プロローグ ほのぼの登山道
私こと、PS5プロは早朝から、女友だち二人を引き連れて登山道を歩いていた。正式名称は長いので、皆さまにはプレステなどと呼ばれている。仕事は配信業など、多岐に渡っております。梅雨の時期だけど、今日はいい天気で良かった。
「プロさん……ま、待ってー」
私たちは同業者で。今、弱弱しい声をあげたのは、最近になって機種販売を果たした最年少のツーだ。スイッチ2と言ったほうが、聞き覚えはあるだろう。小型の携帯機である彼女は、どうにも体力がない。ノートパソコンなんかも小型機は排熱が難しいから、仕方ないよね。
「ほら、ツーちゃん。しっかりしないとプロちゃんに置いて行かれるよ。手を引いてあげる」
私は先頭を歩いていて、その後ろに二人がいる。ツーと手をつないで励ましているのは、シリーズⅩだった。正式名称だとエックスボックスというのが苗字みたいなもので、私は彼女をⅩ箱と呼んでいる。エックスだとSNSの、元ツイッターと区別ができないので。
「朝の内に来て良かったでしょう? 昼になったら気温が上がるから、もっときつくなるわよ」
「眠ーい、きつーい。プロさん、厳しーい……」
私の言葉に、ツーが不満を漏らす。Ⅹ箱は笑いながらツーの手を引いていた。別に意地悪で早く集合したわけじゃなくて、私はゴルフをしたことないけど、あれも早朝から始めることが多いらしい。そうしないと帰りが夜になって、不都合が起きたりするのだろう。山登りなら遭難しかねないから大変だ。
「ほら、ブツブツ言わない。インドアの仕事ばかりしてると、運動不足で不健康になっちゃうんだから。たまに、こうやって歩かないと体力が付かないの。さぁ、歩いて歩いて」
三人での山登りを提案したのは私で、ちょっと先輩風を吹かせてもらった。ちなみにシリーズXの発売時期は私より早いのだけど、初代エックスボックスが発売された時期はプレステよりも後なので、Ⅹ箱は私を先輩として扱ってくれている。ありがたいことだった。
『中の人など、いない!』というのはネットスラングだけど、配信業をしているブイチューバーだって、実際には中の人がいるのだ。外での運動だって必要だし、それは私たちゲーム機だって同じなのである。
「ツーちゃん、頑張って。ここ、初心者用のコースだから、そんなにきつくないよ。落ち着いて、ゆっくり息を吸って、吐いてみて」
「うん、頑張る……。箱ちゃん、ありがとう」
私の背後で、微笑ましい空気が流れる。場所を特定されたくないから詳述は避けるけど、体力がないツーでも登れるくらいの登山コースを私は選んでいるのだ。帰りはロープウェーを使うから、子どもでも登れる程度の負荷に過ぎない。
私たちゲーム機も、こうして見えないところで、地味な努力というか体力づくりを行っているのであった。まあ『中の人など、いない!』ということになっているので。私たちを見かけても、声など掛けず、そっと見守ってもらえればありがたい次第だ。