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第2話 その日、何かが変わる

 また同じ朝がやってきた。

 見慣れた天井、見慣れた景色。

いつも通りの服に、変わらない朝食。

 そして今日も、同じ職場へ向かう。


 職場に到着すると、いつもと様子が違っていた。

 今日は、アドラさんは図書館に来ておらず、カイさんも不在だった。

 二人はどこに行ったのかも不明で、カイさんは社員が使う掲示板に置手紙みたいなものを貼っていた。


――― 本日は急用により不在のため、副管理人に統括をお願いしてあります。困りごとは彼女にお願いいたします。―――


 掲示板を読んでいると、声がかかった。

「やあ、少年」

「もう少年じゃないですよ」

「それもそうだね」

 ソフィーナさんだ。

会うたび、同じやり取りになる。

だが、ふとソフィーナさんの後ろに目を向けると、小さく隠れている女の子がいることに気が付いた。

「こんにちは。ミントさん」

「こ、こんにちは・・・」

顔を赤くしながら、おそるおそるこちらをのぞき込んでくる。

まるで警戒心の強い小動物みたいだと思っていると、ソフィーナさんがじっとこっちを見てきた。

軽くせき込み、今日のことを聞いてみる。

「本日は、カイ管理人が不在みたいですね」

「そうなんだよね。私も昨日の夕方に急遽言われたねぇ」

軽くため息をつく彼女だが、あきれたように笑う。

「まあ、ちょーっと給料増やしてくれるっぽいし」

「はは、それならよかったんじゃないですか?」

「なんだよー。ちょっとはうらやましがれよー」

そういって、軽く右ひじで私の左肩らへんをつついてきた。

軽い冗談話を交え、本題に入る。

「まあ、それは置いといて、カイとアドラは遺跡の調査に行くと言っていたな」

「遺跡ですか?」

「ああ、まあどこの遺跡とかは言っていなかったが、何か深刻そうな顔をしていたな」

「そんな、大事にならなければいいんですけど」

「大丈夫でしょう。今この世界は安定しているわけだし」

安定・・・。

確かに今、この世界は安定している。

ただ――私はこの安定という言葉を聞くたびにどこか痛みを感じる。

「どうした?少年」

ハッとして軽く頭を横に振り、大丈夫であることを伝えた。

「まあ、このまま世界は安定していくでしょうし、気にしないでいいかなとは思うんですけど、ただ本当にこのまま何事も起きなければうれしいなと切に思います」

ただ切に願う。

ソフィーナさんとミントさんはきょとんとしながら軽く見つめ、再びこちらを見て話しだした。

「そうだね。まあ暗い話をしたいわけじゃなかったんだ。すまないね。」

「あ、いえ。こちらこそ申し訳ありません」

私は軽く頭を下げ、今日はよろしくお願いしますと伝えた。

ソフィーナさんはミントさんを連れて管理室へ向かった。


執務室を通り、再び図書室へ向かうと、受付で働いているレオさんがいた。

冒険者の恰好をした利用者と会話をしている。

困りごとではなさそうだったので、そのままスルーしようとすると声をかけられた。

「…あ!先輩!ちょうどよかったっす!」

なるべく小さく元気な声だった。

レオさんの元へ近づくと、質問をしてきた。

「この利用者の方が、ある本を探しているみたいなんです!」

受付の机に置かれたメモを見ると本のタイトルらしき文字が書かれていた。

「アンデスト戦記初版・・・」

もう既に絶版になっている古い本。

物珍しさに驚いた。

少し利用者の顔を見ようとしたが、フードを深く被っていて顔はよく見えなかった。

ただ、彼の雰囲気が妙に印象に残った。

なぜ探しているのか深く聞くのも失礼かと思い、素直に答える。

「申し訳ございません。お探しの本についてですが・・・現在、こちらの図書館にはございません。」

「・・・そうですか。わかりました。」

冒険者らしき人は軽く会釈をして、立ち去って行った。

「先輩ぃ。よく知ってましたねぇその本のこと!」

ニコニコしながら感謝をしてくるレオさん。

大したことじゃないと言いつつ、どうして知っているのかを教えた。

「たまたま、知ってたんだ。私も読もうとしてたからね。でも管理者のカイさんに聞いたらここにはないと言われたんだ」

「そうなんですか?じゃあ、面白いんですかねぇ?その本」

「うーん。人によるんじゃないかな・・・。読んだこと無いからわからないけど、たぶん難しくて面白くはないんじゃないかな」

むぎゅと顔をしぼめながら納得しているレオさん。

まあ、無事に問題は解決したと思い、レオさんにそれじゃと伝えて仕事に戻った。


今日も無事に仕事を終えた。

ソフィーナさんたちにも挨拶をし、今日も本屋へ向かった。

しかし、今回はめぼしい本が見つからなかった。

昨日は、新刊の発売日であったため旧女神真話奇譚の続編を購入したが、今日は特にめぼしい本がなかった。

普段見ない料理本や、ガイド本にも目を通してみたが、あまりにもパッと来なかった。

 今日は早めにお墓に向かおう。

 そう思った私は手に持っていた本を元に戻し、お墓へ向かった。

 

 今日は少し肌寒い。

 昨日と同様、もしくはより寒さを感じる。

風が靡くにつれて体が震えた。

少し厚着をしてくるべきだったかな。

そう思った束の間、ふと空を見上げた。

大きな満月。

今日は月が少し近くなるとソフィーナさんが言っていたのを思い出した。

そして、今日は意味がある日とも言っていた。

仕事の休み時間に軽く話した時のことだったな。

意味って何だろう。

あまり深くは考えず、月を見つめる。

「・・・なんだか今日はやけに綺麗に見える」

つい言葉に出てしまった。

付近に人がいたら恥ずかしいと思い、少し周りを見渡したが私以外誰もいなかった。

それもそうか。

そもそも夜に墓参りなんて私ぐらいか。

軽く苦笑をし、再度お墓の前まで足を運んだ。


「今日は一段と月が綺麗だ」

彼女の墓の前で独り言を話す。

なぜか先ほどの道とは異なり恥ずかしさはない。

それもそう。

彼女と話していると思っているからだ。

だが、返事は返ってこない。

でも、それでも言葉を紡ぐ。

「今日はカイさんが不在で、代理でソフィーナさんが来たよ」

とか。

「今日は特に問題はなかったし、無事に仕事もできた」

とか、そういう他愛のない話。

そんな日常を話しているうちに、突然涙が流れてきた。

どうしてだろう。

あの時、散々泣いたのに、また涙が溢れてくる。

「ご、ごめん・・・!なんか急に涙が・・・」

言葉が詰まる。

どうしてだろうか。

・・・いや、本当は分かっている。

それでもそれを認めない。

認めたくない。

そう、私は・・・。

いつまでも認められないのだ。

しばらく声を押し殺しながら涙を流し続けてしまった。


あれから10分程度経った。

さすがに今は落ち着いている。

近くにある座れそうな石の上に座りながら、言葉は何も出さず、ただ月を見つめていた。

またソフィーナさんの言葉を思い出す。

――― 今日は意味がある日になるわよ。

意味のある日。

深い意味がありそうなことを言っていたが何も起きなかった。

たまには予言を外すこともあるんだなぁ。

普段予言なんて言わないのに、どうしてあんなことを言ったのだろう。

ちょっと今日のことを振り返ってみたが、何もそれっぽいことはなかった。

もしかして、泣いたことが意味のあることなのか・・・?

・・・さすがにないと思った。

傷心に浸っているうちにまた風が靡く。

さすがに体も冷えてきたので、挨拶をして帰ることにした。

「じゃあ、今日はこれで失礼するよ。おやすみなさい、女神様」

軽く祈りを捧げ、出入口に向かおうとした。

その時だった。

「――何をしとる!」

驚きが隠せず、声のする方へ振り向いた先には、彼女に似た子供が立っていた。

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