻き込まれる」
これを忘れるわけがない。私はすぐに次の本棚に向かった。新しいと言っても、私が生まれる前の話だ。