♯12 果たし状
きらんきらんの星空の下。
無窮に広がる大地で意識を取り戻したタモちゃんが目にしたのは。
先刻に見た、瑠璃色に輝く人型だ。
「創造主……? そうか、あたしは死んだのか……」
タモちゃんがため息をついて、悔しそうにうずくまる。
「違うよ。タモちゃん」
「えっ?」
「メンテナンスフィールドに来てもらったのは、重要なお知らせがあるからなんだ」
「死んでないのっ? なぁんだ、なになに、いい話っ?」
「いまタモちゃんは妖術を使うと、幼い体がついて行けずに疲れ果てて眠っちゃうでしょ。それを修正したいんだ」
「ああ、あれってやっぱりおかしいぞ! なんの縛りかと思ったし!」
「まず『妖力フリーイング!』ってかっこよく言うでしょ」
「んん?」
「すると妖術が使えるようになるんだけど、それと同時に精神年齢がどんどん下がっていっちゃうんだ。精神年齢もお子ちゃまになったら、妖術を使うのが難しくなるってわけ!」
「なんだか下方修正に聞こえてきたな……」
「精神年齢を戻すには『精神チャージ!』って言えばいいんだ。でも妖術を使えなくなるから注意して。さあ、目を覚ます時間がきたよ。頑張ってきてね」
空間がぐにゃりと歪みだして。
「ちょっと待って! まだ言いたいことが山ほどあっ……」
メンテナンスフィールドが掻き消えたと同時に。
タモちゃんは口から火を吹いて飛び起きた。
こぢんまりとした部屋。
ラックに乗った小さなテレビに。
安堵の胸を撫で下ろしたような、ジュテームの優しい顔が一瞬目に映る。
「心配させやがって。目覚めねぇかと思ったぞ」
「ここは……?」
「村長宅の客室だ。礼はいらねえ。体が軽かったお陰で運ぶのに苦労しなかったからな」
「そう。ありがと!」
タモちゃんがにっこり笑うと。
「な、なんだよっ、礼はいらねえって言っただろ!」
ジュテームが顔を見せないように背けて唇を尖らせる。
「もう村の再建が始まってるのね」
ベッドの左手にある、出窓の外を見やるタモちゃんに。
ジュテームが水の入ったコップを差し出した。
「魔法が進化を遂げた世界っつーてもよ。魔法で何もかもが元通り、てなわけにはいかねえんだと。復元阻止の魔法が掛けられているらしい」
リズミカルな音を大工が立てて、壊れた家々を一から立て直している。
「その、なんだ……、守ってやれなくて悪かったな。この次は絶対にやられねえ!」
申し訳なさそうにしながらも、ジュテームは威張った風な顔つきでいる。
平安の極悪妖怪と云われたあのジュテームが、責任を感じて看病をしてくれていたのだろうか。
タモちゃんはそれが可笑しくって、思わず口に手を当て吹き出した。
「笑うんじゃねえ!」
「ジュテームは丸くなったのね」
「てめえが人のこと言えるかよ!」
赤くなって強がっているジュテームに、タモちゃんの笑いが止まらない。
「ところで鈴鹿の姿が見えないけれど?」
「あいつなら怪我人の看護に行っている。学校じゃ保健委員なんだと」
「鬼神が保健委員っっ」
「社会奉仕が生まれ変わりの条件なんじゃね?」
「そうね、とりあえず無事でよかった」
ドアがノックを受けて。
野草の花束を持った幼子たちと年老いた魔法使いが、タモちゃんの部屋にやってきた。
タモちゃんの髪の毛がぱっと明るい萌葱色になる。
「お姉ちゃん! 目が覚めたんだね! これあげる!」
「ごめんね、仇討ちできなくて。悪者に逃げられちゃった」
「ううん、村を焼き払ったマジカリストと互角に戦ったんだもん。お姉ちゃん、すごいよ!」
年老いた魔法使いが、立派な光頭を下げてお辞儀をし。
「申し遅れました。村長のアルフォンスです。この度は村を救っていただき、お礼の申し上げようもございません。ささ、これをお飲みください。この村に伝わるポーションです」
エナメル色をした小瓶をタモちゃんに手渡した。
「ありがとう。凄い色をしてるのね」
「鼻血が出るほど元気になりますよ!」
「鼻血が出るのはやだなあ。あはは~」
「しかし変わった魔法をお使いになるんですね。あんな大魔法、初めて見ましたよ!」
「あれは魔法じゃなくて、妖術っていうのよ!」
「ほう、妖術と言うのですか! お陰で村は壊滅を免れました!」
そのとき、息を切らして鈴鹿が駆け込んできて。
「マジカリストから果たし状です!」
折りたたまれた羊皮紙を突き出した。