♯15 お見舞いには亡骸(花束)を
「ルバツーテ!」
エターニャは空中浮揚の魔法を唱えて、ジュテームの体を浮き上がらせると。
「さあ、エターニャ、大仕事だぞ!」
頬をぴしゃりと引っぱたいた。
宮殿へ向かって歩き始め。
近づいてゆくにつれて。
壁面に張り付いている屍人形たちの目玉がじろりジロリ。
視線という斥力でエターニャを威圧する。
エターニャは屍人形たちに向かって。
「火のマジカリストが陣中見舞いに来たと、デッドリィに伝えてくれ!」
そう発言すると。
一部の屍人形たちが壁から離れて近寄ってきた。
エターニャや、仮死状態のジュテームを、至近距離からじろじろと血眼で見る。
「そいつは差し入れだ。レジスタンスの大物だぞ! 綺麗に始末するのに苦労したんだ」
――頼むからバレないでくれ。
エターニャが息を飲み込むなか。
検閲係の屍人形たちはジュテームをしばらくのあいだ見極めたのち――。
小首をかしげた。
しきりににおいを嗅いでみたり。
つっついてみたり。
見澄ましたりを繰り返している。
「ナンカ、ヘン」
「カオイロ、ヨスギ」
「ホロヨイ?」
「サケ、ト、アマイ、カオリ、スル」
「アヤシイ」
――なにっ? 仮死状態のポーションに酒なんて入ってないぞ! すんすんすん……。確かにジュテームからガトーショコラみたいな良い香りがする。ひょっとして! 初恋の人にケーキを作ってあげたくて、毎日練習してるとか? ジュテームって、なんて乙女なのっ!
エターニャはトキメキと切迫の狭間でセルフ吊り橋効果を感じながら、張り裂けそうになる鼓動を手で押さえつけ。
「そいつは腐らないようにアルコール漬けにしておいたから、そのせいじゃない?」
適宜な釈明をしてみたが。
エターニャの顔色を、屍人形たちが半眼でじぃーっと見つめてくるので。
「ホ、ホルマリンがなかったから、急遽リキュールに漬けたんだよねー……。悪かった? デッドリィは甘くて超イイネって言ってたけどな!」
エターニャが作り笑顔を炸裂させると。
屍人形たちは首をぐりぐり捻くって。
「マア、イイ」
「シンデル」
「マチガイナイ」
腕を広げて後ろに下がった。
――信じたーっ!
するとまた、幾体かの屍人形たちが壁から離れて。
空いたそのスペースに、隠されていた宮殿への入り口が現れた。
エターニャは心でガッツポーズを叫びながら。
「デッドリィのところまで誰か案内してくれ」
ころりと態度が大きくなって、そう言うと。
一体の屍人形が。
「コチラヘ」
と、招く仕草をして歩き出す。
エターニャはそれについて堂々と。
宮殿へ足を踏み入れたのだった。