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26:独白

「私はこの国を、国王陛下を、見捨てることなどできない。どれだけあの方が恨みを買っていようとな。しかし、ローナ、お前を巻き込むことはできないよ。分かってくれるね」


 そう言って父は私の頭を大きな手で撫でた。幼いながらに侯爵家の令嬢として、そして、家族として運命を共にするのだと思っていたのに、父は優しい拒絶を私に示した。


 お腹の辺りを氷で貫かれたように冷たくなる感覚がしたのを覚えている。

 

「あなたたちが姉さんの元で幸せに生きてくれればそれでいい。私たちにどんなことが起きても、ただそれだけを願っているのよ。だから、わかって。ローナ」


 そう言って母は私を優しく抱き寄せた。分かっている。これは愛というものだと。


 けれど、私は、両親を犠牲にしてまで生き延びようなんて思っていなかった。二人がいなくなった世界で妹とどう生きていけばいいのか、考えるだけで体がぞわぞわして涙が出てきて。


 なのに、二人はそのあとすぐ、二度と会えない人となってしまった。


 隣国の叔母の元に逃げて、落ち着いてくると、なぜ私が生き残っているのか、無理を言ってでも、一緒に国のために運命を共にするべきだったのではないかと自分を責めた。


 もう父にも母にも会えない。置いて行かれてしまった孤独、これからの不安。全てから逃げ出して、いなくなってしまいたかった。


「ローナ、あなたは、私の大切な妹の娘なのよ。あの子が死んだ今、あなたには、あの子の分も幸せに生きてもらわなければね」

「いつまでもそうやって悲しんでいても、あの子も困るわよ。あなたには、この国の公爵家の令嬢として、役割を果たしてもらいますからね」

「あの子もあなたが自分の代わりに幸せに生きたと分かったら、とても喜ぶわ。そう思うわよね?」


 おばさまは、悲しみの淵にいる私にそう言った。そうして、私を政略結婚の駒にするために妹と共に養女として引き取った。


 死んだ父や母の分も生きる。そう思うことで、なんとか生にしがみつくことになったのだ。妹やジョイの前では、過去を呑み込んだふりをして。妹の世話を甲斐甲斐しくすることで現実を忘れて。

 

 なのに、今度は妹が私の前からいなくなろうとしていた。


「お姉様、デビュタントのドレス……、見たかったなあ……」


 私の手を握り返す妹の力が弱い。熱もかなり高いためか、言葉を話すのも辛そうだ。私は、大丈夫とそれしか言えない機械みたいに何度も言葉をかけることしかできなかった。


 胸の辺りに何かがつっかかっているような、もやもやと気持ち悪い感覚がして、ひどい吐き気がしていた。

 

「私の分も、生きて……。いつまでも……見てる……」


 ふっと力が抜けて、私は声にならない悲鳴をあげた。気持ち悪い感覚が身体中に広がって、手足の感覚が朧げになる。


 妹の死を前にして、自分が生きていることを強く感じた。心臓が血を激しく全身に送り出して、暴れている。手足の感覚と打って変わって、頭はひどく冴えていた。


 それは、興奮であり、絶望だった。


 父も母も妹も、代わりに生きろと言った。家族の願いは、私にとって生きる意味で、呪いとなった。

 

 幸せにならなければ。そうして、気づけば私は王妃として国一番の幸せな女性になっていた。


 妹が、母が、父が見ている。自分たちの代わりに私が幸せに生きているのか見ている。


 けれど、死んだ妹を前にした時の強烈な生きているという感覚は、時と共に薄れていく。同時に自分が今、生きているのか死んでいるのか分からなくなっていった。


 生きなければいけないのに、このままでは……。


 私がおかしいことは自分が一番わかっていた。けれど、生きるために、息子を殺すことを選んだのだ。







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