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適当に生きろうとする俺をほっといてくれないクラスの美少女は何故か死んだ初恋と似ている。

作者: ねる

(あまね)、ね、周くん」


 俺は俺の名を呼ぶ声に夢から覚めた。


「周くん起きて。八時だよ、ね、起きて」


 さっきからうるさい声に俺は眠い目を擦りながら声のする方へ顔を向ける。すると、制服姿の女の子が目に入った。


「あ、やっと起きたんだ。おはよー、周くん」


 女の子は明るい笑顔で俺に手を振っている。この時間にあまり会いたくないやつだ。亜麻色の長い髪のふわふわな髪の毛、一度も日光に当たったことないみたいな白い肌、整った鼻筋と大きな瞳、あと、俺に向かってニコニコ笑うあの顔、間違いなく同じクラスの久保日菜(ひな)だ。

 俺は大きなため息をついた。日菜がこんな時間にわざわざうちに訪ねてくる理由なんて一つしかないから。あまり学校に行かない不登校である俺を連れて行くためだ。毎朝甘い睡眠から俺を起こし、無理矢理に学校に連れて行く。この仕業を先週から毎日している。

 一体どうやって部屋に入ってきたのか疑問だったが、日菜の話によるとうちの母さんがドアを開けてくれるらしい。

 とにかく今大事なのはこのままじゃ今日も学校に行くことになってしまう。先週は真面目に毎日行ったから、今週は休みたい。


「周くん、起きたら早く準備して。そんなにぐずぐずしてると遅刻してしまうよ」

「今日の俺はマジで学校行く気分じゃないから休む。お前一人で行け」

「私こう周くんの家まで来たのに一人で行けはちょっとひどくない?」

「お前っていうな、日菜と呼んでよ。あと、私こう周くんの家まで来たのに一人で行けはちょっとひどくない?」


 俺が言ったが、やっぱりちょっと酷かったかな。しかし、俺から日菜に家に来てほしいと頼んだことない。だから、ひどいのは日菜と思う。


「とにかく今日はマジで学校に行くつもりないから、お前もさっさと諦めて学校に行け」


 と言い、俺は日菜から顔を逸らす。日菜が部屋から出るまでこうしているつもりだ。

 そんな中、日菜の方からハーッとため息が聞こえる。


「じゃあ、周くんが学校に行けない理由を一つでも言ってごらん。納得できる理由なら今日はすっぱり諦め一人で行くよ」


 俺はびっくりしてつい日菜の方に顔を向けてしまう。日菜の表情からすると、嘘ではないみたい。


「毎日学校行くのが面倒だから」

「却下。あれは理由になりません。他の理由を言ってね」


 他の理由? そんなのない。本当にただ毎日真面目に学校に行くのは面倒くさいから。毎日朝早く起きて準備して学校に行く。想像するだけで頭が痛くなる。


「他に理由はないんだよね?」

「・・・・・・」


 悔しいけど頷くしかなかった。結局仕方なく今日も学校に行くことになってしまった。このままじゃ今週も学校に行くことになる。早くなんか対策を立てなきゃ。


「じゃあ、早く準備して。もうそろそろ出ないとやばいよ」


 日菜が自分のスマホを見せながら催促する。まだ七時五十分だ。うちの学校の学校時間は八時二十分までだから、今から準備して学校に行くと、多分八時半ごろには着くはずだから、まだ全然余裕だ。十分くらいは先生も見逃してくださるだろう。

 俺は大きくため息と共にベッドから立ち上がる。さっきから続ける日菜の小言を無視しながらドアの方に歩く。


「周くん? どこ行くの?」

「トイレ」


 と短く返事してすぐ部屋を出た。朝っぱらから疲れた。もっと寝たい、あいつ一人で学校に行ってほしい。俺のためにこうするのは分かるけど、率直に面倒くさい。もう俺のことほっといてほしい。また昔の穏やかな朝を取り戻したい。しかし、日菜は俺の言うこと全然聞かない。ほっといてくれと何度言っても俺のこと諦めてくれない。


「もう俺をほっといてほしいんだけど」


 俺はトイレの洗面台の前で歯ブラシに歯磨き粉をつける。歯ブラシを口に入れて適当に歯を磨いて水で口を濯ぐ。あと、顔を洗ってタオルで水を拭く。これで洗顔は終わりだ。

 俺はトイレを出て部屋に戻った。すると、部屋で待っていた日菜とぴたり目が合った。日菜は俺の制服を持ってつかつかと歩み寄る。後ろはドアで逃げ場がない。日菜は俺の前に立った。一体どういうつもりなんだと思った瞬間、突然手を伸ばして俺のパジャマを脱がそうとする。俺はいち早く日菜の手をとって阻止する。だが、日菜は諦めずに脱がそうとする。


「おお前急に何を」

「私が着せてあげるから、黙っていて」

「俺一人で着られるから、ちょっと離れて」

「周くんの着替える速度では遅刻するに決まってる。だから、私が早く着せてあげる方がいいの」

「いいわけないだろ! 普通に考えてお前の前で服を脱げるわけないだろ。今日は早く着替えるから、お前は下で待ってろ!」

「先週もそう言って遅れたじゃん。私もう信じないよ」


 日菜の攻撃が激しくなる。どうしても諦めるつもりはなさそう。結局俺は右手で日菜の両手を掴んで左手で部屋のドアを開ける。あと武力で日菜のやつを部屋から追い出してすぐドアを閉めた。念の為ドアに鍵をかけた。

 外から日菜の講義の声が聞こえる。


「ね! 私が着せてあげるって言ったのに、なんで追い出すんだよ!」

「馬鹿なこと言うな! マジで早く着替えるから、お前は大人しく下で待ってろ」

「わかった。じゃ、下で待ってるよ」


 日菜が階段を下りる音が聞こえる。俺はしばらく息を整えた。ちょっと落ち着いたあと、パジャマを脱ぎ制服に着替えた。あと、スマホと先週床に適当に投げておいた鞄を持って部屋から出る。下に下りてすぐ玄関に向かった。母さんと日菜が玄関で楽しそうに話している。いつからあんなに親しい関係になったのか疑問だ。

 俺は母さんの後ろに立ち、俺に気づくように咳払いした。だが日菜と母さんは全然気づけなかった。っていうか、俺に全然興味ない。俺が何度も咳払いしても、こっちを全然見ない。結局俺は母さんの方を叩いた。すると、ようやく母さんは驚いた目で俺を見上げる。


「あら、いつからそこにいたの」

「さっきから」

「周くんもう準備終わったの? 思ったより早かったね」

「ま、早く着替えるって言ったんだから。そんなことより母さん、俺の弁当は?」

「もちろん、作ってないよ」

「そっか」


 このくらい予想したことなので別に驚くことでもない。俺があまり学校行かないから、ある瞬間から母さんも弁当作ってくれなくなった。今日も学校の売店で解決しよう。これで母さんに用事が終わった。俺は玄関で靴を履いた。日菜はすでに靴を履いていた。


「学校行ってくるね」


 俺は母さんに軽く手を振った。日菜は母さんにお辞儀する。


「お母さん、今日もありがとうございました」

「あら、こっちこそ毎日こんなダメな息子の面倒を見てくれてありがとう。どうかこれからも仲良くしてね」

「はい、永遠に仲良く過ごしますから、ご心配しないでください」


 なんか暖かい雰囲気になってる。なんか俺一人だけ別の空間にいるような気がする。これ以上見ていられなくて俺はドアを開けて先に家から出た。すると、日菜が慌ててついて来た。

 あと、日菜が遅刻だけは絶対にダメって言って必死に学校まで駆けて行った。だが、やっぱり結果は遅刻エンディングだった。


*****


 学校が終わった後の帰り道、俺は今日菜と一緒に帰っている。

 数分前、学校のクラス。家に帰る準備をしている俺に日菜が近づいてきた。


「周くん今日は一緒に帰ろう」


 今日は一人で静かに帰りたかった俺は当然断った。しかし日菜は俺の手を捕まって自分の鞄からあるものを取り出して俺に見せた。とても見慣れた鍵だった。


「この鍵はまさか」

「そう、周さんの家の鍵だよ」

「うちの鍵? なんでそれをお前が?」

「今朝周くんのお母さんにいただいたの。周くんは忘れそうだと」


 確かに今朝家の鍵をうっかり忘れてきたけど、かといって家の鍵を他の人に預けるなんて。うちの母さんだけど、防犯意識が低すぎる。


「あとお母さんに周くんなら早退するかもしれないから必ず家の前で渡して欲しいと言われたから、周くんは今日私と一緒に帰らないといけません」


 ちゃんと最後の授業まで受けたから今上げてもいいじゃん、と言いたかったがこんな真面目なやつに通じるわけなかった。そしてこれをよく知っていた俺は説得を諦めた。

 今家に母さんや父さんがいたら鍵なんてなくても帰れるけど、うちは共稼ぎだから一人で帰っても俺にドアを開けてくれる人がいない。

 他に選択肢がなかった俺は仕方なくわかったと返し、一緒に帰ることになった。


 こういうわけで今俺の隣で日菜が歩いているのだ。


「それで昨日ブロッコリーが、ね、聞いてる?」

「いや、全然。そのブロッコリーかピーマンの話はもうやめてくれる? 全然興味ねぇから」

「ちぃーわかった」


 日菜は口を尖らせて前後に腕を大きく振りながらつかつかと先に行ってしまう。その瞬間、日菜の右手に手紙っぽいなものを持っているのが目に入った。クラスを出た時までは確かになかったと思う。


「お前その手紙はなんだ」

「これ? ラブレター。下駄箱の中に入ってんだ」

「あ、そう」


 ラブレターと言われてもあまり驚かない。こいつ面倒臭いやつだけど見た目だけは可愛いから結構学校でモテる。

 先週もある男子に告白される姿を見た。多分俺が学校に来なかった日にもたくさん告白されたんだろう。


「しかもこれあの二組の竹内くんからのラブレターだよ。マジやばいでしょ」


 二組の竹内、あまり学校に行かない俺も聞いたことある名前。イケメンで学校で有名なやつだ。

 あんなイケメンと日菜がカップルか、結構似合うかもしれない。


「でも断るつもりなんだけどね」

「え、なんで?」


 俺はびっくりして思わず理由を聞いてしまった。すると日菜はいつもとは少し違う真剣な声で言った。


「私には昔から心に決めた人がいるから」

「つまり初恋?」

「そう、あの人は私に希望をくれたんだ。だから私はどうしてもあの人と結婚したい。あの人以外にはやだ」


 そんな理由で今までの告白を断ったってことか、しかも学校の有名なイケメンの告白まで、変わったやつ。

 初恋の人と結ばれる前までは日菜に絶対彼氏ができないことは少し残念だ。日菜に彼氏ができたら俺も自由を取り戻せると思ったのに。


「そういや周くんは好きな人いるの? いや、その前に好きだった人いる?」

「お前さ、なんで当然俺が話すと思ってるんだ」

「じゃあ話さないの?」

「当たり前だろ。絶対話さない」

「そっか、じゃあ仕方ないね」


 日菜はいきなり立ち止まる。


「私、周くんが話すまでここから一歩も動かないから勝手にしなさい」

「はぁ?」


 日菜は腕を組んで断固たる表情で俺を睨む。困った。普段なら置いて行っても構わないが、今日はそうできない。家に入るには日菜が(正確には日菜が持っている鍵が)絶対的に必要だ。

 俺は仕方なく日菜の望む答えをするしかなかった。


「わかったわかった。話してやるからとりあえず行こう」

「本当に?」

「本当に」

「それならまあ」


 日菜の顔にさっきの表情は消え、いつもの明るい笑顔で俺の隣に立つ。


「それでそれで、好きだった人いる?」

「もちろん、いる」

「えぇ、本当に? 意外だね。周くんなら絶対そんなの面倒くせーからない、と言うと思った」

「お前さ、一体俺をなんだと思ってるんだ」

「ふぅ〜む、ダメな人間?」


 日菜がイタズラっぽい笑顔で言った。呆れすぎて言葉が出ない。確かに俺は不登校だし、将来のことなど真面目にちゃんと考えてないけど、だからといってダメな人ほどではないと思う。


「そんなことよりあの人はどんな人なの?」

「それ気になる?」

「うん、めーーっちゃ!」


 日菜が大きく手を広げて言った。


「ちなみに私の初恋は今めっちゃダメな人間になちゃってちょっと困ってる」

「そっか」


 実はあの子についてあまり話したくない。しかし今の俺は日菜の言うことを素直に従うしかない。あともうすぐで家に着くから。


「あの人とはほぼ十年前初めて会った。十年前会った時の彼女は自分より他の人を優先する人だった、いつも笑顔で人を安心させてくれるそういう人。あとすごく可愛かったし、俺の初恋なんだけど・・・」


 急にまた日菜が立ち止まる。


「なんだ、急に。またなんか不満か」

「・・・いや、そういうのじゃない。ただちょっと恥ずかしくて」

「何が」

「それが、、、周くんの初恋、私じゃなかった」

「当たり前だろ。逆になぜお前が俺の初恋だと思ったんだ!」


 そもそも日菜とは高校で初めて会ったのに、自分が初恋という発想は一体どこから出たのだ。大体な人なら高校に入る前に初恋を経験したはずなのに。

 日菜は赤くなった顔で俺の隣に歩いてくる。また家に向けて歩き出した。しかし、どういうわけか珍しく日菜が静かだった。俺と日菜の間に流れる。

 いつもうるさい人が急に静かになるから逆に不安だ。まあでも静かでいいな、と思った瞬間、日菜が俺を見上げて話しかけた。


「じゃあ今のあの人はどう?」

「俺も知らん。彼女と最後に会ったのがほぼ十年前だから」

「そっか、じゃあ・・・・・・周くんはあの人のことが今も好き?」

「それは、、、残念ながら答えてやれないね」

「えぇ、どうして」

「だってもう家に着いたから」


 俺は日菜に横の家を指す、うちの家だった。日菜は少し残念そうな顔で俺を見つめる。俺はそんな日菜に手を伸びる。


「じゃあ家の前についたから、早く家の鍵ちょうだい」

「そういう条件だったからね。残念だけど、はいここ」


 日菜はポケットから鍵を出して俺の手に置いた。


「あと明日も迎えに来るから、早く起きなさい。明日は定時に遅くないようにね」

「マジで頼むから来るな。最近真面目すぎたから明日は休む」

「ははは、冗談はやめて」


 冗談ではないのに、日菜は爆笑する。


「お前さ、マジで頼むから俺のことほっていてくれよ」

「それはダーメ」

「やっぱり。じゃあ何で俺をほっていてくれないのか理由でも教えて」

「理由か、一種の恩返しというかな」

「恩返し?」


 俺は日菜の答えを全く理解できなかった。全然心当たりがない。なのに日菜は何の説明や解明もなく、笑顔で俺に手を振る。


「じゃあまた明日」


 と言いつつ、日菜は遠ざかる。俺はそんな日菜の姿に自然に深いため息をつき


「いや、明日来るなって言ったのに」


 結局俺は疑問を抱いたまま家に入った。


*****


 その日の夜、夜中に俺は目が覚めた。見慣れぬ天井と慣れないベッドの感触、俺の部屋じゃない。

 俺は周囲を見渡す。暗くて見えにくい。この部屋で唯一に見えるのは窓の外の星たちと月しかない。


「綺麗な月だよね」


 そんな中、どこか聞き覚えのある声が聞こえる。俺は声がした方に顔を向ける。すると患者服姿の少女の姿が目に入った。

 患者服姿の少女は窓からの月光を浴びながら窓の外を眺めている。その少女の横顔を見た瞬間、俺は気づいた。

 俺はこの少女を知っている。この少女は俺の初恋であり、今も好きな人だ。あと、これは現実ではない。これは俺の記憶からの()、つまり十年前の俺と少女が交わした会話の記憶だ。


「しかも満月だよ。見て周くん、めっちゃ綺麗」


 少女が月を指す。少女について俺も夜空を見上げる。


「どう綺麗でしょ?」


 少女は俺を見て微笑む。俺は無言で頷く。確かに月は綺麗だったが、俺の目には俺を見て微笑む少女の笑顔があの月より綺麗だ。


「ああ、手術前にこんな綺麗な空を見てよかった。もう死んでも悔いはない」


 少女は満足げな表情で窓から目を離す。俺も少女をついて窓から目を離し、少女の顔をじっと見つめる。暗くて見えにくいでもいいから少女の顔を見たかった。十年の間、少し薄れた少女の顔を、もう逢えない少女の顔を脳裏に刻みたかった。


「周くん、何でさっきから私をジロジロ見るの。そんなに?」

「うん。好き」

「な、なんだ、いきなり。いきなりそんなこと言ったら・・・」


 少女は真っ赤になった頬に手を当てる。その姿も可愛かった。


「だからといって周くんが嫌いなわけじゃないよ。むしろ私も周くんのことが好きなんだけど・・・」


 日菜は照れるのか、声がだんだん小さくなって結局最後には聞こえなかった。今は抱いた枕に顔を埋めて顔すら見せてくれない。

 しばらく後、やっと落ち着いたのか少女は顔を上げて俺を見つめる。少女の顔にはさっきの照れ顔は消え、真剣な顔で俺を見つめる。


「周くん、私お願いがある。聞いてくれる?」


 少女の声も一階真剣になっていた。俺は無言で頷く。すると少女は口を開く。


「もし私が死んだら私のこと忘れて」


 窓から月光が差し込んで俺と少女の間を照らす。まるで月光で俺と少女の間に線を引いた気がする。

 そして少女はおずおずと躊躇いがちに口を開く。


「あともし、、、もし私の病気が奇跡的に治ったら・・・私を周くんのお嫁さんにしてください」


 少女は俺を真っ直ぐに見つめる。俺はぼーっとして少女をじっと見つめる。

 十年前、少女にこの願いを聞いた時の俺は何の返事もできなかった。幼かった俺は突然のプロポーズっぽい言葉に戸惑って固まってしまった。俺の姿に少女は笑い、そのまま有耶無耶になった。

 その頃の俺は後で答えばいいと思った。俺たちにまだ時間があるって思った。だが現実はそうじゃなかった。結局、俺の返事は未だに彼女に伝えられないまま心の中に残っていた。

 そんな中、少女は俺を見て笑って見せる。俺が何の返事もなく、ずっと無言でいるから今すぐ答えなくてもいいって意味だった。こんな瞬間さえ自分より他人を優先するのが彼女らしくて恋しくなる。

 俺は少女に返事するために口を開いた。俺は今じゃないとダメだった。例えこれが()であってももう逢えない彼女にどうしても答えなければならなかった。俺は声を出すために喉に力を入れた。


「俺があんたを」

「ね、周くん。起きて」


 少女の口からさっきとはちょっと違う声が聞こえる。その瞬間、突然周囲がぐるぐる回り始める。

 少し後、また目を覚めたと見慣れた天井が見える。間違いなく俺の部屋だ。最も重要な瞬間に夢から覚めたのだ。


「ね、周くん。起きてってば」


 横からは凄く聞き慣れた声が聞こえる。誰なのか見なくても分かる。確かに昨日来なくてもいいって言ったのに、マジで役に立たないやつだ。俺は日菜の声が聞こえる側から背を向ける。


「なんだ〜、もう起きたじゃん。それじゃ早く学校に行く準備を」

「お前さ」


 むかついた俺はパッと起きて言った。


「昨日俺がもう来るなって言ったじゃないか。なのに何でぇ・・・」


 日菜と目が会った瞬間、俺はびっくりして思わず言葉を続かなかった。


「あのさ、周くん。さっきから何をそんなジロジロ見てるんだ。まさか朝っぱらから私を見てエッチなことでも想像してるのでは」

「・・・・・・」

「あれ? 周くん? ね、周くん?」


 そんなはずないのに、どういうわけか夢のあの少女と日菜が似てるように見える。

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