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♯16 心根はいい子?

 一方、そのころタモちゃんは。


 せばまっていた意識が唐突にクリアになって。


 今までの経緯をすべて把握した。


 ――子供になってた記憶はちゃんと残っているのか。


 運ばれてきたのは医療器具がたくさん設置してある白い部屋で。


 接着剤のような、ホルムアルデヒドの臭いが漂っている。


 ライトがまぶしく、窓がないから地下室だろうか。


 タモちゃんはカプセル型の窮屈なベッドに寝かされているようだ。


 そこへ。


 照明の明かりを遮って、デッドリィがにやけた顔を覗かせた。


「あなたにメスを入れるのは、やっぱりもったいないから、冷凍保存にしましょうね。わたし、こう見えても氷魔法が得意な魔法少女なの。ただ、瞬間冷凍すると、みんな苦悶の表情になっちゃうのよね。それが難点ね」


「それって、こんな顔?」


 タモちゃんが、水揚げされた深海魚のような変顔をしてみせると。


 デッドリィが「きゃあっ」と、のけぞった。


 タモちゃんはむっくりと上半身を起き上がらせて。


「だいぶお姉さんかと思っていたが、よく見ると幼い顔をしているな、おまえ」


「なっ、あなた、だれっ? さっきまでの愛くるしい子供とぜんぜん違うじゃない! とんだ食わせ者だわ!」


 デッドリィが口に手をあて嗚咽する。


「失礼な!」


「ま、まさか……!」


「ふ、ばれちゃったのなら仕方ない!」


「悪霊に取り憑かれたのねーーーっ?」


 タモちゃんは、前屈するように突っ伏した。


「あたし、そんなに悪霊顔してるーーっ?」


 デッドリィはタモちゃんから目を離さずに後ずさって、背後のテーブルに置いてあった銀のメスやハサミを探り取り。


「出てって! そのお人形はわたしのよ!」


 十の字の形を作って見せた。


「屍使いが十字架に頼っちゃダメでしょーーっ!」


「動揺してるわね! ふふふ! 悪霊よ、去れ! 去れーーっ!」


 デッドリィがしたり顔で十字架を近づけてくるので。


「あ~、もうっ。乗ってあげるわよ! ふはははは! あたしは悪霊ではない。大天使ミカエルだーー」


 タモちゃんが腕で羽ばたくように立ち上がると。


「ミ、ミカエルしゃまーーーっ?」


 デッドリィは目をシロクロさせて。


 厳かに跪いた。


 そして両手の平を胸で合わせると。


「ミカエルしゃま、デッドリィはずっといい子にしてました。いっぱいお祈りするので、これからもどうか護ってください。あと、ご褒美にプレゼントがあったらいいな……」


 礼拝の挙措をし始める。


 ――なんだ、この、信心深い屍人使いは。まるでコントじゃないか。でもこれを利用すれば逃げられるかもしれない!


 タモちゃんは両手で自身の首をつかみ上げると。


 急に藻掻き苦しみだして。


「うががががっ」


 悪そうな顔つきに豹変する。


「ふ、ミカエルなんぞにこの体を渡してたまるか。コイツはこの俺様、堕天使がもらい受ける!」


 そしてまた。


 タモちゃんは身悶えて。


「負けぬ! 負けぬぞ! この体から立ち去るのじゃーーっ! うりゃーーっ!」


 この、あからさまな茶番劇に。


 デッドリィはポカンとなって。


 ――さすがに乗ってこないか。


 タモちゃんも冷静さを取り戻すなか。


「わかった! この子の中でミカエルしゃまと堕天使が戦っているのね! 大変だ! 応援しなくちゃ! ミカエルしゃま、がんばってーーっ」


 と、デッドリィはメスとハサミで作った十字架で応援し始めたのだった。


 ――なに、この純真な子!

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