序章
生命が廻る限り、世界は続く。
この世界が誕生して、どれほどの年月が経っただろう。その長い年月の間、この世界には数え切れないほどの命が誕生した。
彼らは、平凡ながらも幸せな人生を送り、静かにその命を終えていった。そして彼らから生まれた命が、また同じような人生を送る。その生命の廻りは、決して変わる事のない、自然の摂理。
世界は、そんな平和な世界を望んだ。
だがそれは、ある一つの『変化』によって、もろくも崩れ去ってしまったのである。
生物とは、長い長い時間の中で、少しずつ変化していく。その変化は実に様々だ。
水中から陸上に生きる場所を変えた生き物。地上を捨てて空を飛ぶように鳴った生き物。はたまた地中に潜り込んだ生き物。
もちろん人間も、この世界に住まう生物である限り、その変化からは逃れられない。
だがそれは、果たして彼等が望んだ『変化』であったのだろうか。
『魔法』
それは、世界を構成する『マナ』というものに干渉して、様々な効果を発揮させるもの。魔法を使うためには、魔力という特別な力が必要になる。それを最初に手にした生物こそ、
人間なのだ。
世界のどこかで、十字架の聖人が生まれたとされる頃より遥か昔。人間は創造の神より一つの力を与えられた。
何も無い場所から火を熾したり、何週間も続いた日照りを雨を降らせて解消したり。その力は、まさしく奇跡の力だった。
そしてそれらは、神より与えられた力、『神の力』として崇められた。その特別な力を手に入れ、振るう事が出来たという『神の力の使い手』は、世界中にほんのわずかしか存在しなかった。
しかし彼らはその力を無闇に使おうとはせず、ひっそりと穏やかに暮らしていた。強大な『神の力』は、人間が使うべきではないと考えていたからだ。
だがある日、とある村で誰かは言った。
「神の力を用いて、世界を手中に収めよう」
我々にはその術がある、と。今こそ新しい世界をつくるのだ、と。
その村の人々は、そんな事出来るはずがないと、彼を馬鹿にした。その彼は、ならばやってみようではないかと行動に出た。その日の内に荷物をまとめ、村を出たのだ。
次の日、その村は跡形も無く消え去っていた。
村を出た男の行方は、いまだ分かっていない。
それから数年後、いつの間にか『神の力の使い手』達は、『魔導師』──魔を導く者と呼ばれるようになっていた。いつしか人々は、そんな彼らを避けるようになっていた。
それはなぜか。
理由は簡単だ。天災の原因が、全て彼らにあるという考えが広まったからである。
地震に洪水、雷や火山の噴火といった、自分達の想像を超える自然の脅威は、一瞬のうちに大切なものを奪っていく。それら天災は今も変わらず、人々の最大の敵であった。そんな中、強大な自然の力を扱えていた魔導師達は、世界を壊そうとして天災を引き起こしているとされた。そして人々から、『魔導師は異端の鬼』として差別される事になったのだ。
魔導師に対する差別は年々、その激しさを増していった。石を投げられたり、罵声を浴びせられたりもした。ひどい時には、魔導師という理由だけで、惨殺される人さえ出てきてしまう程だった。
そしてまた一人、幼い少年がそんな差別の犠牲になった。
もはや普通になってしまったその犠牲は、もう人々の記憶に残る事はなかった。
ただ一人の少女を除いては。
時が過ぎる事約千年、魔導師とそれ以外の人間が二つに分かれようとしていた世界に、とある六つの命が生まれた。
世界を変える、光を背負って。