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彼女からの手紙 97通目


97通目を探す。

――正解だよ。そろそろ手紙もおしまいだね。ここまで付き合ってくれてありがとう。

――次は「第57回日本推理作家協会賞受賞、第4回本格ミステリ大賞受賞、このミステリーがすごい!2004年版第1位、本格ミステリベスト10、2004年度版第1位」


98通目。

――正解だよ。私もバカだよね。こんなことなんかしなくても、直接会いに行けばいいのに。

――次は「『小説新潮』平成14年10月号から連載開始、連載終了まで9年、刊行まで10年、その間に現実世界では裁判員制度が開始され、裁判の様相は作中とは大きく変化した、裁判の歴史を感じさせる長編ミステリー」


99通目。

――正解だよ。ちょっと私も精神的に参ってるのかもしれない。だからこんな事をしてるのかも。

――次は「『長門有季の100冊』に紹介された、実在しない3冊。未知の媒体で記録されているため探知不能、未知の言語で記述されているため解読不能、そしてTフロゥイングの著書。その序章から抜粋されたという設定の短編は?」


100通目。

――正解だよ。君の声が聞きたい。

――次が最後。私が一番好きな本は?


なんだこれは?

100通で最後でなかったということは、最初に机の上に置かれていた手紙はノーカウントっていうことなのか。

ということは今のは100通目ではなく99通目。

最後の問題はなんのヒントもない。

これは諦めろということなのだろうか。

時間は午後8時46分。

約束の時間までもう少し。

明日も探しに来る余裕はない。

だから、残り時間で探すしかない。

でも、彼女が一番好きな本なんてわかるはずがない。

君の声が聞きたい?

これは電話しろと言う事なのか?

ここまで来て、最後の1通が読めないままというのはどうにも我慢できない。

ここまでやって、来週にはここが空っぽになって永遠にその手紙を探すあてが無くなるというのは、もう絶対に我慢ができない。

いいぞ、ならやってやろうじゃないか。

高速道路が通って、近くにサービスエリアができた時から、村にもケータイが繋がるようになった。ここでも電話は繋がる。

電話で彼女に直接聞いてやる。


さっきのメモを頼りに電話番号を押す。

指が震えている。

1コール。

2コール。

3コール。

コ―ルが続く。

てのひらに汗が伝わる。


出た。


「もしもし?」

あの、先輩?

「あぁ、君ね。ひさしぶり」

今、時間大丈夫ですか?

「大丈夫だよ」

まず、その、ご結婚おめでとうございます。

「……ありがとう」

ちょっと、聞きたいことがあるんですけど。

「その前にこっちから質問していい?」

どうぞ。

「本棚の手紙、どこまで行った?」

今、99通目です。次ので最後って書かれてます。

「そこまで探してくれたんだ。ありがとう」

あの、先輩が一番好きな本って、なんですか?

「ふふっ。いいよ。今日は気分がいいから教えてあげる」

はい。

「私が一番好きな本はね……」

……。

「君が書いた本」

え?

「君が書いた本よ」

でも、ここに僕が書いた本なんて置いてないんじゃ?

「うっは!ボクだってwwwひっさしぶりに聞いたわwwwいっつも私とか俺とか自分とかカッコつけて自称が安定しないくせにwwwwww」

いいんですよ、そんなことは!

それより、僕の本なんてここにはないでしょ?

「ちゃんと探した?君の本、ちゃんと置いてあるんだよ」

え?

「昨日、あたしが並べておいたんだ。途中で気づくかもしれないと思ったけど、ちゃんと順番通りに探したんだね」

僕の本が、ここにある?

「電話きらないで探してみて。最後はちょっとだけ長くなってるけど」


ケータイを耳にあてたまま、文学コーナーに戻る。

本棚から自分の名前を探す。

あった。

見覚えのある表紙。

間違いなく僕の本だ。

そして、本からはみ出るくらいに手紙がはさんである。


――おめでとう、これが最後の100冊目だよ。

――途中で気づいたかな?それとも最後までさがしちゃったかな?

――じゃあ、どちらにしても、この手紙を見つけた君にご褒美をあげよう。

――途中で見つけた場合は何を言ってるかわからないだろうけど、

――結婚するって書いたの、あれは嘘だから。

――だって、こうでもしないと君は私に電話してこないでしょ。

――ちゃんとチャンスを上げるから、私に好きッて言いなさい。

――そしたらご褒美にキスしてあげるから。


なんですか、これ?

「書いてある通りだけど?」

彼氏がいたって話は?

「そこらへんは想像にお任せします。どうしても知りたいなら会いに来て」

どうして閉校式にこなかったんですか?

「担当が嫌いだったのよ。

だって私より頭わるかったんだもん」

子供か。

「まぁでもしょうがないか。

教師だってみんなが万能じゃないし、みんなが天才秀才じゃないもんね。

でも今さら仲良くなんてできないでしょ?

だから昨日の内に子供たちにだけ挨拶して、あとは君への手紙を忍ばせたの。

100通手紙かくの、大変だったんだから」

わかりましたわかりました。

今、どこにいるんですか?

もう東京ですか?

「ううん、こっちの実家にいるよ。お母さんは今の旦那のところへ行ってるから」

そうですか。

「ほら、ここまでお膳立てしてやったんだから、ちゃんと会いに来なさい」

先輩の家ってどこですか?

「いいよ、待ち合わせしよう。今から10分後に学校前の公園で」

わかりました、今から向かいます。

「……今日は1日付き合わせちゃって、ごめんね」

いいですよ。そのかわり、朝まで付き合って下さい。



そして僕は、彼女の手紙を全て掴んで、司書室と図書室を後にした。

教務室で酒盛り中の先生たちに礼を言って、校舎を出た。

廃校でなくなる母校。

もう2度と来る事はないだろう。

その校舎に一礼をしてから、僕は先輩との待ち合わせ場所の公園に向かった。

夜の公園。

田舎の月は小さく青い。

あの頃と同じメガネ姿の先輩が、僕を待っていた。


スキですと言う前に、僕は先輩にキスをしていた。



最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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