間違ってる
「渡す相手、間違えてるよ?」
聖なるチョコレートの日、バレンタインデー。(いや、ちょっと違う)
一世一代の告白をすべく放課後、隣のクラスの男の子を呼び出した。今日という日に呼び出せば、それだけでこちらの思惑は丸分かりだろう。少し照れた顔をして足早に近付いてきた、思い人である早瀬くん。今日も黒ぶちメガネが地味な方向にキマってる!
隣のクラスである早瀬くんとの出会いは、頻繁に訪れる図書室。同じ図書委員で本好きな私たちの距離は急速に縮まり、見た目は地味だけれど頭が良くて思いやりのある彼に恋をするのも早かった。
柔らかく笑う彼の雰囲気にふにゃっと気が緩みそうになるのをぐっと堪えてチョコレートを両手で差し出し、好きですと、ありきたりな、それでも精一杯の告白をした。
このとき確かに私たち二人は甘い空気で包まれていて、振られる覚悟は吹き飛び、ぶっちゃけ断られることはないだろうと、気を抜いた瞬間にそれは起きた。
「実花ぁ、なにしてんの?」
後ろから思い切り肩を引っ張られ、そのまま背中がなにかにぶつかった。そこには、学校一のイケメンという肩書きを持つ男、桐谷くんがいた。
「実花?それ、チョコでしょ?」
突然の出来事に甘い空気は吹き飛び、私はなにが起きたのか分からないまま、私と視線を合わせる桐谷くんを見つめた。そして冒頭の言葉に戻る。
「実花ぁ、なんか喋ってよ。浮気の言い訳くらいちゃんと聞くからさ」
俺って優しい、と言いながら腰を引き寄せられ下半身が密着する。慌てて引き離そうともがけば、切れ長の瞳が不機嫌そうに細められさらに腕に力が入った。
「あ、あの橘さん…」
「なにお前まだいたの?もう役目は終わったんだからどっか行けよ。ってか帰れ」
早瀬くんが絞り出したような声を、桐谷くんはばっさり切り捨てて再び私に優しげな視線を向ける。
「実花もさぁ、こんな男に引き立て役させるなんて可哀想デショ?そんなにヤキモチ妬かせたかったの?」
「ち、ちがっ」
「橘さん、僕帰るね?」
「ま、まって早瀬くん!」
必死の呼び止めにも振り返ることなく早瀬くんは去ってしまった。
「実花ってば小悪魔」
くすくすと笑う桐谷くんに、無意識に強く握り締めていたチョコを奪い取られ、キスをされ舌を捩じ込まれ口の中をぐちゃぐちゃにされながら、桐谷くんとは初対面のはずなのになんでこんな事態に、と涙を零しながら考えていた。
数分後、ようやく唇が離れていき、彼が私のストーカーで面識のない私を自分の彼女だと思い込んでいることを知る。
恐怖を感じながらも愛情と束縛をこれでもかと与えられて溺れそうになっている隙に、外堀を着々と固める彼の計画通り、高校卒業と同時に妊娠発覚。即入籍、セキュリティばっちりのマンションに軟禁状態でさらに愛の威力が増す彼を、何かが間違ってると思いながらも次第に愛するようになるのはまた別の話。
終わり
誤字等ご容赦ください。




