♯2 ジュテームのヒメゴト
鈴鹿は鬼神と云われた大嶽丸の生まれ変わりで、神通力を自在に使いこなせる頼もしい輩だ。
「鈴鹿! あたしの部屋に変な奴がいるんだ! 助けてくれ!」
しかし鈴鹿は。
すみれ色のセーラー服をぎゅっと握って。
お下げ結びの髪を胸に垂らして俯いたまま、何も話さない。
「おい鈴鹿……、どした?」
鈴鹿は青ざめた表情で、ゆっくりと語り始める。
「恐ろしいことが起こってしまったんです……。とっても、とっても、恐ろしいことなんです……!」
「お、恐ろしいこと? って、なによっ?」
「ジュテームさんは……」
「ジュテームは……?」
「お酒が切れるとひ弱な草食男子になってしまうんですーーーっ!」
「ウソだろーーーっ?」
タモちゃんに、衝撃の雷鳴が轟いた。
「悪のカリスマ魔法使いがぜんぶ悪いんです! マジカリストたちが世界各地の酒所を襲撃し始めてから一ヶ月。酒類の流通はストップし、この国も深刻な供給不足に陥ってしまったんですぅ!」
「で、でも、今まで平気だったじゃないか!」
「こっそりとお酒を飲んでいたんです。まるで常備薬のように持ち歩いて……」
「そんなの聞いちゃいないぞおっ!」
「タ~モちゃん、見ぃつけたっ。僕の愛情たっぷりな朝ご飯を召し上がれーーっ!」
気配もなく背後から抱きついてきたジュテームに。
「ひいいいいいっ」
タモちゃんは気絶寸前だ。
鈴鹿の手を引き、お酒を貯蔵している地下室へと逃げ込むタモちゃんだが。
そこで否応無しに気づかされるのだ。
いつもは自分の背丈の何倍もある高さまでお酒が積み上げられてある地下室なのに、今はひとつもお酒がない!
そこは正にレンガ造りの伽藍堂と化していた!
ガクガクと震えながら鈴鹿と顔を見合わせて。
「あれは本当にジュテームなのーーっ?」
「はい、間違いありませんーーっ!」
「どうやったら治るのよーーっ?」
「お酒を飲めばたぶん! でもマジカリストが酒蔵をほとんど破壊してしまった今、ジュテームさんが元に戻るのは絶望的だと思いますーーっ!」
「そ、そんなあっ。そうだ、戦闘はっ? 支障はないわよねっ?」
鈴鹿が憂いた顔を横に振り。
「おそらく戦いに参加したがらないはずです。それもめちゃくちゃ頑なに……」
「うぐぅーっ。まだ襲撃されていないお酒屋さんがあるはずよ! そこへ行ってジュテームにお酒を飲ますしかないっ!」