♯12 前から来るぞ!
「勝ち気な娘よ、静電気トラップに引っかかったな!」
太っちょ忍者がクククと笑う。
「ええっ、今の電撃、静電気だったんですかっ?」
鈴鹿は目を丸くした。
「帯電してたってレベルじゃねえぞ」
「いずれにしても、恐いっていうのは心理的なものだけじゃなく……」
「物理的にも恐いってことよ!」
ジュテームとエターニャとデッドリィの三人が、慎重な面持ちで顔を見合わせる。
太っちょ忍者は覆面の上からでもわかるほどに口角を上げ。
「それはどうかな。さあ、引き戸を開けるのだ!」
うわずった声で急かすので。
「開けたら、なにかいるんでしょ!」
「絶対なにかある気がします!」
デッドリィと鈴鹿が二の足を踏んでいると。
ジュテームが引き戸に手をかけて。
「開けっぞ!」
皆が身構えたのち。
引き戸をがらりと開け放った、が!
「あれ。なんもいねえ……」
裸電球がひとつ、ぶら下がっているだけの、薄暗い土間があるだけだ。
と、そのとき。
上の方でぽしゅりと何かが飛び出たような音がして。
「ん?」
ロープで繋がれた大玉のゴム風船が。
ぐるりと上から振り子のように。
回転しながら、タモちゃんたちの背後にドーン!
「ぎゃはあーーーっ」
タモちゃんたちは背中を突き飛ばされて、屋敷の中へと強制的に飛び込んでいく。
土間だと思っていたそこは、いつの間にかに敷石以外の地面が抜け落ちていて。
「なにぃーーーっ?」
代わりに地下に現れたのが、切っ先を鋭く切りそろえた竹槍の剣山だ。
「うぉおぉおーーっ」
勢いよく漕ぎすぎたブランコから飛び降りたかのように。
皆それぞれの敷石になんとか、飛び乗って。
落ちまいと腕をばたつかせて、バランスをとる。
「ひとつ間違えば死んじゃうから、これーーっ!」
「やっぱり物理的な恐怖じゃないですかーーっ!」
デッドリィと鈴鹿が声を裏返して、太っちょ忍者に抗議すると。
「第2関門を突破したか。だがこれは序章にすぎぬ。先へ進まれよ!」
太っちょ忍者は舌打ちして、点在する敷石を走り抜けていく。
「なんて素早いの!」
「さすが忍者ですね」
デッドリィと鈴鹿の脇をすり抜けて行った太っちょ忍者が通るのは。
タモちゃんたち五人が横並びになってもまだ余裕があるほどの、幅の広い廊下のような通路で。
壁や天井は古い旅館で見るような、木目のある木の板が貼り付けられている。
それらは妖しげな顔に見えなくもない。
天井からはパン食い競争のパンのように、熱そうな裸電球が幾つもぶら下がっていて。
「タモちゃん、行こう!」
「カエルぴょこぴょこ、みぴょこぴょこ!」
エターニャと子供タモちゃんは電球を避けながら、飛び飛びに続いている敷石を、ひょいひょいと飛び移っていく。