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運命の番なんて不要ですので私がすべて書き変えます!  作者: 川崎悠


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01 獣人の本能は私が管理します

 その日、王宮にある大広間で、獣の咆哮にも似た傲慢な宣言がなされた。


 人族(ヒューマン)とも呼ばれている人間たちの国、グランバルト王国に、隣国であるレグナント王国の獣人の王子、レオンハルトが突如として来訪した。


 レオンハルトは武装した配下たちを引き連れており、強引に踏み込んできたのだ。


 もはや、それだけで両国の戦争の理由になり得る野蛮な行為だった。

 だが、当のレオンハルト王子はそのことを歯牙にもかけていない。

 それどころか、その行為をまるで褒め称えられるべきとでも言いたげな様子だ。

 その傲慢な態度にグランバルト王国の人々は怒りを覚えていた。


「見つけたぞ、我が運命の番(・・・・)! エリュシア・ヴィ・アステリア! お前を我が妃として迎えに来た。光栄に思うがいい!」


 黄金のたてがみのような金髪を揺らし、レオンハルトが傲然と指を差す。

 その視線の先にいるのは、アステリア公爵家の令嬢、エリュシア。

 彼女は怯えるどころか、手に持った扇で口元を隠し、退屈そうに目を細めた。


「……(つがい)ですか。相変わらず野蛮で身勝手な論理ですこと。貴方の〝運命の番〟になる気など欠片もありませんわ。(けだもの)の交尾相手など私には不要です」

「なんだと? 獣人の番認識は絶対だ! 魂が共鳴しているのだぞ! お前に拒否権などない!」


 レオンハルトが距離を詰めようとしたその時、エリュシアが懐から一つの魔導具を取り出した。

 それは複雑な魔方陣が刻まれた水晶の宝珠だった。


「……なんだ、それは?」


 レオンハルトは本能で何かを感じたのか、踏みとどまる。

 その様子にエリュシアは、妖艶な笑みを浮かべた。

 その目はレオンハルトへの恋慕も、恐怖もない。

 ただ、下等な存在を見下すような、そんな笑みだった。


「皆様、ご覧あそばせ。獣人の方々が誇る『番認定』というものが、いかに脆弱で、滑稽な間違いに過ぎないかを」


 エリュシアが宝珠を軽く叩くと、淡い紫の波導が広がる。


 不穏な気配を感じたレオンハルトは、その得体の知れない道具を使わせまいと動きだした。

 だが、次の瞬間。レオンハルトの動きが止まる。

 彼の瞳からエリュシアへの執着が消え、代わりに焦点が定まらなくなる。


「あ、が……? なんだ、急に胸の鼓動が……。エリュシア、お前ではない……。そこにいる、そこの……ッ!」


 レオンハルトが勢いよく振り向いた先。

 そこにいたのは、彼に付き従っていた屈強な熊の獣人騎士だった。

 エリュシア以外の誰もが困惑する中、レオンハルトは堂々と口にする。


「おお、我が愛しき番よ! お前こそが俺の魂の片割れだったのか!」

「は!? 殿下、いったい何を……うわあぁっ! 離してください!」


 大広間に集まっていた貴族たちは困惑と失笑に包まれる。

 傲慢な態度だったレオンハルト王子が、髭面の巨漢に抱きつき、愛を囁いているのだ。


「エリュシアよ、これはいったい? あれは其方(そなた)の仕業なのか?」


 グランバルトの国王が大広間で繰り広げられる騒ぎに呆気にとられながら、エリュシアに尋ねる。


「はい、陛下。こちらの宝珠は、獣人たちの番認識を強制的に変更できる魔道具でございます。私がこの身を守るために、そしてグランバルトの民を救うために開発したものです」

「なんと! 番認識の変更……? それでレオンハルト王子は突然ああなったのか!」

「はい、陛下。彼が私に向けていた認識を隣に立つ騎士に変更しました」


 エリュシアの言葉に人々は驚愕する。


「なんだと……? 番認識の変更だと……!」

「そのようなこと許されると思っているのか!」


 混乱し、今にも暴れだそうとする獣人たちをエリュシアは冷酷に見下ろし、告げる。


「あなたたち獣人は、私たち人間がいくら言葉を尽くして拒絶しても『本能だから仕方ない』と笑って奪ってきました。運命の番はすばらしい、番を認識できない人族は哀れだ、運命の番なのだから結ばれることこそ幸せだ。そんなふうにのたまいながら、多くの民を傷つけてきたのです」


 人間の国であるグランバルト王国。

 獣人の国であるレグナント王国。

 二つの国の諍いは長く続いてきた。


 その多くは種族同士の折り合いの悪さに起因している。

 とりわけ重大な問題になっていたのが運命の番問題だ。

 獣人たちは人間の国に訪れた際に運命の番と認定した者を強引に連れ去ろうとする。

 時に、恋人がいる者でも、夫婦であっても。

 運命の番と結ばれることこそが本当の幸せだと、なんの罪悪感も抱かずに。


 エリュシアもまたレオンハルト王子に目をつけられていた。

 公爵令嬢であるから身を守ることが今までできていたが、これが市井の民であれば、きっと成す術もなく誘拐されていただろう。


「そこまで言うのならば、その本能ごと飼い慣らされる気分はいかがかしら? 今この会場にいる、すべての獣人たちの『番』を私が変更しましたわ。その対象は……貴方たちの中にいる同性の獣人、或いは〝庭の生垣〟ね。……ああ、私の気分次第で、城にある『汚物入れ』に運命の番相手を書き換えて差し上げてもよろしくてよ? ふふ、ふふふ」


 ニィと笑うエリュシア。それはレグナントの獣人たちにとっては残酷な微笑み。

 だが、グランバルト王国の民にとっては痛快なものだった。


「き、貴様……! エリュシア! 貴様は獣人の誇りを、神聖な絆を汚すのか!」


 自らの衝動をどうにか抑えようと、レオンハルトはその場に伏している。

 そうしてエリュシアに向かって叫び、非難するが……。

 その目は、まだ隣の騎士を熱烈に追っていた。

 その無様な様子に、エリュシアはさらに笑みを深くする。


「神聖な絆? 笑わせないで。相手の人生を無視して一方的に所有権を主張する。そんなものは、ただの家畜のマーキングですわ」

「なっ……!」


 レオンハルトはここに来るまで、力尽くでもエリュシアを奪い、さらって帰るつもりだった。

 だが、今やその立場は完全に逆転している。


「ねぇ、レオンハルト殿下。今なら特別に、その騎士様への愛を解除して差し上げてもよろしくてよ? 代わりに〝自国のゴミ捨て場〟を、貴方が一生愛する運命の番として設定して差し上げますわ」


 ヒュッと息を飲む獣人たち。


「幸い、貴方たちで実験は成功しました。番と言いながら、生殖行動とは相容れない同性に向けることもできましたし。無機物へその執着を向けることもできるようですわねぇ?」


 レオンハルトは連れてきた配下たちを振りむき、その様子に愕然とする。

 ある者は男同士で抱き合いながら、困惑と喜びに涙を流している。

 ある者は恋焦がれる者がいるはずなのに、それがありえない相手だと焦燥に涎を垂らして耐えている。


「この魔道具は高位貴族家、諸侯へ広めておきます。アステリア家主導で量産もしましょう。我が国では、これより獣人とは『番の相手を変更して弄ぶ玩具』となりますわ。ああ、市井(しせい)の人々にも広めようかしら? 他国にも広めてしまうのもいいわねぇ? 今日から世界中で貴方たちは玩具になるの。ね、とっても楽しいでしょう?」


 エリュシアの残酷な宣言。その言葉に絶望を突きつけられる獣人たち。


「そんなこと、そんなことは許されない……! そのような非人道的な……!」

「獣人にそのようなことをのたまう資格などないわ」


 ピシャリと断言するエリュシア。


「貴方たちの運命のすべてを引き裂いて差し上げましょう。妻がいる者、娘がいる者、喜びなさい? 彼女たちは望んで貴方たちを捨て、誰かの都合のいい女となり果てるでしょう。夫がいる者、息子がいる者、喜びなさい? 彼らは無機物を愛し、或いはゴミや汚物を愛して、それらを餌にされて、人間の都合のいい道具となり果てるでしょう」

「や……やめ……ろ、エリュシアぁあああ……!」

「ふふ、ふふふふ、あはははははは!!」


 エリュシアの優雅な高笑いが、プライドをズタズタにされた獣人たちの絶叫をかき消した。


 この日、獣人国による〝番の連れ去り〟という名の拉致事件は終焉を迎える。

 代わって〝獣人専用・精神矯正魔導具〟がアステリア公爵家の筆頭商品となった。


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― 新着の感想 ―
ゴミ捨て場や下水はともかく、同性と生垣はどっちがましなんでしょうかねぇ。 無機物だけと植物だし、特に誰にも迷惑かけなさそうなので生垣はだいぶましな感じはする。 しかし、こう番というものは揶揄されるが、…
相手の拒絶も無視して散々人攫いしてきた言葉が通じない獣に 「人道」を説かれたくないですねえ…(鼻ホジ) 大事なのは「番を手に入れた、手元に置けた高揚感」で 番の気持ちなんかどうでもいいようだし、無機…
人間側の意思を力で踏みにじってきたのだろうに、どの口が『非人道的』などと言うのか。 いいぞエリュシア様、やっちゃえー!(^O^)/
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