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3、伝説の勇者が落とし物を取りに来た

 昨日、地下倉庫の掃除をしていたら、やたらと派手な剣が落ちていた。

 柄は金ピカ、刃は虹色にギラギラ光っていて、どう見ても厨二病をこじらせた誰かがデザインしたとしか思えないシロモノだった。

「装備すると攻撃力+999」とか、「闇を断ち、時空を裂く」とか、そういうキャッチコピーが頭に浮かぶタイプの武器。見ただけで笑える。


 もちろん、現実はそんなにドラマチックではない。手に取ってみても、別に何も起きなかった。光も爆発もしないし、声も聞こえない。むしろ何もなさすぎて少し寂しかった。たぶん、ただのゴミ。

 ちょっと重かったけど、掃除の邪魔だったので、道具庫の隅に押し込んでおいた。処理完了。これぞプロ意識。


 いい掃除だった。心も倉庫もスッキリ。


 ──そして、今日。


 朝9時。支部に一歩入った瞬間、空気が妙にピリついていた。

 肌寒いとかそういう話ではなく、なんかこう……誰もが私を避けるような、静かな緊張感が漂っていた。ケイもセシルさんも、目が合うとすぐに逸らす。まるで私が光り輝く何かでも背負っているかのように。

 私は思った。「ああ、また私が何かしら貢献してしまったな」と。心当たりが多すぎて、どの件か特定できないのが難点だけど、過去に縛られないのがプロってものだ。


 10時、来客。受付で「偉い人が来てます」と聞いて応接室に行ってみたら、すごいのがいた。

 全身ゴールド。靴まで金。マントは風もないのにバサァッてなってる。あまりにも主張が激しすぎて、最初は人じゃなくて黄金製のマネキンかと思った。でも、ちゃんと中に人間がいた。


 顔をよく見ると、テレビで見たことのある人だった。「伝説の勇者・アレン」と、確か字幕に出ていた記憶がある。あの時は魔物と戦った直後で、背景が派手に爆発してた。


「はじめまして。勇者のアレンと申します……」

「どうも、新人職員のリュカです」


 こういう時こそ礼儀が大事。基本を忘れないのが信頼への第一歩。


「……その、えっと……昨日、こちらの支部に“聖剣”が誤って持ち込まれたと聞いて……」

「聖剣? ああ、あの派手なゴミですね」


 室内が一気に静まり返った。言葉の選び方にもう少し工夫が必要だったかもしれない。でも私は常に正確な情報共有を心がけている。誤解のない言葉こそ、仕事の基本だ。


「昨日、地下の封印層ってところに迷い込んだら、派手な剣が落ちてたんです。拾っておきました。落とし物はちゃんと届ける派です」

「……迷い込んだ? あそこ、10重の魔法結界が……」

「通れました。ちょっとピリピリしましたけど。歓迎されてたのかも」


 ※あとから知った話だが、普通は“ピリピリ”の時点で全身が焼けて蒸発するらしい。

 私は肌が丈夫なだけなのか、それとも心が強いのか。あるいは単に勇者適性が高いのかもしれない。


「その剣、ちょっと切れ味が悪かったですよ? スイカにも刃が通らなくて」

「使ったの!?」

「試し切りくらいは当然ですよね? 品質チェックですし」


 セシルさんが「当然じゃない!」と叫んでいた。

 セシルさんはたぶん、ジャムの瓶も開けずに並べて満足するタイプ。


 アレンさんは、道具庫の隅で“聖剣”を見つけて、小さく呻いた。

「……少し刃こぼれしてる……」と呟いたあと、その場で正座して、静かに剣を研ぎ始めた。


 私は少しだけ反省した。

 今度からは、ちゃんと磨いてから返そう。使ったら整えるのがマナー。道具へのリスペクト。


 ──昼休憩。ケイがぽつりと言った。


「……お前、自覚ある?」

「ありますよ? 私は物を大事にするタイプです」

「ちがう、そうじゃねぇ……」


 ケイの目がやけに遠くを見ていた。きっと、感動しているのだろう。彼は情に厚い男だから。


 ──午後。アレンさんが帰る前、深々と私に頭を下げた。


「聖剣を……無事に返してくれて、ありがとう……。あと、被害が最小限で済んで……よかった……」

「いえ、こちらこそ。私はただ拾って返しただけです」

「……君が敵じゃなくて、本当に……よかったよ」


 最後の言葉が少し引っかかったけれど、たぶん信頼の証。

 私の誠実さと清廉さが、無意識のうちに滲み出てしまっているのだろう。そういう体質。


 ──


【本日のまとめ】

 ・聖剣:返却完了(やや刃こぼれ)。次は研いで返そう

 ・勇者:いい人だった。よく震えていたけど、あれは感情の震え

 ・封印層:普通は入れないらしい。でも私は入れた。歓迎されてた可能性

 ・自分の行動:落とし物を届けただけで、また褒められた。社会貢献度高め


 ──


【備考】


 ※ケイからのメモ:「お前、伝説の封印層に勝手に入った件、本来なら懲戒処分だぞ」

 → 反省はしている。次からは、入っても黙っておこうと思う(対応力の進化)。


 ──


 明日の私はもっと素晴らしいと思う。

 おやすみなさい。

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