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第12話『魔王ちゃんと愛しの片眼鏡 その1』

 アタシはアイラ・ヴ・ジャグニナス!

 人呼んで【血濡れの姫(ブラッディプリンセス)】!

 突然だけどアタシは、ひじょーに眠いっ!

 玉座に座ってる今も眠くて眠くて、上のまぶたと下のまぶたが仲良しこよし……。


「アイラ様、そうやって公務中に堂々と(・・・)居眠りするのはお止めください」


 むぅ、今日もバルギウスはうるさい。

 でもまぁ……悔しいけど、言ってることが正しいのはわかる。

 なので、物分かりのいいアタシは玉座の後ろに隠れてこっそりと(・・・・・)……Zzz。


「そういうことではありません!」


 バルギウスは、ため息をつきながらアタシを玉座へと戻す。

 首根っこを掴まれたアタシはまるで子猫みたい、あああ~。


「やれやれ……。それにしても、なぜそんなに寝不足なのですか?」

「だってー。夜、ベッドに入っても勇者のことが気になって眠れないんだもん!」


 勇者たん、何してるかなーとか。

 今、何を考えてるかなーとか。

 アタシのこと想ってたりしないかなー、キャー! とか。

 勇者たんの抱き枕を引っ張り出して、ギューッと抱き締めながら悶えるのがアタシの夜の日課(ルーティンワーク)なのだ。


 でも、これにはちゃんと理由がある。

 それは、シロガネ先輩っていう強力なライバルができたこと。

 だって、先輩は美人だし、優しいし、片目が隠れた髪型も神秘的だし。

 なのに、チューニ病っていうギャップが萌え要素だし。

 アタシが勝ってる点は、勇者と何度も逢ってるってことくらいしか……。


 でもさ、それってめっちゃ大きなポイントじゃん?

 勇者はいつもアタシに逢いに来てくれるし。

 アタシだってこの前、街まで行っちゃったし。

 しかも、落ち込んでる勇者を励ましたり、「ありがとう」って感謝されたり、倒れそうになる彼を抱き締めちゃったりした!

 あのときの温もり……今でもはっきり覚えてる。


 ――って、きゃー!?

 ちょっと待ってちょっと待って!!

 思い出したら、めっちゃ恥ずかしくなってきたんですけどー!

 アタシってば、ちょー青春してんじゃーん、あははー!


 てか先輩!

 勇者とはまだ1回しか会ってないのに、一瞬で恋に落ちちゃうとか。

 もー、どんだけ惚れっぽいのワラ~って感じー。


「……アイラ様も一瞬で一目惚れでしたが」

「ぐはっ! 盛大なブーメラン!!」


 うぅ、ごめんなさい。

 そのことについては何も言い返せません。

 マジ、つらたん。


 ……でも、やっぱ勇者ってモテるよね。

 あんなに優しいし、カッコイイし、一生懸命だし、彼を嫌いな人なんているわけない。

 てか、いたら潰すけど!


 はぁ……。

 勇者たんって好きな人いるのかなぁ?

 付き合ってる人は……いないと思うけど。

 で、でも!

 気になってる人くらいは、いてもおかしくないんじゃない!?


 そーいえば、マリーダっていう北の街の酒場の女店主、ちょー美人だった!

 とろ~んとした眠そうな目、プルっとした(つや)のある唇、バーンと胸の谷間を強調した服は、アタシから見てもセクシーだったし……。

 年上のお姉さんがタイプだったら、好きになってもおかしくない。


 ってー、ちょっと待って!!

 それ、マジでマジにマジヤバじゃーん!!!

 あー、もー、気になってきっと今夜も眠れないっ!


「だから今、寝るっ!」

「なんですかその暴論は……」


 開き直るアタシに、バルギウスは大きく息を吐く。

 そのとき、ふと彼の手の中にある小箱に気が付いた。

 シンプルなデザインの木箱には『試作機1号』と書いてある。


「バルギウス、それは?」

「おお、よくぞ聞いてくれました!」


 嬉しそうに開いた箱の中には、銀色の片眼鏡(モノクル)が入っていた。

 よく、怪盗が仮面の代わりにつけているというアレだ。


「これは “鑑定の片眼鏡モノクル・オブ・アナライズ” という魔道具です」

「ほぇー?」

「ときに、アイラ様は “ステータスオープン!” という言葉はご存じですか?」

「んー? ちょっと前に読んだマンガで、そんなのがあったけど……」

「アイラ様も文字が読めるようになって嬉しい限り」

「ちょ! 読()なかったんじゃなくて、読()なかっただけだしっ!」


 う……。

 めっちゃ冷たい目でこっち見てる。

 ま、まぁ、読んでなかったのは事実だし、面白いってことに気付かせてくれたことには感謝してるけどね。


「んで、ステータスオープンがどうかしたの?」

「フフ……アイラ様も試してみたいとは思いませんか?」

「え、できるの?」

「そのための眼鏡です。この魔道具は、目の前にいる者の “魔導力” の最大値を測定することができるのです!」


 ほぁ、魔導力!

 前に学校で習ったことがある。

 魔導力は魔力を導く力のことで、その人の戦う力のことを言うんだって。


 魔力は魔法の威力や成功率に関係するだけじゃなく、身体を強化することもできる。

 拳に(まと)えば岩をも砕くし、体に纏えば刃だって弾くことができるの。


 つまり、魔導力は魔力の総量と操る力に比例するため、戦いにおいて魔力を高めることは~うんぬんかんぬんどーたらこーたら……。


 よーするに、魔導力が高けりゃ強いってことっ!


「ずいぶんと要約しましたね」

「また、人の心を勝手に読むなし!」

「これまで魔導力を測定するためには専門の機関に依頼する必要がありましたが、この “鑑定の片眼鏡モノクル・オブ・アナライズ” であれば、瞬時に測定することが可能です」


 得意げなバルギウス。

 インテリメガネがキラーン☆と光る。


 確かに、これは凄いアイテムかもしれない。

 ……でもね、アナタは肝心なことが分かってない。

 マジ、ありえない。


 アタシは、これまでの仕返しを込めて盛大なため息をついてやった。


「いいこと? 相手の強さは拳を交えて測るものよ。それを道具に頼るなんて、そこに魔族としての誇り(プライド)や相手への尊重(リスペクト)はあるの?」


 人は、譲れない何かのために戦場へと(おもむ)く。

 主義や主張は違っても、守りたい明日、手にしたい未来がある。

 ふふっ。

 これはアタシが魔王になって、そして勇者と出逢って気付いたことなの。

 命をかけて戦う者は、等しく戦士なんだってね。

 それに……。


「別に、バルギウスや他の魔物たちの強さを見たってー! そんなの、ちーっとも面白くないじゃーん!!」

「……なんだか後半の方が声が大きくありませんか?」


 うぬ、冷静に突っ込まれた。

 バルギウスはアゴに手を当てると、表情一つ変えることなく静かに言葉を続ける。


「……では、勇者ユウならどうです?」

「え、勇者たん!? そ、それなら興味ないこともないけど……でも、ここにいないじゃん! この片眼鏡は目の前にいる人を測定するんでしょ!」

「アイラ様は、この魔道具(マジックアイテム)の存在をお忘れですか?」


 そう言って取り出すはキラキラ輝く大きな水晶玉。

 バルギウスのお気に入り、“遠見の水晶球” だ。


「それって遠くのモノが見えるやつじゃん? それが何か…………って、んは!?」

「お気付きになりましたね。そうです、これを使えば勇者のこともバッチリ見られるのです」

「ば、バッチリ!?」

「そう、バッチリです」


 勇者たんのステータス、見たい見たい見たい!!

 そんなの見たすぎるに決まってるじゃない!!

 可愛い顔してるのに、意外とすごーい! とか、言いたいじゃん!!


「バルギウス、早くその片眼鏡を貸して……」


『ダメよ、アイラちゃん☆!』


 その瞬間、アタシの中に響く声。

 心の中に光を纏った少女が現れる。

 アタシの善の心を(つかさど)る “天使アイラ”。

 略してテンラだ。


 久しぶりに出てきたわね。


『久しぶりじゃないわよ☆!』


 腰に手を当てたテンラは、ぷーっと頬を膨らませている。


『そうやって人を覗き見るのはダメって言ってるじゃない! プライバシーの侵害なんだからね☆!』


 で、でも、ちょっとくらいなら……。


『ダメなものはダメ! この前は流されちゃったけれど、今回は譲れないわ☆!』

『ハッ、テンラは相変わらずの堅物だな♪』


 善の心(テンラ)に対抗するように響く声、現れる小悪魔の少女。

 アタシの悪の心を司る “デビルアイラ”。

 略してデビラだ。


『勇者は見られてることに気付かないんだろ? じゃあ、いいじゃんか! 別に減るもんじゃねーし♪!』

『そういうことじゃないの! どうしてわからないの、デビラのおバカ☆!』

『なんだとー!? テンラの石頭!』

『何よー!』

『何だよー!』


 激しい言い争い。

 にらみ合う善と悪の心。

 お互い一歩も譲る気はなさそうだ。


 そんな中、テンラは短く息を吐くとデビラを見つめた。


『ねぇデビラ、よく考えてみて。あなたの情報を盗み見る人がいたらどう思う?』

『んー? ま、まぁそれは……気分良くねーかもな』

『でしょ! 勇者だって同じことなのよ!』

『そ、それはそうかも知れねーけどさ……』

『聞いて、デビラ。あなたは覗き見をしたあとも、勇者の瞳をまっすぐに見つめることができる? 彼が好きって胸を張ってそう言える?』


 純粋なテンラの想い。

 その頬を涙が伝う。

 それでも彼女は目をそらさない。

 正しくありたいと願う心を前に、デビラはもう言葉を続けられなかった。

 小さくなって、うなだれることしかできなかった。


 そうして、どれくらいの時が流れたろう。

 不意に悪の心の口が小さく動いた。


『そう……だよな。誰かを盗み見るなんて、誇り高き魔王がしちゃいけないことだよな』

『デビラ、わかってくれたのね』

「ああ。ごめんなテンラ、アタシが間違ってた。……アタシのこと、きっと軽蔑してるよな?』

『ううん、そんなことない。デビラはこれからも良きライバルよ』

『アタシで、いいのか?』

『あなたが、いいのよ』


 見つめあった天使アイラとデビルアイラ。

 そこに芽生える熱い友情。

 二人は微笑むと、やがて固い握手を交わすのだった。


 ちょ……なにこの感動!

 その光景に思わず涙を浮かべるのは本体であるアタシ、“全部のアイラ” だ。

 りゃ、略して言わないけどね!!


 何はともあれ、今回の戦いは善の心の勝ち。

 次はアタシの番。

 二人の友情に応えるときだ!


 アタシは涙を拭うとバルギウスに向き直る。


「せっかくだけど、今回は遠慮しておくわ」

「おや、そうですか。残念ですね。この片眼鏡(モノクル)は、相手の想い人の有無も知ることもできたのですが」

「ううん。そういうのこそ、ちゃんと自分の力でぇぶっ!?」

『『知りたい!!!』』


 どーん!!

 と、アタシを突き飛ばすデビラとテンラ。

 いったーい、舌噛んだー!


『コラ、オマエ! 何言っちゃってんだよ!』

『そーよ! 勇者に好きな人がいるかわかるのに、断る理由なんてないでしょ!』


 え!? え!? え!?

 ちょっと待ってちょっと待って、なんか話が違うんだけど!


『これだから全裸はダメなんだよ♪』

『そういうとこよ、全裸ちゃん☆』


 むきぃ、“全部のアイラ” を全裸って略すなー!!


 天使と悪魔に背中を押され、アタシは改めてバルギウスに向き直る。

 まぁ、確かに勇者の好きな人はめっちゃ気になるしぃ……。


「も、もー、仕方ないなぁ! えーと……愛しの片眼鏡モノクル・オブ・ラブリーズだっけ?」

「鑑定の片眼鏡モノクル・オブ・アナライズです」

「ば……バルギウスがそこまで言うならぁ、ちょっと試してみてもいいけどぉ?」

「アイラ様、声が裏返ってますよ」

「う、うるさーいっ!」




~その後のアイラ&バルギウス~


「クスクス……」

「なに笑ってるのよ、バルギウス?」

「おっと失礼。なんでもありません」

「あーっ! さては、また人の心を勝手に読んだなー!?」

「そんなことしませんよ、全裸様。私がその様な失礼な者に見えますか、全裸様」

「読んでんじゃーん!!」

「クスクスクス、全裸様はいつも賑やかですね」

「もー、笑うなしー! 全裸って呼ぶなしーぃ!!」



 最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!


「面白い」

「続きが読みたい」

「更新が楽しみ」

「アイラ可愛い!」


 と、少しでも思って頂けましたら、

 ブックマークや、下にある☆☆☆☆☆から作品の応援を頂けたら嬉しいです。


 これからもどうぞよろしくお願いします!

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