♯8 理屈じゃないから
男が壁に掛かっていた布を剥ぎ取ると。
風邪薬や痛み止め、ガーゼや絆創膏などの医療品が詰め込まれた棚がたくさん現れた。
「なぁんだ! ドラッグストアがレジスタンスの支部になっていたんですね!」
「この部屋はもともと劇薬専用で厳重に管理していたんだが、他の商品の置き場所がなくなっちまったもんで、ついな……。ともかくお嬢さん、その包帯を取ってくれ。せめて消毒だけでもしてやろう」
男が棚から消毒液の小瓶を取り出して。
蓋を開けた。
その直後!
扉がドカンと、破壊された音がした。
うめき声と共に、駆け走る無数の足音が近づいて来る。
「くそっ、もう逃げ場がねえっ……」
その差し迫る恐怖に気圧されて、男は持っていた消毒液をジュテームの顔にこぼしてしまった。
「うがあぁあぁあーーっ」
するとジュテームまでもが暴れ出し。
「どどど、どうしましょーーっ!」
そこへ。
「カゾク、ミィツケタァアアッ」
いよいよ屍人形の群れが部屋に侵入してきて。
「ぎゃあああっ、来たぁああああっ」
タモちゃんたちに飛びかかろうとした、正にそのとき!
「うぉおらああああっ!」
ジュテームが包帯を引き裂いて。
繭から孵化するように飛び起きた!
そして気合いを撃ち放ち。
屍人形たちを通路へ消し飛ばしていく。
その衝撃で通路の天井は崩落し。
地下道が完全に塞がると。
屍人形たちはうんともすんとも言わなくなった。
「さすがはジュテームさん~~~~っ! でもどういう理屈で元に戻ったんですーーっ?」
ひとまず安全になったのを確認したところで。
ジュテームは棚から2~3本の消毒液を取り出すと、ごくごくとひと息に飲んでしまった。
「ふいーっ、ようやく復活だぜ!」
「ジュテームさんっ、何やってるんですかっ、死にますよーーーっ?」
鈴鹿が目をまん丸にしているなか。
「ほお、あんた、いける口だねえ!」
薬剤師の男までもが消毒液を取り出して、中身を一気にラッパ飲みした。
「ふたりとも、正気ですっ……?」
ジュテームは空の小瓶を鈴鹿に手渡した。
「こいつはシパラトシっつー酒なのさ」
鈴鹿はラベルを見つめて何かを思い出したようで。
「シパラトシ……、度数が高すぎて消毒液にしているって聞いたことがあります!」
「さすがは鈴鹿、よく知ってるな。こいつはアルコールが96%の世界で最も度数の高い酒でよう。ペーロンデじゃどこの家庭でも消毒液の代わりにひとつは置いてある代物なのさ」
「それで破壊されずに残っていたんですね!」
「そういうこったな」
「良かった……。お酒がどこにもないって聞いたときには、どうなるかと思いましたよ!」
「酒をこの世から消し去ろうとするヤツはこの俺が許せねえ。お嬢、鈴鹿、ぶちのめしに行くぜ! ……ん? お嬢?」
ジュテームがタモちゃんに呼びかけるも。
タモちゃんは鈴鹿の胸で震えながら丸まっている。
「タモちゃんは今、お子ちゃま状態です!」
鈴鹿が愛おしく抱きしめる。
「しょうがねえなあ。鈴鹿、俺たちだけでやっちまうか!」
「はぁい! ジュテームさんがいれば百人力です!」