1、配属と爆発と睡眠と
就職した。
ニートの私・リュカが親に家を追い出されて、就職活動を始めて5か月。ついに職が決まった。
長かった。面接落ちまくって、信じられないくらい履歴書燃やされた。
でも今日から私は、「ダンジョン管理課第七防衛支部」の一員である。天下の公務員だ。ここは文字通り、ダンジョンとかの管理をしているところらしい。
しかもなんと“準正式”。
準がついてるから、たぶん今は研修期間で、終わったら正式採用になるんだと思う。やさしい世界。
職場に着いたら、まず寮の部屋に案内される。その部屋には、ベッドと机と謎の結界があった。
この結界はたぶん、歓迎の印だと思う。光ってるし。たまに火花出てるけど、それもお祝いっぽい。「危険なので触れないでください」と言われたけど、触る前に感電したから大丈夫だった。
むしろ先回りできた自分、えらい。
今日はオリエンテーション。簡単な業務説明と、雑用をするらしい。
説明された内容はとても多かった。
トラップの位置、敵対勢力の名前、結界の動力源、トイレの場所。
あまり覚えられなかったけど、トイレの場所だけは完璧に覚えた。私はもしかしたら優秀かもしれない。
それにしても、ここの人たちは真面目すぎる。トラップの配置がミリ単位で管理されてるし、報告書の文字数に上限がある。「余分な感情を挟まないように」だって。
たぶん、感情をなくすと魔力が安定するのかな。私は感受性が豊かなので、その辺は無理だった。仕方ない。
初仕事は「書庫の整理」。
埃と呪文と謎の火花が舞う中、最初に開いた本が爆発した。たぶん、中身が情熱的すぎたんだと思う。燃える知識ってやつ。
副官のセシルさんが無言で消火魔法をかけてくれた。やさしい。
「なぜあなたが書庫に入った瞬間、本の結界がひび割れたのかは、明日ちゃんと検証します」と言われた。
たぶん、相性の問題だと思う。結界と私の魔力が出会ってしまった。それは運命。化学反応。そういうこともある。
私魔力ないけど。
同期のケイには、「勤務開始三時間で被害報告が三件は多すぎるだろ」と呆れられた。
でも、私は私なりに頑張ったから100点満点。新人はミスをするものだしね。
そのあと「しばらく休憩してていいから、なにもしないで」と言われたから、私は真面目に従った。
でも私ばかり楽させてもらって申し訳ないから、書庫整理の続きをこっそりやった。
本は爆発した。
夕食はなぜか全体的に青白かった。
でも光ってないから大丈夫。加熱用の牡蠣を生で食べている私からすれば、むしろ安全ゾーン。
隣の人が「これ腐ってるぞ」と言ってたけど、熟成と言ってほしい。私はちゃんと噛んで飲んだので、セーフ。
夜。
ふと廊下を歩いたら、魔法トラップに片足を突っ込んだ。でも私は反射神経がいいので、電撃より一瞬だけ早く床に倒れた。勝利。
死んじゃったし、体はちょっと焦げたけど、オリエンテーションの時にかけてもらった蘇生魔法の回数が残ってるから問題なし。残り2回。余裕。
総じて、今日は良い一日だった。
仕事をして人の役に立つのって気持ちいい。私は仕事に向いているみたいだ。
私は期待の新人。
その期待に自分のペースで応えていきたい。働きすぎると体壊すしね。
安全第一。それが、プロの流儀。
今日も素晴らしい1日だった。明日も頑張ろう。
おやすみなさい。爆発音が子守唄。
翌朝。
ログインしたばかりの通達端末に、通知が来ていた。
「次元安定貢献ポイント:9999」
「全層魔法フィールド安定率:リュカ個人により向上(効果解析中)」
意味はわからないが、多分褒められてる。私は褒められたら素直に喜ぶ主義だ。
やっぱり私って、できる子。
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