♯4 恋バナのひとつやふたつ!
鈴鹿と半が大人のケーキ屋さんに訪れてみると。
バーテンダー姿のジュテームが、しんみりとした表情で、カウンターテーブルを撫でていた。
後片付けはほとんど終わってしまっているようだけど。
「名残惜しい?」
鈴鹿が声を掛けたら。
ジュテームは寂しそうに微笑んで。
「客との思い出がそこそこあってな。もう常連客と触れ合えなくなるかと思うと、ちぃと悲しくってよ」
「好きな人でもいたんですかっ?」
半がキュンとなって鈴鹿に抱きつくが。
「ははっ、そんなんじゃねぇーよ」
ジュテームは気の抜けたトーンで言葉を返した。
図星か? 見当違いか?
半には分からなかったけれど。
「ジュテームさん、元気ないですね……」
「ここは生活費を稼ぐための場所でしたけれど、戦いで傷ついた心身を癒やしてくれる場所でもありました。だからきっと、夜の遊び相手が10人や20人はいたんだと思います……」
鈴鹿が苦労しましたと涙を拭う。
「ジュテームさんっ! 不潔ですっ!」
半に睨まれて。
「ちげぇよっ、変な妄想はやめろっ」
ジュテームが困って怒った視線を、鈴鹿は舌を出して回避した。
「それはそうと、引っ越し先はどんなとこですか?」
「またお客さんが来るといいですねー!」
鈴鹿と半がワクワクして聞くと。
「悪いが町中じゃねえんだ。もう民間人を巻き込みたくねえからな」
ジュテームがまた気を落として言うので。
半は盛り上げようと。
「最近は秘境のおいしいお店が流行ってるから丁度いいですよぉ!」
したのだけれども。
「秘境なんてもんじゃねえぞ?」
ジュテームに一蹴されて、笑顔が一気に凝固した。
「ボクたち、いったいどこに住まわされるのか……」
「心配になってきた……」
鈴鹿と半の引きつる笑顔が面白かったのか、ジュテームはぷっと吹き出して。
「無期限にホームスワップしてくれる良い相手が見つかってなあ。きっと気に入ると思うぜ」
ニッタリと笑い返すと。
「ホームスワップ? ってなんですか?」
半が硬直した笑顔を緩めて、小首をかしげた。
「住む家を交換するってことですよ!」
鈴鹿の説明に半は納得して。
「それは売り買いの面倒な手続きがなくていいですね!」
「だろ? しかも今度の家は結構でかい。期待してろよ?」
ふたりは新居が楽しみになってきた。
「鈴鹿、地図アプリで場所がわかれば移動できるよな? みんなが戻ってきたらすぐに出発だ!」
「わかりました!」
鈴鹿と半とジュテームは、意気揚々とタブレットの地図アプリを開いたのだった。