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第19話『魔王ちゃんオンステージ! その2』

 24時間、歌とダンスの特訓生活。

 そんなことが半月ほど続いたある日。


「アイラ様、デビューが決まりました」

「はぅ、ついに!」

「5日後に開催される北の街(ノーデンシュタット)祭のイベントステージ・夜の部に割り込ませて頂きました」


 北の街といえば、前に勇者に逢いに行った場所。

 そこで【ジャガー】の二つ名を持つ、ワルスギルというガラの悪い大男にナンパされて、絡まれて……。

 勇者が意地(プライド)をかけて戦ったのよね!


 あのときの勇者、本当にカッコ良かったー!

 さすがアタシの勇者たん♡


「最後は、アイラ様が正体を明かして街の酒場を半壊にしてしまったのですけどね」

「はわ! バレてた!!」

「ご安心下さい。あの場にいた者の記憶は〈忘却(フォーゲット)〉の魔法で消してありますゆえ」


 バルギウスは、そう言ってメガネを中指でクイッと上げる。

 キラリと光るメガネ。

 バルギウスってば、相変わらず敏腕!


「すでに関係各所には宣伝を兼ねた根回しをしてあります。また、体調不良者のための医務室や薬師(くすし)なども設置いたしました。更には、剣を模した発光棒(サイリウム)も来訪者に行き渡る数を用意してあります」

「え、そこまで!?」

「他には、アイラ様が投げたボールを手にした者は、後日プレゼントがもらえるという企画もありますよ」

「敏腕が過ぎるっ!!!」


 ホント、仕事できる系男子。

 クイクイ上げるメガネはキラリと光るレベルを通り越して、もうビカビカに輝いている。

 段取りなどは彼に任せておけば間違いなしね!


 それからの猛特訓は、本番に向けての総仕上げ。

 もちろん、心の中から不安がなくなったわけじゃない。

 でも、来てくれるファンのために最高のステージを届けるんだ!

 と、アタシもバルギウスも、当初の目的を忘れるほどに気合が入っていた。




 ──そして、あっという間に時は流れて……。

 やってきましたライブ当日!


 遠く地平線に触れた夕日が静かに沈み……。

 そして訪れる薄明(はくめい)(とき)

 紫色の空が次第に青の深みを増してゆく。

 そんな夜のステージで、アイドル衣装を身に纏ったアタシは舞台の袖に立ってます。


 この衣装はバルギウスがデザインしたんだって。

 桜色のお花をイメージしたもので、ふんわり広がる短めスカートはフリルが沢山ついてて超可愛い!

 めっちゃよきー!

 で、手には18センチくらいの黒い棒、これは使用者の声を大きくする拡声器(マイク)と言う魔道具なんだとか。


 もちろん、今のアタシは変身の指輪シェイプチェンジ・リングで変身した姿。

 大きな角だってない、人間アイラになってます。


 ここまでの段取りは完璧ぃ!

 この野外ステージだって屋根付きで、〈灯り(ライト)〉の魔法でスポットライトもできるみたい。

 これには、さすがバルギウスと言わざるを得ない。


 どーれ、肝心のお客さんの入りは……?

 と、覗いた観客席は満席!


 って、え、ちょっと待って!

 これ、百……ううん、千はいるんじゃない!?

 こ、こんなに人がいるなんて聞いてないんだけどっ!

 はうぅ、めっちゃ緊張してきた!

 心臓バクバク、ヤバヤバのヤバだってー!


「調子はいかかでしょうか、アイラ様」


 背後からかけられる声に振り返るアタシ。

 そこにはシュッとしたスーツに身を包んだバルギウスが立っていた。

 今回は、いつものインテリメガネに色が入ってて業界人ぽーい!


「人々の入りは上々。事前に流したウワサが功を奏しました」

「うわ……さ?」

「はい。あることないこと尾ヒレを付けて、それはもう盛大に」

「ちょおおおおいっ!!!」


 初ライブなのにハードル上げないでっ!

 さっきから心臓は雷みたいに鳴ってるし、足は震えて立ってるのがやっと。

 これはマジでヤバいやつーっ!


 そんなアタシの気持ちはお構いなしに、ステージの〈灯り(ライト)〉が一斉についた。

 その瞬間、観客席の人たちがアタシの名前を叫び出す。

 手には剣の形の発光棒(サイリウム)が握られていて、それを一斉に天に向かって振りかざしてる。


 バルギウスがどんな噂を流したかは知らないけれど……。

 この熱気って、今日がデビューの人に対するものじゃなくなーい!?

 ライブが成功するイメージだって、まだできないのにぃ!

 あぁ、もー、なんだか寒気までしてきたー!!


「おや、アイラ様。もしかして緊張されているのですか?」

「だ、だ、だ、だって! こーんなに沢山の人の視線を浴びると思うと、はわーっ!」

「相変わらず魔王らしからぬお言葉を」


 バルギウスはフッと笑う。


「大丈夫ですよ。アイラ様は、あんなに練習したのですから」

「そ、それは、そうなんだけどー!」

「練習は裏切りません。不協和音を生み出していた暴力的な壊滅ボイスも、命あるものが妬ましい亡者のようだった終末ダンスも、普通に下手な人レベルまで上達したじゃありませんか」

「うう……励まされ方が悲しすぎる」


 更に落ち込むアタシの背中に、バルギウスがそっと手を当てた。


「アイラ様なら大丈夫。今は、この状況を楽しみましょう」

「バルギウス……アタシできるかな?」

「私が保証します。さあ、ゆっくりと深呼吸して」


 彼の言葉に従って、大きく息を吸って……そして吐いて……。

 その間も背中に当てられたバルギウスの手。

 それはとても大きくて、温かくて。

 冷え切った手足の先にまで血が通い出す、そんな感覚を覚えた。


 よし……!

 こうなったらもう覚悟を決めて。

 あと3回、大きく深呼吸をしたらステージに向かって走り出そう。

 まず1回目、すぅぅぅぅっと息を吸っ――。


「それ行けアイラ様、えいっ!」

「え!?」


 その瞬間、ドーン! と背中を押され、アタシはよろけるようにステージに躍り出た。


 ちょおおおおおお、アタシのタイミングで行かせてよぉぉぉ!!!!


 ステージ中央でグッと足を踏ん張って、なんとか体勢を立て直す。

 恐る恐る顔を上げたその瞬間、瞳に飛び込んでくる沢山の人、人、人。

 みんながアタシの挙動に注目し、次の行動を待っている。


 ……くぅっ!

 こ、こんなプレッシャーに負けるもんか!

 アタシは魔王、この世界を統べる者!

 人と魔物を繋ぐ使命があるんでしょ!

 みんなが笑って暮らせる世界を作るんでしょ!


 込み上げる想いにアタシは胸を強く押さえた。

 (てのひら)に伝わる熱いものが、この心を押し上げる。


 怖いものなんてない、怖がってなんかいられないっ!

 アタシは強い子!!

 マジ最強!!

 アタシがやらなきゃ誰がやるっ!!!


 胸に当てた手を強く握り締めて、大きく息を吐く。

 視力30.0のアタシには、人々の表情までよく見えた。

 みんな、これからのステージに期待を(いだ)いてる。


 ……いいわ、アナタたちの期待に応えてみせる!

 そして今宵(こよい)、アタシは伝説となるっ!


「ふふっ……」


 アタシは微笑むと、観客席に向かって深々とお辞儀をして――。


 ――次の瞬間、全力ダッシュで舞台袖へ逃げ帰る!


「ばばばばるばるばるバルギウスぅぅぅっっっ!!!」

「こらっ! なんで戻ってきちゃうんですか!」


 当然、バルギウスは文句を言ってくるけど、そんなの関係ない!

 グイっと顔を近づけてアタシは言う。


「勇者がいたっ!!!」




 誰もいなくなったステージは、ただただ静かにそこにある。

 それとは対照的に、観客席はざわめきに包まれている。

 まぁ……それも当然よね。

 だって、急に演者がいなくなったんだから。


 そんな状況下で、舞台袖からこっそり顔を出すのはアタシとバルギウス。


「バルギウス、ほら、あそこ!」


 アタシが指差す先。

 観客席のちょうど真ん中にいる彼は……。


「ふむ……確かに勇者ですね」

「でしょでしょ!」


 ひそひそ声で話すアタシたち。

 幸いなことにお客さんはこっちに気付いてないみたい。

 ちなみにスタッフの皆さんには緊急ミーティングと伝えてある。

 本当にごめんなさい。


「それにしても、これだけの人の中から良く見つけましたね」

「愛の力は偉大なりっ!」


 えへん! と胸を張る。

 って、そんな場合じゃないんだって!


「ねぇバルギウス、どうしよう! アタシ、どうしたらいい!?」

「どうしたらいいも何も、普通に歌えばいいじゃないですか」


 その言葉をアタシは全力で否定する。


「そんなの無理に決まってんじゃん!!! ただでさえドキドキが凄いのに、勇者の前で歌ったら……アタシ、心臓が爆発して死んじゃうっ!!!」


 さっきまでの決意は遥か遠く。

 今の心の中は、失敗したらどうしようという気持ちがお帰りなさいしちゃってる。

 それは始まる前よりも大きくて。

 激しい胸の鼓動は動悸となって、頭痛、耳鳴り、手足の震えに毛先の枝毛までも引き起こすす。

 呼吸だって上手くできなくて、過呼吸になりそうなくらいに苦しい。


 やっぱ、アタシにはアイドルなんて無理だ……。


 そんな思いが頭の中を駆け巡る。

 そのとき、バルギウスがふと口を開いた。


「でしたら最初は勇者ではなく、他の人に目を向けてみてはどうでしょうか?」

「え、他の人?」

「はい。例えば、最前列のあの男とか」

「んー?」


 バルギウスが指し示す人に目を向けてみる。

 ふーん、ずいぶんとガラの悪そうな大男ね……って、げ!!!


 それは忘れもしない、忘れるワケがない。

 北の街でアタシを不快にさせ続け。

 勇者に酷い嫌がらせをして。

 勇者との勝負に負けたくせに、それを認めなかった最低男。

 ジャガイモ【ジャガー】のワルスギルだった。


「アイラ様、いかがでしょう?」

「あー、うん、まぁ……」


 あれだけ騒ぎまくっていた心が、一瞬でスン……って大人しくなるのを感じるアタシであった……。




~その後のアイラ&バルギウス、そしてワルスギル~


「アイラ様、あのワルスギルとかいう男がこちらを睨んでおりますよ」

「うはぁ……また絡んでくる気?」

「少し心を読んでみましょうか……」


『あのアイラとかいう女……見たことねぇはずなのに、どこかで会った気がしやがる。輝く赤い髪……ロングのツインテール……脳裏をよぎる赤いゴリラ……? うっ、頭が!』


「うー、やっぱアイツ、アタシに喧嘩売ってる?」

「おや、まだ続きがあるようですよ」


『……動悸、火照(ほて)り、脈拍上昇。……ぐううっ、俺の直感が何かをビンビンに伝えてきやがる! ま、まさか、これは! この感覚はぁぁぁ!!! …………ポッ♡』


「……うあっ!?」

「アイラ様、いかがいたしました?』

「や……なんか今、めっちゃ悪寒が走った!」

「アイラ様、アイラ様。あの男、急に恋する乙女のような顔になってますよ」

「うえぇ……。アタシ、やっぱ帰っていい?」



 最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!


「面白い」

「続きが読みたい」

「更新が楽しみ」

「アイラ可愛い!」


 と、少しでも思って頂けましたら、

 ブックマークや、下にある☆☆☆☆☆から作品の応援を頂けたら嬉しいです。


 これからもどうぞよろしくお願いします!

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