02 運命の番『サブスク』プラン
「お願いだ、エリュシア嬢……! 呪い(・・)を解いてくれ! 我が国の戦士たちが、戦場ではなく、便所や岩石に求婚して使い物にならんのだ!」
数ヶ月後。アステリア公爵家の応接室で土下座をしていたのは、かつての傲慢さを失い、やつれ果てたレオンハルト王子だった。
彼の背後には同じく番の認識を狂わされ、自らの尻尾を〝最愛の恋人〟だと思い込み、必死に追いかけ回している護衛たちの姿がある。
獣人たちの運命の番は、あれからエリュシアの主導によって好き勝手に書き換えられていた。
そのことが、よりエリュシアの加虐性を際立たせている。
「頼む……! エリュシア嬢……!」
レオンハルトは必死に頭を下げ、許しを乞う。
エリュシアは、最高級の紅茶をすすりながら冷淡に微笑んだ。
「呪い? 心外ですわね。私は、ただ貴方たちの自分勝手な本能に〝多様性〟を与えて差し上げただけのこと。もし、解除してほしいのなら我が公爵家と『本能制御契約』を締結していただくわよ」
「ほ、本能、制御契約……?」
「ええ!」
エリュシアは朗らかに微笑む。
だが、レオンハルトにとってその微笑みはおぞましいものだった。
エリュシアが提示した契約条件は、レグナント王国の獣人たちにとって、生存権を握られるに等しいものだ。
一つ、番認定の権利放棄。
獣人は今後、人間の合意なしに〝運命の番〟を自称することを国際法で禁止する。
二つ、制御用魔道具の常時装着。
獣人国の民、とくに王族・貴族は、エリュシアが開発したチョーカー型の『番本能抑制』魔道具の装着を義務づける。
三つ、本能の有料化。
もし、運命の番を感じたい場合は、アステリア公爵家へ多額の〝番維持費〟を毎月支払うこと。
「こ、これは……! つまり、金を払わなければ、自分の番すらわからなくなるというのか!?」
「ええ。支払いが滞れば、即座に認識を書き換えますわ。そうですわね。次は『サボテン』あたりを一生愛するように設定しましょうか? あら、男性も女性も大変なことになりそう! うふふ」
「ひっ……」
エリュシアは酷薄な笑顔で、まるで冗談かのようにそんなことを告げる。
男性の獣人が棘のあるサボテンを愛したら? 女性は?
すでにレグナント王国では番をあり得ないものに書き換えられて、凄惨な光景が広がっている。
そのことに怒り、戦おうとしても番認識を乱されて、戦いにすらならないのだ。
レグナント王国の獣人たちは、もうエリュシアの魔道具に勝つ希望がなかった。
レオンハルトは絶望に顔を歪めながら、契約書に震える手で署名する。
獣人国の王族・貴族たちは、エリュシアにその運命を握られてしまった。
もはや〝家畜〟同然の存在へと成り下がったのだ。
一つの歴史が終わりを迎えた瞬間だった。
◇◆◇
「見て、お母様。あんなに強そうな虎の獣人さんが、ゴミ箱に向かって愛の詩を捧げているわ」
「近寄っちゃいけませんよ。あれはアステリア家への納税を忘れた、哀れな野蛮人なんだから」
グランバルト王国では時折、そんな光景が見られるようになった。
「いつだったかしら、本能のままに生きるのが獣人の誇りとおっしゃいましたわね、殿下?」
エリュシアは、今や自分の便利に使える〝犬〟として、足元で書類整理を手伝うレオンハルトの頭を扇子で軽く叩いた。
「その誇りは私の許可制です。せいぜい、次の更新日まで私を楽しませてくださいな」
気高い獅子のはずの王子は、悔しさに涙を浮かべながらも、逆らえば再び〝石ころ〟を心の底から愛させられる恐怖に震える。
だが、それだけで済めばいい。
もし、エリュシアが別のことを思いつけば、もっと悲惨な運命が彼を待っている。
「……御心のままに、エリュシア様」
かつて傲慢だった獣人の王子は深く頭を垂れるのだった。
偶にイカレぽんちな令嬢を書きたくなる。。。




