小話1
んっ? どこだここ?
見覚えのない場所だな、真っ白だ。
「勇者の資格を持つ者よ、よくぞ我が召喚にこたえてくれました」
召喚?
また変な場所に転移されたのかと思ったぜ。
「世界は混沌に包まれて、死の危機にさらされています。 どうか、この世界を救ってください」
「具体的に何をすればいい?」
まずは話だけでも聞くか。
もしかしたら魔王がいて倒せるかもしれん。
「すべての元凶である、魔王ハデスを打ち滅ぼしてください。 魔王は人間の恨み辛み妬みが限界まで膨れ上がった時にそれを解消するためのシステムでしたが。 意識を持ってしまい暴走しています。このままでは世界が危ないのです」
魔王ハデス?
なんか聞いた事ある気がするな、まぁいいか。
「それで、どこに行けばいい?」
「待ってください、魔王は強大です。 容易く倒せるような相手ではありません。 私が加護を与えますので力をつけ、仲間を集めてください」
かなり強い魔王のようだな。
だとしたら少しやばいか。
「ちなみに、どんな加護をもらえるんだ?」
「私が与えるのは魔法を使えるようにできる加護です。 この世界の人間でないあなたには魔法は使用できません。 しかし、加護によって体を作り変え魔法を使用可能にするのです」
「…………それだけか? なにか身体能力が十倍に上がるとか、魔力が膨大な量になるとか、すごい魔法を使えるようになるとか、ないのか?」
「魔法が使えるようになるだけです」
つまり魔法だけで倒せるってことか?
思ったより弱そうだな。
「これからこちらの世界に移動してもらいます。 安心してください、あなたは高位貴族の子供に憑依させます。 歴代の国王が継承している、雷を落とす魔法を覚える事が出来れば、魔王を倒す事もできるはずです。 でわ、よろしくお願いします」
「ちょっ! まってくれ!!!!」
危うく別人になるところだったぜ。
「この体のまま行く事は出来ないのか? というか、元の世界に帰れるのか?」
「魔王を倒した暁には元の世界に戻っても、そのまま移住しても構いません。 それと今の体のままで転移する事もできますが、貴族で無いあなたには魔法を覚える手段がありませんし、時間もありません」
とりあえず帰れるならいいか。
サクッと殺って終わらそう、魔王の核が手に入ればいいか。
「どこにでも転移はできるのか?」
「希望があれば伺いますが、どこを選んでもその体では無理です」
ならすぐに終わりそうだな。
「加護は要らないから、魔王の前に転移してくれ」
「えっ?」
「安心してくれ、俺が勇者だ」
「えっ?」
「俺も忙しいんだ、元の世界が俺を待ってる」
「えっ?」
「あっ、じゃあ、送りますね……」
「まかせろ」
んっ、着いたか。
目の前に魔王が座っている。
「だっ、誰だ! 貴様あああぁぁ! どこから現」
問答無用で叩き切る。
魔王の核らしきものが転がり落ちる。
「……小さいな」
世界が救われた。
「なんかすみません、お忙しいところ来ていただいて、ありがとうございます」
「小さいけどこれ、もらっていい?」
「どうぞ、遠慮しないでください」
「じゃあ、あとはよろしく」
はっ!
目が覚める。
手のひらを見てみるが、……何もない。
「何だ、ただの夢か、寝よ」
ベッドの下に小さな欠片が光っていた。