第1話 ルーティーン
世界はいつだって残酷だ。
何もなくて、誰にも認められなくて。
そんな自分でも護りたかった方がいたんだ。
きっと目が覚めればいつもの日常が待っている。
そう思いたくて仕方がなかった。
あの時、あなたを護ることができなかったことを、これからも一生思い出す。
これは私なりの手向けなのだから。
◇ ◇ ◇
目を覚ませばいつもの天井。
そして、いつもと変わらない夢から覚めた。
毎日が同じで、毎日が変わらない。
くどい言葉が飽きもせず思い浮かぶ。
私はいつもと同じように、顔を洗い、服を着替え、そして朝食をとった。
そして、少し窓から外を眺めて、仕事の支度を開始した。
外に出ればまた同じ景色が広がる。
何度も見た景色だが、なぜか飽きはしない。
なぜかは知らない。
知らなくていいと思う。
考えるだけ無駄だと本能で理解しているからなのだろう。
私は仕事のために同じ仕事場へ向かった。
返却された本を戻していると声をかけられた。
「お!元気にしてるか?」
元気で野太い声がしてきた。
「・・・」
「相変わらずだな?面白いやつめ」
ぼんやり声のする方向を見ていたら頭を掻き撫でてきた。
この巨漢でイカツいおっさんことアドラさん。
「お前さんの調子が気になってな」
「・・・いつもと変わらないですよ」
「うむ、そのようだな」
がははと笑うアドラさん。
嫌いじゃない。
・・・でも、少し距離が近い。
少し後ずさりをして、なぜここに来たのかをアドラさんに質問することにした。
「アドラさんはなぜここに?」
「ああ、そうだった。ここの管理人に用事があってな」
「カイさんですか?」
「そうそう、今日会う予定があってな」
「そうですか、じゃあ呼んできますよ」
「お!それは助かる」
私は軽く会釈をして、この図書館の管理人であるカイさんのもとへ向かった。
管理人室のドアをノックし、声をかける。
「失礼します。アドラさんが訪ねてまいりました」
少し間をおいてから声がしてきた。
「ああ、承知した。少し待っててくれ」
そういって、しばらくしたらドアからカイさんが現れた。
「アドラさんはどちらに?」
「受付付近におります」
「承知しました。ありがとう」
そういって、カイさんはアドラさんのもとへ向かっていった。
そして私も、返却された本を戻す作業に戻るために図書室へ向かった。
無事に今日の仕事を終え、帰宅の準備をしていると、後輩が声をかけてきた。
「お疲れっす!今日どうっすか?」
飲みのお誘いだ。
「行きたいけど・・・ごめんレオさん。今日も寄るところがあるんだ」
「了解っす!じゃあまた誘いますね!」
元気よく返答してどこかに行った。
彼女は相変わらず喜作で元気だ。
私は帰宅の準備を終え、そそくさと図書館の裏口へ向かい、町の本屋へ向かった。
ここのところ、図書館の仕事を終えてから本屋へ来ることがルーティーンになっている。
別に本が好きというわけではない。
ただ、なぜかある日から本を読むようになった。
昔の私が今の私を見たら驚愕するだろうなと思う。
そんな妄想をしながら本を探す。
旧女神真話奇譚の続編。
だいぶ古い本だが、近年から新書サイズで再発行されるようになった。
非常に読みやすいおとぎ話であり、人気の作品となっている。
私も、その本が好きになってから読むようになったと言っても過言ではない。
まあ、本当は正直好きとは異なる感情で読んでいるのだろうなとは思う。
そう思いながら探していると、目の前にお目当ての本があった。
手に取り、そのまま会計へ向かい無事に購入。
そして、本日最後の寄り道をする。
夜は肌寒く、ひんやりとした風が靡いている。
そして、この丘はよりその感覚を誇張してくる。
軽く震える体を無視しながら、目的地に到着した。
目の前には墓がある。
私はしゃがみ、声をかける。
「いつも来て悪いね」
声をかけても何も帰ってこない。
それでも私は話し続ける。
「今日はね、アドラさんが職場に来たんだ。カイさんに会いにね」
とか。
「相変わらず後輩は元気でね。私も元気をもらってると思うんだ」
とか。
何も変哲もなく、ただの日常を墓の前で話し続ける。
これが私の1日最後のルーティーン。
彼女はどう思っているのだろうか。
感情も表情も無い。
それでも私は話し続ける。
ある程度話したところで、祈りをささげる。
静かに、ただ手を握り、目を瞑る。
20秒程度の祈りだが、体感1分程度に感じた。
そして、祈りを終え、墓にお別れの挨拶をする。
「お休みなさい。女神様」
今日買った本を読みながら暖炉の前でのんびりしているが、いつもより瞼が重い。
昨日のあまりものとパンを食べたおかげか、それとも仕事の疲れのせいかわからないが、いつもより少し眠く感じる。
仕方がないので、本にしおりを挟み、少し目を瞑ることにした。
暖炉の音と、軽く風が窓を叩く音。
そういった環境音が聞こえてくる。
最初は心地の良い音に聞こえていたが、だんだんと幻聴に変わっていった。
辺りまるで業火に包まれ、鉄同士がぶつかり合う金切り音。
そして、人工魔法と純潔魔法が交差しながら破壊と混沌を作り出している。
悲鳴と怒号が飛び交う世界。
そんな場所だった。
その中を潜り抜け、世界に反する存在のもとへたどり着いた。
私たちは抗った。
必死に、護るために。
世界を守り、彼女を護るために。
だが、現実は非常であり、成す術なく私たちは敗北した。
そして女神の加護と恩寵を犠牲にして、反する存在を封印したのだった。
私は、彼女との約束を果たすことができなかった罪人なのだ。
冷や汗と寒気で目が覚めた。
息が荒く、心臓が破裂するような感覚。
落ち着くためにテーブルの上にあったコップを持ち上げ、水を口にして落ち着かせた。
しばらくすると、落ち着きはしたが定期的にフラッシュバックを引き起こしてくる。
苦しいが、このままでは何もできないと察し、薬を飲んで寝室に向かった。
そして、すぐにベッドに入り込み、深呼吸を続けた。
しばらくすると意識がなくなっていた。




