第7話『魔王ちゃん……告白される!?』
ここは魔王城、玉座の間。
そこには今、3人の人物がいる。
魔王であるアタシ、補佐官のバルギウス、そして財政担当のカネトルお爺ちゃんだ。
「アイラ様! 勇者の進攻に備えるべく、魔王城の全体的な防御力を強化すべきと進言いたしますじゃ!」
今日のカネトルは、なんだか鼻息が荒い。
バルギウス情報だと、数日前からずっと考えていたことみたい。
「つきましては、資金調達のため増税をすべきですじゃ!」
「う~ん、ちょっと待って」
アタシは額に手を当て首を捻る。
「増税って大変な事でしょー? やっぱ、アタシとしては、あまり民を苦しめたくないんだけどー」
「しかし、城の防衛力強化は急務ですじゃ! 手薄な箇所を勇者が攻めてきたらひとたまりもありませぬ! ここは強気でいくべきですじゃ!」
「ん~……。でもさ、アタシがイメージしてる “正しい支配” とは、なんか違うのよねー……」
「ですが、それも仕方ないことですじゃ! このカネトル、今回ばかりはアイラ様のお言葉でも引き下がるわけにはいきませぬじゃ!」
ずいずいと迫るカネトル。
うっ、圧が凄い!
お金を取ることに、異常な執着を感じる~。
でもなー、増税なんてしたらみんな困るし……。
アタシとしては、そんなことしたくないんだけどなー。
何かいい方法ないかなー、うーんうーん……。
……あ!
「ちょっと待って! これって勇者対策なのよね? それなら、後方の防衛を前面に回せばいいわ! これなら今の軍備で賄えるし、増税なんてしなくていいでしょ?」
ふふーん、アタシってば天才!
ドヤ顔しちゃおー、へへー♪
……って、あれ?
だけど、カネトルは納得してなさそう。
「ですが、それでは城全体の防御力が落ちてしまいますじゃ! 勇者にそこを突かれたら……!」
「ううん、それは大丈夫」
アタシは笑顔で首を横に振る。
「勇者は常に正面突破よ! 彼は、誰かのためなら回り道もするけれど、自分自身は真っ直ぐに向かってくる人だから」
「ふぅむ……」
カネトルは白い長髭を手で撫でる。
これが考え事をするときの彼のポーズなんだ。
ややあって……。
「……ふむ、言われてみればそうですじゃな。わかったですじゃ、今回は増税せずに後方の守備を前面に回しますじゃ」
そう言って、穏やかに微笑むカネトル。
「いやはや、さすがはアイラ様ですじゃ。爺の凝り固まった頭じゃ、そのような考えは出ませんですじゃ」
「ううん、これからも期待してるから」
「そのお言葉、感謝いたしますじゃ」
恭しく頭を下げる彼の名はカネトル。
この魔王城の財政担当。
もう一度言うわ、彼はカネトル・イヤトラヌ!
正しいものの見方ができるお爺ちゃん!
「それにしても、アイラ様の勇者に対する洞察力は見事なものですじゃな」
「あはは、もう何度も戦ってきたしねー」
それにこの前、勇者の新たな一面も知ったしね。
あの街での出来事は、とっても大切な思い出の一つになった。
アタシの想いは、より強いものとなったんだ!
「ふむ、魔王アイラ様と勇者ユウ・フォルビア、相反する者ならではですな。お互いを知り通じ合う、まるで長年連れ添った夫婦のようですじゃ」
「あはは! もー、何言ってるのー」
「ふぉっふぉっふぉ、これは失言でしたな。それではまたですじゃ」
深々と頭を下げ去ってゆくカネトル。
その姿が玉座の間を出てゆくのを見届けてから……。
「ほんと、何言っちゃってるのーーーー!!!!!」
アタシは頬を両手で押さえて勢いよく立ち上がる。
え、え、え、ちょっと待ってちょっと待ってー!!!
アタシと勇者が夫婦みたいって?
お似合いの二人だって?
理想の夫婦だってーー!?
はわーっ!
もー、はわーっ!
顔があっつー!
熱すぎて、やばやばやばばーなんだけどー!!
カネトルってば正直者さん!
もー、やめてよねー、えへへへー♡
「いえ、おやめになるのはアイラ様かと」
むぅ。
またアタシの幸せなひと時をぶち壊す男。
イケメン毒舌メガネのバルギウス。
「カネトルは、お似合いや理想の夫婦とは言ってなかったと思いますが」
「わ……わかってるもん、わかってるもん! でも、ちょっとくらい夢を見させてくれてもいいじゃんー!」
「アイラ様は魔王、相手は勇者。その立場を理解した上での発言であれば構いませんが」
「うぐ……」
そうなのよね……。
彼は勇者、このアタシの最大の敵となり得る人。
どこまで行っても決して交わることのない未来。
夫婦なんて夢のまた夢。
「はぁ……」
アタシはため息をつくと、とすんと玉座に腰を下ろした。
「結婚ってなんなんだろ……」
「アイラ様、『結婚』とは番いになるということです。社会的に認められた男女関係のことを指し、今後の人生を共にするという意味です」
「そ、それくらい知ってるもん! そんなことが聞きたいんじゃないんだもん!」
インテリメガネをクイッと上げるバルギウスに、アタシは両手を振って抗議する。
「私個人としては、恋人としてのお付き合いの後に結婚というのが通常の形と考えますが……。お互いが運命の人と信じることができれば、スピード婚というのもない話ではありませんね」
「え、運命の人……!?」
それって、アタシと勇者たんのことみたいな……!
「とはいえ敵の、しかも勇者と結婚したいなんて考える色ボケ魔王などいるわけがないと思いますが」
「あ……あは……あはは! そ、そんなの、当たり前じゃない!! アタシを誰だと思ってるのっ!」
「ご理解いただけているようで何より。……ですが、私個人としては、その恋が本気なのであれば応援するのも吝かではありませんが」
……え?
やぶさ……え?
今、何て言った!?
「ちょ、バルギウス、今のセリフもう一度……」
その瞬間、アタシの言葉を遮って鳴る警報の音。
「おや、そうこうしているうちに勇者襲来のようですよ」
「えええー、このタイミングでー!?!?!?」
「盛大にお出迎えしないといけませんね。ほら、照れ隠しの仮面をつけて」
「て、照れ隠しって言うなーっ!」
手渡される仮面。
シンプルなデザインのそれを身に着けると、少しだけ心が引き締まる気がする。
魔王としての使命感がそう感じさせるのか。
アタシが玉座から立ち上がると、バルギウスは一歩下がって恭しくお辞儀をする。
その姿に頷き返し、アタシは入り口を睨んだ。
「たあああああっっっ!!!」
「はあああああっっっ!!!」
響き渡る気合の声。
そして、拳と剣がぶつかり合う音。
火花を散らす戦いを繰り広げているのは、アタシと勇者だ。
「やあっ!」
アタシの爪の斬撃を、勇者はバックステップでかわして距離を取る。
彼はすかさず左手を前に突き出して――。
――次の瞬間、アタシは驚き目を見開いた。
「その息吹は荒ぶる炎! 我が前に収束し、敵を穿つ紅蓮の矢となれ! 〈炎の矢〉!!!」
響く呪文の詠唱。
その手から放たれる燃え盛る矢。
初級の炎系攻撃魔法だ。
ちょっとー、この前まで魔法なんて使えなかったじゃない!
いつの間にそんなの覚えたのよー!
魔法は術者の魔力で威力が増減する。
勇者の放った〈炎の矢〉は初級とはいえ、伝わってくる魔力は初心者の域を遥かに超えていた。
轟々と唸るその矢を受けて、無事に立っていられる者はそういないだろう。
「――でも、アタシには効かないーーーーっっっ!!!」
アタシは拳を振り上げると、炎の矢を思いっきりグーパンしてやった。
炎は弾け飛び、辺りに火の粉がパラパラと降り注ぐ。
「更にできるようになったわね、勇者!」
「今のを防いでおいて良く言う!」
お互いの顔に笑みが浮かぶ。
なんだろうこの高揚感。
これがお互いを認め合っている証なの?
「不思議だな、魔王。お前とは敵同士なのに、ずっとこうしていたい気もするな」
「ふふっ、アナタも同じことを考えていたなんてね」
穏やかな物言い。
だけど、その言葉とは裏腹に、空気が張り詰めていくのを肌で感じる。
たぶん――。
次の攻撃で決着がつく!
「行くぞ、魔王!!」
「来い、勇者!!」
二人が同時に床を蹴った。
……って、ん?
ちょっと待って!
『ずっとこうしていたい』って、ずっと一緒にいたいって意味よね?
え、え、え、それって……。
結婚したいってことぉーーー!?!?!?
その瞬間、アタシの意識に割って入る者が一人。
『アイラ様、お伝え忘れていたことが!』
バルギウス!?
こんなときにテレパシーで何!?
『結婚すると、どちらかの姓に名前を入れることになるのですよ』
え、そうなんだ?
じゃあ、アタシ、アイラ・ヴ・ジャグニナスが勇者ユウと結婚したら……。
――アイラ・ヴ・ユウ……。
アイラブユー!?!?!?
ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!!!!
「アタシってば――〈魔王九恋撃・告〉!!!!!!」
恥ずかしさのあまり、思わず発動させてしまった必殺技。
ああっ、渾身の9連撃は、見事に勇者にクリーンヒットしちゃったー!!
「ぐはぁーーー!!!」
勇者は派手に吹き飛び、床の上を二回、三回と跳ねて転がって停止。
「くううっ……」
なんとか起き上がろうと懸命に手を伸ばす彼だけど、アタシの必殺技を受けてタダで済むわけがない。
その体は、徐々に灰になってゆく。
「ぐ……やはりまだ君には届かないか。だけど僕は諦めない! いつか、いつの日か必ず!」
「いつでも受けて立つわ! かかってきなさい!」
完全に灰となり霧散する勇者に、アタシはそう答える。
いや、もうそう答えるしかない。
こんな展開、望んでなかったんだけどねーっ!!
しくしく……。
~その後のアイラ&バルギウス~
「アイラ様、勇者ユウの姓はフォルビアです。アイラ・ヴ・ユウでは名前&名前になってしまいますが?」
「……んはっ!?」
「アイラ様はアホですか……」
「ち、違うもん、違うもん! 知ってるもん、知ってたもん! ただちょっと間違っただけなんだもん!!」
「はいはい。おー、よしよし、頭なでなで」
「ぶー! アタシの言葉、信じてないでしょー!」
「はい、それはもちろん。私が心を読めることをお忘れですか?」
「あー……ぎゃふっ!」
最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!
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「更新が楽しみ」
「アイラ可愛い!」
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