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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

君の音、聞かせてよ。

作者: 篠宮 あおい
掲載日:2026/04/03

友達なんていない。

僕がイケメンじゃないから?陰気臭いから?

多分違う。

他の人に”人間”として見られてないからだ。


入学してから1年経ったが、投げつけられるのは言葉ではなく、物だけだ。

家に帰っても親は常に喧嘩している。

壁を叩く音は聞きすぎて、もはや日常だ。

小学の頃に仲がよかった人も、今ではいじめっ子の仲間入りだ。

こんな世の中が心底嫌で、いつもヘッドホンをしていた。

君たちだってそんなのは嫌だろう?

そんな中、僕の日常をガラリと変える出来事が起こった。

僕がいつもの如く階段で弁当を食べていたら、背の低い女性が僕に話しかけてきた。

「一人で何してるの?」

僕はヘッドホンをしていたから聞こえていなかった。

音楽を爆音で流しているし。

相手も僕が聞こえていないことに気づいたのだろう。初対面なのにも関わらずヘッドホンを取り上げられた。

「ねぇ、なにしてるの?」

僕はいきなりのことでびっくりした。

今までヘッドホンを取り上げては、殴られたりしたから。

話しかけられたことに、びっくりした。

「…見たら分かるだろ、食べてるんだよ。」

「一人で寂しくない?」

「寂しくない。」

「じゃあ、隣失礼〜」

一人で居たかったのに勝手に僕のテリトリーに入ってきた。

「私 夕凪!よろしく!」

しかも勝手に自己紹介をしてきた。

「君の名前は?」

もちろん無視をする。

「ねえ無視しないでよ〜」

「お話がしたいな〜」

関わりたくないんだから無視するに決まってるだろう。

というか、僕と関わっても良いことなんてないんだ。

おもむろに僕の鞄に手を伸ばして、学生証を取られた。

「へー優太君って言うんだ〜」

勝手に鞄を弄ってプライバシーの侵害をしてくるなんて信じられなかった。

いや、普通に考えたらヘッドホンを奪ってなりふり構わず殴る方が信じられないか。

他に行く場所もない僕は彼女の相手をするしかなかった。

次の日も、また次の日も、またその次の日も彼女はここに来た。

一方的に自分の話をしてくるだけだったが、ヘッドホンから聞こえてくる音以外を学校で聞いたのは久しぶりだった。

僕も何故か少しずつ自分の話をするようになってしまった。


ある日、お互いの趣味の話になった。

「優太は趣味とかあるの?」

「ゲームが…趣味…。」

「いい趣味じゃん!」

「私の趣味はね…」

「「音」かな。」

思わずどういうことか分からず聞いてしまった。

「音が好きってなに?なんの音?」

「あれ?気になる感じ?」

なんか少しムカつく。が気になるのは事実だ。

「じゃあ今日の放課後にゲーセンにでも行こうよ。」

嫌です。と伝えようとした瞬間、学校のチャイムの音が鳴り響いた。

その瞬間、夕凪さんは手を振りながら猛ダッシュで教室に駆け抜けていってしまった。

結局断ることができず、ゲーセンに行くことになった。


学校の校門前で夕凪さんを待っていたらスキップしながらこちらに来た。

「なに?楽しみにしてた感じ?」

そんな事はない。というと嘘にはなるが…

新しい刺激で面白そうだなと思った。

だってこんなことは小学生以来だから。

ゲーセンに向かう途中に「彼女いんの〜?」「友達何人〜?」

とか聞かなくても分かるようなことばっかり質問してきた。

次第にゲーセンに向かう足は早くなっていったが、夕凪さんも余裕な顔でついてきた。

「めっちゃいい音〜♪」

ゲーセンに着いて開口一番がその言葉なんだ…と思ってしまった。


僕がいつもやるのはムイムイ。軍手を着けてボタンをタッチしたり、画面をなぞるという所謂「音ゲー」というやつだ。

夕凪さんは隣で音を聞いていたり、後ろにある椅子に座ってリズムに乗っていた。

プレイするからこそ楽しいのに…。

でもプレイは得意じゃない人でも音楽や雰囲気を味わいに来てる人も一定数いるのかも知れないと、夕凪さんのおかげで少し考えるようになった。

あらかたプレイが終わり、休憩していたら夕凪さんが話しかけてきた。

「意外と動けるんだね。私ビックリしちゃった。」

褒められてなんだか嬉しかった。

その後も2時間程ゲーセンに入り浸っていたが、夕凪さんはずっと筐体からなる音を聴いていた。

本当に音そのものが好きなんだと確信した。

帰り道に夕凪さんは凄く満足そうな顔をしていた。

「ねぇ、また連れていってよ。」

夕凪さんの提案を受けて僕は「たまになら良いですよ。」

なんて言ったが、いつの間にか週3でゲーセンに一緒に行く仲になっていた。




季節は夏になった。

夕暮れも遅くなり、少し時間感覚が狂う。

むせ返るような暑さで身も心もヘトヘトになる八月。

今日の気温は38℃だ。

蝉の声は無造作に鳴り響き、ヘッドホンすらも貫通してくる。

湿気で目が霞み、夏バテでご飯は喉を通らない。

そんな中、例のあの人から夏祭りに行こうとLINEで誘われた。

だが、そんなものは陽キャ用のイベントだと思っている。

「え?まさか私のお願い断るつもり?」

そんなことする訳ないよね?とでもいいたげなスタンプを送ってきた為、断りきれなかった。

僕にそんなイベントは勿体無い気がしている。

基本外に出ないから服なんてあまり持っていないし…


当日、半ば強制的に連れてこられてしまった。

「私服でも陰キャでも楽しめるから〜」なんて言われて服の端っこ引っ張られながら連れてこられた。

折角来たなら楽しまないと勿体ないので、彼女と屋台を回ることにした。

焼きそばを作る音、わたあめの機械の音、祭りのガヤガヤした音…

やはり夕凪さんは音を聞きに来たようだ。

「音があるからこそ楽しめるじゃん?」

すぐに答えることはできなかった。

僕は罵詈雑言を聞きたくないからヘッドホンをしている。だけど、この世から音が消えたら、もっとこの世界はつまらなくなると思う。

それに外の音は嫌いではない。夕凪さんの音も不快ではない。ヘッドホンを外していられる。

そんなことを思っていたら夕凪さんから次々と提案された。

「次は金魚すくいでもやろうよ。」

「かき氷食べた〜い」

「りんご飴、一緒に食べよ?」

やりたいと言ってたもの全て一緒に回った。

音というか、夏祭り自体を楽しんでるな。この人。

夏祭りを楽しめるのは天性の持ち主だと思う。

僕なら、やきそば買ってすぐ帰ってしまうから。


そんなことしていたら夕凪さんから提案された。

「実はこの祭り、メインイベントがあるの。」

「メインイベント?」

「花火が打ち上がるの!聞きたくない?花火の音!」

大抵花火というものは見て楽しむものだろうが、彼女はそれすらも音で楽しみたいようだ。

それでも良く見れる場所を探して練り歩いた。

そして見つけたのは、ベンチもあって人もいない

最高の場所。

二人で腰を下ろして、お互いに水を飲んだ。

「ねぇ優太」

いきなりの呼び捨てで少しドキッとしてしまった。

「私が本当に聞きたい音、知りたい?」

突然聞かれた。少し気になる。

「なんでもいいから音が好きなんじゃないの?」

「実は一番聞きたい音があるのよ」

息を呑んで、意を決して、耳を傾けた。

「なにが聞きたいの?」

「私が本当に聞きたいのは…」




「           」




その瞬間、花火がドカンと打ち上がり夕凪さんが大興奮していた。

なにをいったんだろう。よくきこえなかった。

僕が聞く音と夕凪さんが聴く音は全く同じなのだろうか。

不覚にも夕凪さんに興味が湧いてしまった。


数千発の花火が終わった。体感1分も見ていない気がする。

花火はまるで、いきなり流れてきた流星群よりも早く終わった。

見終わった僕らは帰ることにした。

少し寂しいような気もしたが、週3でゲーセンに一緒に行く仲になってるんだから別に平気だ。

「しおらしい顔してどうしたの?」

「あー花火終わっちゃったから寂しいんだ?」

「それとも私とのデート終わっちゃうからそんな寂しい顔してるの?」

「いや…別に…」

これが女の勘というやつだろうか。

心の中を見透かされてるような気がして落ち着かなかった。

「今日はゲーセン行くの?」

「行かないよ、まっすぐ帰るだけ」

「じゃあまた今度ね。」

「うん」

彼女と別れ、家に着いた僕は風呂に入った。

風呂から出て、ドライヤーで髪を乾かして…疲れたからベットで横になった。

気がつけば、一緒に撮った写真ばかり見ながら眠っていた。




紅葉も綺麗に咲く季節になり、気がつけば蝉の声はもうどこにもない。

気温も落ち着き、ポカポカ陽気になった。

学校はというと…

変わらず人間扱いはされず、物を投げつけられたりしている。

数ヶ月も経てば、それ自体も少しずつ慣れてきた。

そんな中、文化祭とかいう陽キャ専用イベントが間近まで迫っていた。

特にやることは無いし、クラスでの出し物に参加することがない僕は、そもそも不参加でいようと思っていた。

「暇してんの〜?」

夕凪さんだ。今日も僕に絡んでくる。

この人は僕と話すようになってから半年経ったが、いじめられたりしないんだろうか。最近少し不思議に思うことだ。

「暇ですよ、聞かなくてもわかるでしょ」

「一応暇かどうかは聞いとかないとね?」

「この学校で僕に話しかけるのなんて夕凪さんだけですよ」

「えへへ」

その笑顔に少し狂気さを感じつつも、天使のようにも見えてくる。

恐ろしい。気がつけば飲み込まれそうで––––––

「ねえ」

少しボーッとしていた。なぜだか、あまり思考が回らない。疲れているのだろうか。

いや、きのせいだろう。今日がそういう日なだけだ。

「今日もゲーセンいこうよ」

「いや…今日は家でゆっくりしようかなって」

「体調悪いの?」

「少しだけ…」

「じゃあ看病してあげるよ」

「はい?」

幸いにも父は仕事で出張中、母は見知らぬ男の家で暮らしている。

家には存在を忘れられた僕しかいない。

誰も気を止めすらしない。父方のお婆ちゃんも僕には知らんぷりだ。

小学の頃からそうだ。

「お邪魔になっちゃう?」

邪魔にはならないが…なぜだろう。

なんとなく、なんとなくこの領域はよろしくない気がする。

家に呼んではいけない気がする。

「誰もいないので大丈夫です。」

なぜ断れなかったのか。自分のことのはずなのに理解ができない。

僕の思考がハッキングでもされてるのだろうか。

いやいや、意思はあるし。そんなことはないだろう。

ただ。


恐らく何かに取り憑かれてるのは事実だ。

「それならよかった、今日は一緒に帰ろっか。」

誰かとこうやって帰るという行為自体に、憧れていたのかもしれない。


下校の時間になって、僕は先に校門前で佇んでいた。

待てど暮らせど、来ない。

40分程待っていたら、夕凪さんは来た。

「ごめんね〜遅くなっちゃった。」

「さっき来たばかりだから大丈夫」

一回の授業が受けれるくらいには待ったが、恐らくこれは普通だ。

夕凪さんの顔を見てもあまり悪びれてる印象はない。

いや、そういう人を見すぎているだけかもしれない。

「じゃあ行こっか。」

帰路に朝でもないのに小鳥が囀っている。ピアノを演奏している音も。

普段は帰る時もヘッドホンしているから毎日通っているのに気が付かなかった。

恐らく小学生と思われる子供の声すら新鮮に思う。

「こっちは空気も澄んでて、音もいいね」

空というものは繋がっているのに何故澄んでいるのが、場所によるのだろう。

澄ませているのはどういう環境なのだろうか。

僕もそこにいたら、住んでいたら。

心に暗雲が立ち込めることはなかったのだろうか。

そんなことは、恐らくないだろう。

じきにここも空気が悪くなる。濁った池のように。


家に着いた。疑い様もないほど僕の実家だ。

家に入るや否や、夕凪さんは僕の部屋へ駆けていく。

まだ部屋がどこかも教えてないのにな。

「ねぇこれやろうよ」

夕凪さんが取り出したのはヌマブラだった。

「やったことあるの?」

「ん?ないよ?」

「もっと違うゲームとかのが…」

「だってこれ面白そうじゃん?」

確かに面白いけど…まぁいいか。

気づけば2時間程ぶっ続けでやっていた。時間も忘れて、体調が悪いのもいつの間にかどこかへ消えた。

終わった後はゆっくりしていた。

お互い何もせず、ただボーッとしていた。

無音だ。

あるとすれば水が滴る音。外を駆け回る自転車の音。不審者なのか分からないが、叫んでいる人もいる。そんな音を聞いて夕凪さんは笑っていた。

本当に好きなんだなと思う反面、僕はそろそろ自分の殻に帰りたかった。

「そういえばヘッドホンでいつも何聞いてるの?」

「なんでもいいじゃん…」

「気になるじゃ〜ん」

だれにもいったことはない。

だれにもいう、ひつようがないから。

「秘密。」

「けち〜。いいじゃ〜ん」

「なんか恥ずかしいし。」

実際、言うものじゃない。

そんな首を突っ込む必要もない。

「まぁ今度教えてもらうからいいけどね。」

「今度っていつ。」

「ん〜」

「クリスマスとか?」

クリスマスなんてこの世に存在してたんだ。

人と関わることがない僕が、絶対に起きることのないイベント。

むしろ怖いまである。どんなものか知らなすぎて。

でも…

きっと楽しいんだろうな。夕凪さんと一緒にその日を過ごせるなら。


気がつけば周りの騒音もなくなり、夜の9時。

そろそろ帰るみたいだ。

「気をつけてね」

「うん。ありがとっ」

たったそれだけ。

たったそれだけだけど、その言葉は太陽の熱より暖かかった。

今日は親もいないし、ぐっすり眠れそうだ。

ヘッドホンせずに寝れる。快適だ。

縛られることもない。今日はいつもの音じゃない音を聞こうかな。




厳かにも視え、積もり続ける雪は何もかも埋めるが如く降り続ける。

悪も正義も真っ白に染める様に白銀の世界は広がっていく。

全てを終わりにするように。

今年も、もう終わりになる。今日はクリスマスイブだ。

普段なら家でいつもの如くゲーセン行ったり、家でゲームしたり…

というかそれ以外やることがない。

でも今年は、何故か仲良くなった女性とクリスマスデートだ。

何故だか少し浮かれてしまう。普通の人になれた様な気がして。

そんな人はいじめられたりしないのだろうか。

きっとそんなことはない。普通の人でも虐められることはあるだろう。

ただ、恐らく普通の人はヘッドホンに逃げたりしないだろう。

それだけは人間に聞かなくてもわかる。

プランは夕凪さんが考えてくれるらしい。

動物園の提案をしたら断られた。何かしたいことがあるらしい。

考えなくていいのは助かるけど、一体何を考えているんだろう。


そんなことを考えながら駅で待っていたら夕凪さんが来た。

「おまたせ〜」

少し多い荷物を背負いながらも駆け足で来た。

そんなに荷物いるかな…なんて考える間もなく驚きの言葉がくる。

「そんな荷物少なくて大丈夫?」

「え、なんで?」

「だって今日泊まりだよ?」

そんな話は聞かされてない。むしろ何を当然みたいな顔をしているんだ。

「え…聞き間違い…?」

「泊まるよ〜?大体クリスマスはホテルに泊まるもんだよ」

なわけあるか!なんて言えるわけない。

普通はそうかもしれないし。

「まぁ必要なものは買えばいいよね」

「あっうん…」

何処となく置いてかれてる感があった。

流石は僕の知らない世界だ。


とりあえずお腹が空いたので近くのファミレスに寄ることになった。

向かう途中に夕凪さんのお腹が鳴る音を聞いてしまったからか、凄く怒られた。

わざとではないのに。でも嫌な気はしなかった。

話しながら歩いていたらショイフルにすぐ着いた。

外食に慣れているのか、メニュー表を手に取るのが早い。

そして何よりも全体像を把握するのが早い。

捲るのが速すぎて、おすすめが一番先頭にあって…一番後ろがデザートなんだってことしか分からなかった。

「どれにする?」

なんて言われても文字が多すぎてよく分からなかった。

とりあえず僕は

「夕凪さんと同じものが食べたい」

って言った。なんか笑顔だった。

料理はすぐにテーブルに届いた。届けてくれたのが人じゃなくてロボットなのはビックリしたけど。

頬張りながら食べているのを見て、なんだか微笑ましくなった。

「たべないの?」

ちょっと見すぎていた。食欲よりも興味がそそってしまった。

これをクラスのみんなは平然と行っているのだろうか。

だとしたら悲しいな。何も悪くないはずの僕を除け者にして。

みんなでご飯を食べて、笑顔でいるなんて。幸せだな。

そんなことをふと考えながら食べていた。

お察しの通り、ご飯はいつもよりかは美味しい。そんなレベルだった。

腹ごしらえも終わり会計をしようとすると、夕凪さんの懐からなにかが出てきた。

「これ今日の旅のしおりね。」

恐らく頑張って作ったんだろうな。という感じのしおり。

絵はすこぶる下手の様だ。

でも何故だか、健気さと何かを伝えようとする力強さがある。

パラパラと捲ると1ページ目には旅の目的が書かれていて、2ページ目には10時からの予定が書かれている。

ゲーセン。と––––––

絶対今日じゃなくていい。僕でもわかる。

でもプランに口出しはしたくない。空気を壊すだろうから。

予定通りゲーセンに来るといきなりムイムイをしようと言い出す。

初めてのはずなのに凄く上手い。

なにやら知らず知らずのうちに練習していた様だ。

週3で一緒に行っていたのに知らないってことは、毎日行ってるのでは。と思ってしまった。

人のプレイに興味なんて無かったのに、目はそこしか見えない様に制限されてるのかと思うほど僕の視界は固定されていた。


2時間程遊んでひとしきり疲れた僕たちは、カフェへと足を運んだ。

しおりをめくると予定通りカフェになっていた。

誰かが考えてくれたプランに則ってその日を過ごすのも悪くない。

パラパラと適当にめくると雑誌についてる様な付録のようなものが最後のページの間についている。

好奇心が勝ってペリペリと捲ろうとした瞬間

「まだダメ!!!!!」

突然大声を出されてビックリした。

顔を上げると今まで見たことのない様な鬼気迫った顔をしていた。

捲った先に何があるのか。そんなに止められると気になる。

何が書いてあるのか。

お昼ご飯も食べて水族館にも行ったけど、何一つ覚えていない。

時間が経てば経つほどモヤモヤする。

いつになったら許可が出るのだろうと。


時刻は18時。計画の中で二番目に楽しみにしていると夕凪さんが言っていた高級レストランだ。

中に入ると、僕が来る様な場所じゃないというのがすぐさま分かる。

ここの空気と客の目で。

それでも夕凪さんは気にせずレストランの中に入る。

この人はどうやら人の目とか気にせず行動できるのかもしれない。

どうやらフルコース?を予約していた様だ。

小さな声で値段を聞こうとしたが、聞かずに食べてと言っている様な顔をしていた。

どうしてこんなに良くしてくれるのか僕には理解できない。

僕の何をそんなに求めているんだろう。

そんなこと考えているとフルコースは来た。

なんというか…

お金の味がした。

なんだそれと思うかもだけど…感想じゃないなんて思うけど…

お金の味しかしなかった。もう何を食べたのかも覚えていない。

身の丈に合わないことしかしていないからだろうか。

「美味しかった?」

突然聞いてくる。お金の味がしたなんて言えない。

「大人な味だなって思った。」

「一足お先に大人になるのは大事だからね」

大人になれたのだろうか。僕は。

そもそも高いものを食べることが大人なのだろうか。

それなら僕は"おとな"になりたくはないな。

それにしか価値を見出せない人間になりそうだから。


「じゃあ更に大人になりに行っちゃお!」

予約したホテルをスマホの画面で見させられた。

なんかすごく高そうなところだった。

何処かで泊まるなんてしたことがない僕にとって、ホテルの外見だけで貴族階級の人がお忍びで来ているようなところに見えた。

僕は少し目を煌めかせていた。そんな僕を見た夕凪さんはニマニマしている。

少し恥ずかしくなって、顔を伏せてしまった。

「それじゃあそろそろ行こっか」

「あ、うん」

ホテルに向かう道中、何をしていたか覚えていない。多分歩いていた筈だ。

これからホテルに入る。それだけなのに何故か緊張する。

初めて商業施設に入る時みたいなワクワク感とドキドキ感。

そんな中、夕凪さんに提案される。

「ホテル向かう途中にあるからアオン行こうよ」

「え、なんで急に?」

「だって買わないと着替えないでしょ?」

あぁ…そういえば僕の肌着が必要だった。買わないと今日履いてたものを履くことになる。

流石にパンツは変えたい。っていうか寒いからヒートテックも欲しい。

ないと明日の僕は凍えてしまうだろう。

なんたって今でも凍えそうだ。だって今の気温は2℃だぞ。


そんなことはさておき、アオンに着くとカップルというより夫婦が多い。

こんなところよりもお家でイチャイチャ…とかしてるんだろう。

今頃パンツを購入しようとしているのは世界で僕らだけだ。

「わたしは別の見てくるからちょっとだけ別行動しよっか」

「じゃあ買い終わったらここの噴水に集合しよう」

「おっけー」

変な感情だ。一日一緒にいたからか、別行動は少し寂しい。

週3で会ってゲーセンに行ってた時は、こんな気持ちにはならなかった。

だとしても目の前で下着を買ってるところなんて見られたくなかったし、ちょうどいい。

別に見られて困るものではないけど、なんとなく嫌なんだ。

僕が買う時は大抵決まって「CU」だ。ここのアオンにも店舗があってよかった。

特に好きなわけでもない。ここしか知らないだけだ。

柄も派手じゃないからなんとなくいいなと思う。

適当に見繕って会計してすぐさま戻ろう。

噴水に戻ってきた。まだいないみたいだ。

「お待たせ〜」

来た。それも信じられないほど買ってきた。

意を決して聞いてみた。

「な、なにそれ…その袋…」

「ん?」

「いや、あの…」

「ん?」

無理だ。陽キャ特有の「ん?」の圧には勝てない。

何を買ったのか気になるから一番上だけちらっと見た。

手錠の様なもののパッケージが見えた。

見えたからなんなんだ。手錠から広がるものは僕の脳内には何もない。

唯一あるとしたら警察官が使うなぁ…ぐらいだろうか。

「さて、買い物も終わったからホテルにいこっか」

「あ、うん」

ホテルに向かう途中、「ムイムイ」の話や学校の話…

今ハマってる音楽を一緒に話していた。

そんなこと話していると2キロ先にあったホテルにものの数秒で着いてしまう。

もう少し外で話したかった。

いや、ホテルの中で話せばいいんだ。別に外じゃないと話せない訳ではない。


ホテルに入ると女性が一人。受付にいた。

凄く優しそうな瞳。仲睦まじく夕凪さんと話している。

こういう人も、昔誰かを虐めてたんだろうか。

すぐにそういう考えを持ってしまうのは僕の悪い癖だ。

ひとしきり喋り終わって受付も終わり、エレベーターで移動するらしい。

「部屋番号は302だって〜」

302と言われてもどこなんだ。というのが僕の率直な意見だ。

エレベーター前にあるマップをみてみる。

どうやら角部屋らしい。普通なら301なのでは?と思ってしまうが、とにかくここのホテルは302が角部屋らしい。

「じゃあ開けるよ〜」

「それで開けるの?鍵じゃないんだね」

「ホテルによって違うけど、ここはカード式なんだよ〜」

流石は夕凪さん。ホテルに行き慣れてる人感がすごい。というか行き慣れてるんだろうな。

「ご開帳〜」

開けてみるとちゃんと部屋だ。思ってたよりもしっかりしてる。

結構広いし、見るだけで分かる。居心地良さそうだ。

玄関横にある扉の先には脱衣所があって、左側にはトイレ。右側にはお風呂って分かれてるし結構広い。

だってほら、ベットも結構大きいし…ちょっとまて。

ここは一旦聞こう。ホテル慣れしてる夕凪さんに聞くのが一番だ。

「ベット一つしかなくない?」

「ないよ」

ないよ。じゃないよ。

無理だそんな。無理無理。親の隣で寝たこともないのに。

「なんで?大丈夫だよ〜」

どうやら聞く人を間違えたみたいだ。

最悪椅子もあるし、そっちで寝ればいい。

うん。そうだ。


「お風呂は先に入っていいよ、後で入るから」

「あ、うん。わかった。」

とりあえずお風呂に入って落ち着こう。それがいい。

脱衣所にはバスタオルや着替え用の服まで用意されてる。

お風呂は少し興奮してしまうぐらい広い。ちょっとしたテーマパークだ。

シャワーのお湯を出していたら、鏡の前でぼーっとしてしまった。

本当はクラスの子と仲良くしたい。とか。ご飯食べたりとか。

僕にとっては友達が欲しいなんて贅沢な悩みだ。

どうしてみんな虐めるんだろ。何が楽しいんだろ。

虐める側になったら分かるんだろうか。楽しさが。

でも僕のことを虐めてる人たちはみんな仲良くしている。

なんで僕だけ仲間外れなんだろ。

シャワーのお湯で生まれた熱気の中、少し涙が溢れてくる。

熱気で鏡も曇ってしまった。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。ちょっと考え事。」

「解決しないこと考えても仕方ないよ〜」

「もっとみんなとも仲良くしたいなって…」

「もうわたしと仲いいじゃん、それでよくない?」

「うん、そうだね。ありがとう…」

………




うん?




よくない。ぜっっったいよくない。




いる。うしろに。




振り向けないから、鏡の曇りを手で拭う。

ゆっくりと。

震える手を自制しながら。

キュッという音と共に。




「な、なんでいるの…」

「入りたいからだけど。」

「僕が入ってるけど…」

「言ったじゃ〜ん」

「先に入ってていいよって。後で入るからってさ」




それは、一応思春期の僕にはあまりにも刺激が強かった。

もはやシャワーの音しか聞こえない。

何かを言っている。口もパクパク動いているのは見えるし。

それは、あまりにもそれは…

南国のフルーツの様にたわわに実っていて…




大きかった。




「ふぃ〜気持ちよかったね〜」

「うん」

「アイスでも買っとけばよかったな〜」

「うん」

「着替えたからアイス買ってくるね〜なにがいい〜?」

「うん」

「おっけ〜すぐ買ってくるね〜」


ガチャンという扉の音で我に帰る。

僕は何故、全裸で部屋の真ん中にいるんだろう。

ひとまず僕はバスローブを着て、しおりに手を出した。

今日ずっと気になっていた、雑誌の付録の様なもの。

一人で開けたらあの時の様に怒られそうだなと思いつつも、好奇心は手を伸ばしていた。

素人が頑張って真似をして、のりづけされた付録の様なものは、思っていたよりも簡単にペリペリと音を鳴らしながら開いた。

中に入っていたのは、この一年を通して撮られた僕たちの写真が入っていた。

いつの間にこんな写真を…

ちょっと嬉しさがありつつも不気味さを覚える。

どの写真も二人写っている。二人写ってるだけじゃなんも不気味ではない。

毎度遠くから撮られている。

真正面から撮られている写真もあるけど…画素が少し荒い。ズームして撮っているのだろうか。

「なんだ、開けちゃったんだ」

夕凪さんの声が聞こえて振り返った、怒ってはいなかった。いなかったはずだ。


「二人でいる時に開けようと思ってたのに〜」

「ご、ごめん…」

「いいよ〜」

レジ袋の中からグーリッシュを取り出して僕に渡してくる。

「アイスたべよ〜」

「あ、ありがとう」

「その写真はさ〜、言っちゃえば盗撮なんだけどね〜」

「全然気づかなかったよ…」

「そりゃ盗撮だからね。気づかれてたら盗撮じゃないよ〜」

盗撮だよと認めるのも良くはない気がするが、誰が撮っていたのかなんて、もはやどうでもいい。記憶が思い出されていく。それだけでいい。


「いや〜懐かしいな〜」

「夏祭りなんてまだ半年も経ってないよ」

「でも懐かしいんだよ〜私にとってはね。花火もいい音だったな〜」

そういうものかと思いつつ、気になっていることを一つ聞き出してみた。

「そういえば、花火の前に言ってたことって…なんだったの?」

「あーそうだった。花火の音で聞こえてなかったよね。」

「私の本当に聴きたい音。」

結局きけてない。

好奇心で聞いてしまった。

なんだったんだろう。

「教えてあげるよ。」

「何が聞きたいの?」

「それはね〜」

















































「君の首を絞めた時の音。」











いきなり押し倒されて、思いきり首元に圧力をかけられる。

すぐに夕凪さんの手首を掴んで離そうとするが、力の差は歴然だった。

そして夕凪さんの眼はまるでこれを待ち望んでいたかの様に恐ろしい。

獲物狩る時のライオンみたいな…それよりも恐ろしい。

足でなんとかうごかして脱出しようとするけどそれもままならない。

からだが完全にロックされている。

こえもでない。やめてというこえが。

終始無言なのがさらにおそろしくて。




いつのまにか、きぜつしていた。

ほほにいたみがはしっている。

びんたされてなかったら、いってた。

みみもとで、ささやかれてる。

「おやすみの「おと」って、どんな「おと」なんだろうね。」

いきをすうのにひっしで、なにもきこえてこない。

だめだもうあたまがうごかない、てもあしもうごかない。
















































私は、悠太を殺した。

声が聞きたかったから。

楽しんでる時の声、私といる時の声、苦しんでいる時の声…。

私が聞くべき音は、誰にも聞いてほしくなかった。


悠太から出た最後の声が

私の想像を遥かに超える、感情の揺らめく音。

たまらなかった。

首を絞めているはずの私が、逝ってしまいそうな程に。



だからこそ。それだけ。

悠太に望んでいたのは。それだけ。




悠太のバッグを漁って。内緒の音を聞きたくて。

ヘッドホンを取り出す。

悠太にとってそれは、誰にも触れられてはいけないもの。




私はそれで何を聞いているか気になったから、ヘッドホンを彼の様につけて。

彼愛用のウォークマンの再生ボタンを押す。






思わず笑みが出てしまう。

嬉しくて。

なんだ…やっぱり、そうだったんだ。全部あってた。











「さいしょから、わたしとおなじおとがすきで、きいてたんだ。」


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