♯2 十世紀ぶりの肉体、新世界の実態
「さて、妖術は使えるんでしょうね」
タモちゃんが念じてくるりと回ると。
真紅のブーツ。
チェックのワンピに。
真っ赤なライダースジャケットが具現化された。
少々大人ぶった子供のような姿だが。
タモちゃんは気に入っているようだ。
「よぉし! 久々の肉体だ。まずは男漁りと行こうじゃないの!」
タモちゃんが、ワクワクしながらすっと飛び立つが。
井戸の縁まで届かない!
「あれ? なんで飛べないのよ! このっ! このっ! このっ!」
まるでクラゲが浮揚するように、宙をぴょこぴょこ飛び跳ねて。
なんとか井戸の縁に手が届き。
渾身の力で這い上がる!
「うおりゃああああああっ」
涸れ井戸から顔だけを出し。
タモちゃんがこちらの世界で最初に見た物――それは。
白骨化した死体の山が、石畳の上に散在している光景だ。
三角屋根で白壁をした、欧風の木組みの家々が黒く焼け焦げ、壁が無残に崩れ落ちている。
立ち枯れた街路樹の枝枝に、幼い子供の白骨体が、幾つも首からぶら下がって木枯らしに揺れていた。
「これがエディモウィッチの所業ってわけか。あわよくば仲間になって暴れてやろうかと思ってたけど、これはあたしの趣味じゃないわね」
何かが潜む気配がしたかと見れば。
兄弟と思しき幼子がふたり、家屋から悲鳴を上げて飛び出してきた!
その幼子たちを追って。
一体、また一体と。
ぼうぼうと唸りながら現れ出てきたそれは。
燃えさかる篝火が集まってできた魔法生物だ。
「変な輩が出てきたぞ。これが魔術という奴か。肩慣らしにちょうどいいわ。あたしの術がどれほど効くのか、試させてもらおうか!」