閉校式当日
閉校式当日、私は2時間前に学校に向かった。都会の雑居ビルみたいな校舎に慣れた身には、木製の校舎はにおいが違った。足に伝わる感触がアスファルトでもない。
「本屋の兄ちゃん!」
元気な子供たちが飛びついてきた。みんな3年前の面影はなんとなく残っている。
ずいぶんと背が伸びた。声がわりが過ぎた子たちもいる。
「メガネの姉ちゃんが昨日きて、もう帰っちゃったんだよ」
「メガネがコンタクトになってたよ」
「ししょしつに兄ちゃん宛ての手紙が残っているんだけど、続きが読めないんだよ」
心臓がドクンとなった。
彼女からの手紙?
続きが読めない?
今度は懐かしい顔の先生がやってきた。「ひさしぶりだね。大学はどうだい?」と挨拶があった。こちらの返答を聞く前にすぐに司書室の手紙のことになった。
「図書室は来週には空にしないと行けないんだが、彼女が君宛の手紙を残している。手紙は隠されてもいなかったので、中身を拝見したが、続きが君にしか読めないんだ。君が来るまで待っておこうと思ってさ」
どういうことだ?
子供たちに手をひかれ、図書室に入る。あの頃から何も変わっていない。
司書室は施錠されていなかった。
「これだよ」
子供たちが一枚の便せんを差し出した。これは彼女の字だ。
――本屋くんへ。
――ひさしぶりだね。元気にしてた?
――さて、図書室の中に、続きの手紙を隠しました。見つけられるかな?
――君と私が初めて会ったときに君が読んでいた本に隠したよ。
――ヒントは「五つのオレンジの種」
―― メガネより
たった6行の手紙だった。
「こういうことなんだよ。私たちには次の手紙が見つからないんだ。君に悪いと思って、図書室も司書室も、本はそのままにしてある」
そういうことか。
次の手紙の在りかはすぐにわかった。