♯13 決戦は閃火のように
羊皮紙が鈴鹿の手からするりと離れて、ひとりでに浮遊したかと思えば。
タモちゃんの目の前で燃焼すると。
果たし合いの日時と場所が炎によって記された。
「エターニャか。あいつ、ぜんぜん懲りねえな!」
ジュテームが炎の日時を叩き消そうとするのだが。
「なんだ、こいつ!」
ちょこまか逃れて、なかなか叩き潰せない。
「きっと何か秘策を練ってきているはずです。タモちゃんはまだ休んでいてください。ボクたちで行ってきます!」
そう言って、鈴鹿がジュテームの腕を掴んで引き寄せるや否や。
置いて行かれると思ったタモちゃんが、急いでエナメル色のポーションを飲み干した。
しかしあまりのまずさに少し吐く。
「ダイジャうぷっ……。もう元気ひっぱひよ!」
全身がどどめ色に染まっていくタモちゃんに。
「おいおい、ほんとに大丈夫か? お前、病弱キャラ狙ってんの?」
「狙ってるかっ!」
ジュテームが頬をひくつかせるが。
タモちゃんがしがみついてきたので。
「これは何を言っても無駄そうですね」
鈴鹿が参った様子でため息をつく。
「わかりました……。ボクも先の戦いでは役立たずだったので、全力でタモちゃんをサポートさせてもらいます!」
「妖力はたっぷり残っているのよ。この体が高い出力に耐えられないだけ。妖術を使うと強烈な疲労と眠気がやってきて、意識を根こそぎ奪われてしまうんだ」
タモちゃんが華奢な腕を不満げにさすってみせる。
すると鈴鹿はふんふんと頷いて。
「ちいちゃい子って疲れると、唐突に眠っちゃいますもんね! たまにもの凄い体勢で眠っている子を見かけます! そこが可愛いんですけどね!」
「あたしをちっちゃい子供と一緒にしないでっ!」
「いや、おめぇは見たまんまだろ!」
「なんだとっ、がるるっ!」
「とりま、体を鍛えりゃ強い妖力にも耐えられるんじゃね?」
ジュテームがスクワットをしてみせるが。
「それが聞いてよ! 創造主がまた変なことを言い出してさ! 妖術が使える状態にすると、精神年齢が下がっていくって言うんだよ!」
タモちゃんは事の子細をふたりに話して、膨れっ面になる。
「つまり頭脳が子供になるまでなら、妖術は使い放題ってことですね! いいじゃないですか!」
「鈴鹿、あの創造主のことよ、安心できないわ。一時的にでも弱体化を止める方法はないかしら?」
タモちゃんの要望に、鈴鹿はほっぺに手をあてて。
「効き目があるかわかりませんが……、ボクの神通力がお役に立てるかも知れません」
「いいのがあるのねっ?」
「試してみる価値はありそうです。ただ、余り長くは持ちませんし、連続で効果を出すのも難しいでしょう。なので短期決戦になるかと思います」
「使いどころを選びそうねー……」
思い悩むタモちゃんを元気づけようとしたのか、ジュテームが。
「だったら雑魚を全部やっちまったあとに、エターニャに使えばいいじゃんよ!」
ちからこぶしを見せつける。
「そこで妖力を使い切っても倒せなかったら?」
「そんときゃお陀仏かもな! いざとなったら鈴鹿の神通力でとんずらよ!」
「あの、そのことなんですけれど……」
鈴鹿が申し訳なさそうに手を上げる。
「先ほど創造主さんが現れて、瞬間移動ができるようになるまで1分かかるようにしたと言われました……」
「マジかよっ?」
「おそらくヒット&アウェイができてしまうことに気がついたんだとおもいます」
「創造主、ほんっとにどっちの味方なのよ!」
「ボクたちは所詮、創造主さんの娯楽のひとつってことですね……」
「どの道すべてを撃ち込んで、それで勝てなきゃ、何度やっても勝てねえだろうよ。俺たちの目的はエディモウィッチを倒して、自由の身になることなんだぜ? 虐げられて生き延びるくらいなら、当たって砕けろだ!」
ジュテームのサバサバとした性格に。
「それもそうね!」
タモちゃんは少し元気が出たようだ。
みんなと笑い合っていたら、不安な気持ちもどこかへ消えて。
「鈴鹿、ジュテーム、出撃よ!」
タモちゃんは明日へ向かって指さした。