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34、我が支部が神殿になるらしい

 朝、会議室に呼ばれた。


 時刻は八時ちょうど。普段なら、まだ誰も動き出していないような時間。

 スケジュールにそんな予定は入っていなかったけれど、受付が「急ぎで」と言ってきたので、念のため出てみた。


 てっきり昨日の面接――つまり魔王関連の事後処理か何かだと思っていたのだけれど、話はもっと、こう……桁が違う方向へ転がっていた。


 会議室に入った瞬間、空気の重さで察した。

 いつもより椅子の並びがきちんとしていて、机の上の書類がぴしっと整っている。出席者の顔ぶれも妙に堅く、背筋がやたらと真っ直ぐだった。


 空気にうっすら漂っていたのは、緊張感というより、神聖感。

 これはもう、「ただごと」ではない部類。


 どうやら、人類評議会が、うちの支部の“扱い”について、正式に議題として取り上げたらしい。

 ……どうして?


 ⸻


「この支部を正式に、“神殿相当施設”として登録する案が出ています」


 開口一番、そう告げたのは、上層部から派遣されてきた総務管理官だった。

 妙に張り詰めた丁寧な声色で、こちらが思考の準備を整える前に、会話は進み出す。


「ふむ」とだけ返すと、すかさず管理官が資料のページを一枚めくった。

 こういう時、変に詳しく訊いてはいけないという直感がある。


 そのページには、見出しでしっかりと「神殿相当施設登録要綱案」と書かれていた。


 ……本当に“神殿”として扱う案が進行中らしい。

 しかも“相当施設”というだけで、内容的にはほぼ神殿。完全なる神殿。どこからどう見ても神殿。


 そういうのって、ふつう物語の中だけの話じゃなかったっけ。

 なんで私、現実で関わってるんだろう。寝ぼけてる?


 ⸻


 念のため、「神殿化すると、具体的に何が変わるんですか」と訊ねてみたら、もうすでに箇条書きが用意されていた。


 ・国家予算の特別枠が適用される

 ・巡礼者対応マニュアルの整備と実施が義務になる

 ・職員の一部は“聖務官”という扱いに変更される可能性がある


 ふむふむ、と読んでいたところで、どうしても気になったことがあったので素直に口にしてみた。


「つまり、制服が変わる?」


 すると、隣に座っていたケイが即座に顔を覆った。

 管理官は少し間を置いて、「そこじゃないです」と言い切った。


 でも、重要だと思う。制服って、働く上でのテンションにかなり影響を与えるものだ。

 もし神殿仕様で純白の装束とかになったら、絶対暑いし、洗濯も大変だし、アイロン必須だし、そもそもデスク作業に向いてない。

 実用性を優先してほしい。


 ⸻


 なぜ神殿化の話が出たのかというと、ここ最近の大きな出来事の発生地点が、ほぼすべて「この支部の中」、というか「私の周囲」であることが発端らしい。


 ・バグの修復(端末にパスワードを入力)

 ・反乱軍の降伏パンをあげた

 ・地底文明との交流(おにぎり食べてただけ)

 ・魔王面接(これは昨日)


 これらの出来事が、偶然とは思えないくらいピンポイントで集まっていたため、「ここが神の意志の発露地点ではないか」という噂が、どこかの議員あたりで燃え上がったらしい。


 つまり、私の優秀さが原因、ということになる。まったく、優秀すぎるのも困りものだ。


 少しだけ誇らしくなったので、となりのケイの肩を人差し指でつんと突いたら、即座に嫌そうな顔をされた。無言の圧がすごい。


 ⸻


 その後も話し合いは続いたが、最終的に神殿指定は見送られることになった。


 理由は、「制度の前提を崩す存在は、制度の中に入れられない」から。


 なんだそれ、と思ったが、管理官の目が本気だったので突っ込めなかった。どうやら評議会の議事録には、「ありがたくて、恐ろしい。ゆえに不可侵」と記録されたらしい。


 結局よくわからなかったけど、それっぽく「ふむ」と頷いておいたら、場の空気が丸く収まった。

 演技力、ちょっとだけ自信ある。


 ⸻


 というわけで、今日も第七支部は、ある意味でいつもどおり。


 午前中は、机に積み上がった帳票を片っ端から処理した。

 伝票の端に“祝・神殿化”と書かれていたものが数枚あって、みんなそれなりに浮かれていたらしい。

 微笑ましいけれど、帳票としては不正なので、そっと修正液で消しておいた。


 午後は、魔王とお茶。

 彼は今日も律儀に手袋を外してから、最中をひとつつまんだ。

 私と同じで、クッキーより和菓子派らしい。


 たぶん、彼とはけっこう気が合う。もし同僚になったら、一緒にアフタヌーンティーとかしたいな。

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