♯8 失礼ねえ! 元からですぅ!
そして地図アプリに導かれたのが。
「今度は音楽室……?」
教室のプレートには第二音楽室と書いてある。
「ぎゃーーーっ!」
突然、菜乃花が叫んだものだから。
「ひっ、なにっ?」
みな心臓が飛び出しそうになった。
恐る恐る菜乃花へ振り向くと。
ぶるぶる震えながら。
「いま、ピアノの音が聞こえなかったっ?」
菜乃花が涙目で訴える。
「音楽室からピアノの音がって、そういう冗談いらないからっ」
デッドリィが胸を押さえて注意をするが。
「ホントに聞こえたんですっ!」
「お化けだよ~~っ!」
菜乃葉までもが一緒になって怯えだしたので。
「先に入ってーーっ!」
ロナたちはジュテームの背後に逃げ込んだ。
「背中を押すなっ」
「お化けから守る約束でしょーーっ!」
「わかったから、おちつけ!」
ジュテームが扉をダンッと開け。
鈴鹿がすぐさま部屋の明かりをパッとつけると。
タモちゃんたちはジュテームの背中から、目だけを出して見回してみたのだが。
「だれもいないねっ……」
「それどころか、ピアノがなくない……?」
ぞっとした笑顔で見つめ合う。
すると宇補先生が、おどろおどろした声色で語り始めた。
「ここは5年前まではピアノがあったんです」
「ど、どゆこと?」
アマツカゼの問いに、宇補先生は暗い顔をして。
「足を滑らせた生徒が、ピアノにおでこをぶつけてしまった、そんな凄惨な事故があって。それ以来、ピアノは撤去されてしまったんです」
「撤去……?」
「もしかしてその生徒は……」
「ゴクリ……」
宇補先生がクラッカーを用意して。
「私でぇーーすっ、うほ!」
可愛い子ぶったものだから!
「死んでなかったあああっ!」
「てゆか、先生、ここの生徒だったんですねーーっ!」
「先生が変な人になったのって、きっとそれからだーーーっ!」
「失礼ねえ! 元からですぅ!」
「わーい! 自覚してれうーーーっ!」
みんなやけっぱちになって、ぶったまげたのだった。
そんななか、鈴鹿がいち早く正気を取り戻し。
「と、とりあえず、なにかないか探しましょう!」
「そうだな!」
エターニャたちも本来の目的を思い出したのだが。
「探すっても、机すらないよ」
ロナたちの目に映るのは、がらんと広がる防音壁の空間だ。
「ここはみんなで合唱したり、演奏したりするところですからね! 写真ならいっぱい飾ってありますよ!」
宇補先生が指摘したように、著名な音楽家の写真が壁にずらりとかけてある。
「額の裏になにかない?」
「調べてみましょう!」
タモちゃんや半たちがふたりひと組になって肩車をして。
額を裏返していくが。
「なあんにもないねえ」
デッドリィたちからは、ため息が漏れるばかりだ。