♯6 タモちゃん、救世主!?
これはタモちゃんが肉体に生まれ変わる以前のお話。
きらんきらんの砂漠を映し込んだかのような、満天の星空の下。
瑠璃色に輝く人型の光がひとつ。
夢幻に広がる大地に浮遊していた。
そこへポワリと召喚されたのは、今にも消えかかろうとしている小さな火の玉。
群青の焔を揺らして。
「創造主か。何用だ。わたしはじきに万物へと還る。放っといてくれ」
じゅじゅっと唸ると、火の玉がひとまわり小さくしぼむ。
創造主と呼ばれた瑠璃色の人型は。
「タモちゃんが退治されてから、1000年余りが過ぎたねえ」
あくびをしながら夜空を見上げる。
「タモちゃんなんて気安く呼ぶな! あたしは平安の大妖怪・九尾の妖狐、玉藻前だぞ! 退治されたんじゃなくて、封印されただけだからな!」
火の玉がぼぼぼと燃えさかる。
「へえ。まだまだ元気そうじゃない。でもさ、最近、殺生石が割れたよね?」
「ぎくっ」
「あれって確か、タモちゃんを封印している岩らしいけど、壊れたのに復活できないってことは、退治されたも同然だよねえ?」
「ぐぬぬ……」
「まあ、話を聞いてよ。タモちゃんはまだ、生まれ変わりを望んでいるかい?」
火の玉が鮮やかな青になる。
「なにっ、生まれ変わりっ?」
「実は地球とそっくりな双子星があるんだけれど、今そこが大変なことになっているんだ」
「双子星? もうひとつの地球があるだなんて初耳だわね。どこにあるの?」
「えっ、どこにって? そんなの知りたい?」
「興味ある」
「うーん、それはだねえ……、そう! 太陽を挟んで正反対の向こう側にあるんだよ。いつも太陽の向こう側に隠れているから、誰も知らなくて当然さ!」
「いま考えたな……」
「おほん! とにかくそこでは科学の代わりに魔法が進化を遂げていて、エディモという魔法使いが世界を支配しようとしてるんだ。こいつがこれまた大悪党で……」
「あーわかった。生まれ変わりと引き換えに、あたしに救世主になれって言うんでしょ」
「お、察しがいいねぇ!」
「でもなんであたしなの?」
「エディモウィッチは最強のマジカリストだ。魔法じゃ誰にも敵わない。タモちゃんは妖術が使えるだろう? それも最強の妖術を!」
「ふ、まあね!」
「異種格闘技に持ち込めば勝ち目があるかも知れないと思ってさ。どうかな?」
火の玉が小首をかしげるように揺れ動く。
「ふん……。いいわ。やってあげる。いい加減、大暴れしたかったしね」
「それは話がはや……」
「ただし! 仲間がいればなお良いわ。日本三大妖怪そろい踏みってのはどう?」
瑠璃色の人型は顎に手をつき、うつむいて。
「大竹さんとジュテームか……。神通力使いのサポ役に盾のタンクだねぇ。その方が討伐しやすいかもしれないな!」
ぽんっと手を打った。
「サポ役? タンク? なにそれ」
「わかった。善処しよう。ではさっそく現地に飛んでもらおうか!」
創造主はカーテンを閉めるような仕草をしたかと思えば、今いるこの世界を跡形もなくかき消した。