無名区域
すべての可能性を秘めたこの真世界・リセットワールド。この世界がつくられた世界だということを10人の罪人以外は知らない。なのに、僕はこの世界がつくられた世界だと知っている。もし、僕が10人の罪人の1人だとしても、僕は元の世界の記憶が一切ない。
真夏の炎天下の中で歩く1人の少年がいた。その少年は、国の第一都市、スドルと呼ばれている都市の領域の一部にたくさんの店が建ち並ぶ、商区域いわゆる商店街を歩いていた。商区域は二つあり、南西部に位置する第一商区域。そして、北部に位置する第二商区域がある。
少年の名は武守 茜。スドル都市の中央にある学園区域のなかでも名門校のスフェルト学園に通う高校二年生、少し頭がいいだけのごく普通の男子高校生だ。用もないのに茜は毎日、商区域に足を踏み入れる
。
「今日も近道するか。」
スフェルト学園から茜の家はかなり遠い。商区域を出ると、とある区域があり、そこを通るとかなり近くなるのだ。
商区域を出た茜は、国道を横断し、そのとある区域に足を踏み入れた。
今にも崩れそうなビルなどが建ち並び、トタンの屋根が錆びつき、コンクリートはドリルのようなもので開けた穴が幾つもある廃工場がたくさんある。捨てられた大量のゴミ。棄てられたテレビや車などが一面に広がっていた。
その区域は無名区域と呼ばれている。スドル都市と隣の第二都市・エシルとの間にある、誰のものでもない区域が無名区域だ。呪いから逃れられないと知っていても、殺人などの罪を犯す。都市という大勢の人が暮らす中で殺人などをすれば、前の世界の記憶がない人達は、真実を知ることになるだろう。そういうことが起これば、この世界の秩序は間違いなく壊れていく。しかし、無名区域で人を殺そうが何をしようが罪にはならない。なぜなら、さっきも言ったようにここは誰のものでもないからだ。誰も管理をしていないこの区域で何があっても都市は、責任を取ることができない。かと言って、この区域で罪を犯すのは、罪という存在を知る大罪を犯した10人だけ。ここには、足を踏み入れる人はほとんどいない。それでも茜は、近道をするために無名区域に足を踏み入れる。
「相変わらず、無名区域には誰もいないな。」
などとつぶやいて歩いていると、30階まであると見られる巨大なビルが見えてきた。そのビルは今にも崩れそうなほど老朽化が進んでおり、不気味なほど風が吹くたびに、ギシギシと音を響かせる。
「ここでもし、あの10人に会ったら殺されるんだよね…。」
毎回の事なのだが、怖くなった茜はビルから逃げるようにしてビルを通り過ぎていく。何が起こるかもわからないこの区域は、茜にとっては地獄のようなものだ。近道しなければいいと思うのが正論なのだが、茜はそれを嫌う。
茜がビルを通りすぎてから約100メートルはなれたとき、約100メートル後ろのビルが...爆発した。爆発音は無名区域全体に響きわたった。
「ば、爆発!?」
茜はビルがどうなったのかが気になり、ビルに引き返した。爆発は、ビルの15階辺りで起こったと見られ、爆発の衝撃で老朽化の激しいそのビルは茜に向かって倒れてきた。
...ビルは茜の真ん前で倒れた。よく見ると、ビルの瓦礫が刃物のようなで切られ粉々になっていた。爆発やビル崩壊で出来た煙の中から人と見られる人影が大きな瓦礫の上に現れ、その人影は茜に向かって来た。煙で見えなかった人の姿が段々見えてくる。そして、現れたのは、茜と同じ年ぐらいの茶髪の少年だった。
...その少年は、茜が毎日のように見る夢の中に出てきた少年だった。
「...菱岐。」