♯10 A Deadly Encounter !
「ぎゃっ、お姉ちゃんだれーーーっ!」
子供タモちゃんがハグから逃れようとするのだが。
マジカリストの少女は力任せに抱きすくめてそれを許さなかった。
「なぁに? この玉虫色の姫カットをしたけもけもは! なんて可愛い動物かしら。ねえ、あなたの理想はなぁに? ホルマリン漬け? それとも防腐剤を点滴する? ロウで固めるのは余りオススメしないわ。なんにしたって、あなたの死体は永久保存版ね。ギャハハッ!」
「ぎゃひゃああっ、いやらあああああっ」
「こらーーっ、タモちゃんを放して!」
鈴鹿が引き剥がそうと必死になるが。
華奢な体のどこに力を秘めているのか、マジカリストの少女はタモちゃんをがっちりつかんで、さらに抱き締め上げていく。
「怖がらないで。あたしは解体のプロよ。あなたは皮と肉と骨に切り分けてから丁寧に接合してあげる。目玉は翡翠にしましょうね。残ったハラワタはモツ煮込みにして、みんなに振る舞ってあげるからーーっ。ウヒャヒャッ!」
「たしゅ……けて……」
「お嬢から離れやがれ! この、ゾンビ女がっ!」
舞い戻ってきたジュテームを、またもやするりと飛び抜けて。
「わたしの名前はデッドリィちゃん。永久の契りを交わしましょ。お人形たち! モッソコー、マノゲレサナサレ!」
タモちゃんをさらってデッドリィが空高く跳躍し。
「姉ぇ姉ぇ、兄ぃ兄ぃーーーっ」
逃げ去っていく。
キャストが入れ替わるようにして。
命を受けた屍人形たちが、どっと押し迫ってきた!
「鈴鹿、どうすりゃいいっ? 俺は単体攻撃が大の苦手だ! お嬢に当たっちまう!」
「とにかく後を追いましょう! ジュテームさんは屍人形をなんとかして道を切り開いてください!」
「おっしゃあ!」
襲来してくる屍人形たちを薙ぎ伏せて。
デッドリィを追いかけに、追いかけて。
彼女が逃げ込んで行った場所、それは。
「ヴァロニヒ宮殿? いつの間にこんなショッキングなお化け屋敷になってしまったんですーーっ?」
バロック様式の、かつて王族が暮らしたであろう壮麗な夏の離宮は。
至る所が無残に崩壊し。
人型のジグソーパズルのような、アートが蛍光イエローで書き殴られていて、変わり果てた姿になっていた。
「こんな落書きをするなんて、酷いです!」
「いや、鈴鹿、良く見て見ろよ。落書きじゃねえ。ありゃぜんぶ屍人形だ」
注意深く見て見ると。
人型ピースひとつひとつの目ん玉が、ギョロギョロと動き回っている。
「それも外壁だけとは限らねえ」
「宮殿内部も含めて、壁面ぜんぶが屍人形だとしたら、いったい何体の……?」
「正面を突破して、中へ入れたとしてもよう。無事じゃ済まねえなあ」
雨雲が空を覆って、薄暗くなってきた。
蛍光イエローで埋め尽くされた正殿が、薄黒い曇天を背景に不気味に浮かび上がっている。
湿っぽい風が頬を吹き抜けるなか。
宮殿の前にある広大な庭園の中央に立ち。
驚天動地の光景を、愕然と見上げる鈴鹿とジュテームであった。