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彼女との思い出

私は小学校の3年生になって委員会当番活動が始まるようになってからずっと図書当番をやっていた。

小さなへき地校にも委員会はある。花の水やりだとか、うさぎのふん掃除だとか、牛乳瓶の回収だとか、卒業アルバム用の写真の撮影だとか。

とはいえ、この学校では卒業という概念が希薄だった。小学校6年の卒業式の後も同じ顔ぶれの中でまだ学び続けることになる。中学3年の卒業も同様。卒業の重みが何もわからない。

しかし高校3年の卒業だけは別だった。小学校低学年の児童たちが「兄ちゃんがいなくなるのは嫌だ」と泣きじゃくる。私の先輩たちはみんなそうだったし、私自身もそうだった。

ここでは私も、そして私の先輩たちも、名前や苗字で呼ばれることがほとんどなかった。

「本屋の兄ちゃん」とか「本屋ちゃん」と呼ばれていた。実家が本屋だというわけではない。ずっと図書当番をやっていたからだ。そう呼ばれることは別に嫌ではなかった。

へき地3級の分校の図書室は小さい。教室と同じサイズの部屋に机が一つ。あとは本棚。

昼休み、私は給食を食べ終わると同時に図書室に来て、常勤司書のいない司書室の中に籠るのが定番だった。図書室を利用した児童がいればノックがあるし、中学以降は利用する生徒もいない。昼休みは子供たちの利用がなければずっと静かで、文庫をめくるだけの数年だった。孤独と言い換えてもいい。

あの日までは。


彼女が親の離婚でこちらに転校してきたのは、私が小6、彼女が中1の時だった。

子供たちにはメガネの姉ちゃんと呼ばれていた。

「寝かせてよ」

彼女は昼休みになるといつも司書室にやってきて、本を読むでもなく、奥のソファーに横になって寝息をたてて眠りこけてしまう。その横で私は何食わぬ顔で本を読む。

ただそれだけ。

予鈴で起きるとスカートのしわを整えて、あいさつもなしに出て行く。そして私も施錠して授業に向かう。本当にただそれだけだった。

彼女との司書室だけの付き合いはそれから5年続いた。

そして彼女は卒業し、東京の大学へ進学し、最後の1年はまた1人きりの司書室に戻ってしまった。


1度だけ、何の前触れもなしに大学生の彼女が戻ってきて、いつものように

「寝かせてよ」

と、ソファーで横になって寝息をたて、予鈴とともに挨拶もなく、出て行った事があった。

あれはいったいなんだったのだろう。


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