♯1 物語は日常風景から始まって
私たちが住む世界で例えるところのエーゲ海。
それは、もうひとつの地球ではウーグ海と呼ばれていて。
数ある無人島の、個人所有のとある島には、お酒に合う特別なケーキを提供する、大人のケーキ屋さんがあった。
一見モダンな美術館のような、ガラス張り建築物の一階が店舗スペースなっていて。
二階は居住スペースになっていた。
その木漏れ日が届くダイニングルームには、長方形の立派な一枚板のテーブルが置かれてあって。
朝の食事を待ちわびた六人の少女たちが、順ぐりに席へ着いていった。
左の端っこに座るのは、身長百センチ程度で銀髪の姫カットに、キツネ耳のヘアバンドをしたタモちゃんで。
「ジュテーム、おはよ~」
温かみのある白い生地に、紅葉するもみじの色でチェック柄が入った、秋ファッションのワンピースを着用している。
こちらの世界では唯一無二の妖術使いで、利用できない属性はないと言われるほどの、オールラウンドアタッカーなのだ。
そして伸びをしながらタモちゃんの隣に座るのは、同じく百センチ程度の小柄な身長で。
表情がきゅっと締まった、いかにも利発そうな顔立ちの童女。
「今日の朝ご飯はなにー?」
透かしたときに初めて赤だと分かるような、深い赤毛をツインテールに結い上げて。
火種色をしたローブデコルテを着る、六歳児のエターニャだ。
大概の魔法はそつなくこなす天才少女だが、最も得意なのは火の魔法である。
エターニャの肩を押しながら、その右隣に座ったのが。
「サンマの焼き魚定食! なぁんて。そんなわけないですよね!」
百五十センチほどの背丈に、ポニーテールがチャームポイントの半ちゃん十七歳。
近未来の宇宙服を匂わせる、体にピッタリフィットした、半透明のブラックスーツを身につけている。
忍者である半は弱体化させる魔忍法を十八番としていて、戦いでは大活躍だが。
ちょっとおっかなびっくりな性格の少女だ。
そしてテーブルに乗り上げて、イルカみたいに朝のちゅーをしようと、タモちゃんの向かい側に着いたのは。
「タモちゃん、どーーんっ! 弾丸ちゅっちゅーーっ!」
「うわあ、ヤメロッ!」
白いホルターネックに、青いミニスカートを穿き、髪の毛をお団子頭にしているデッドリィ十五歳。
背丈は半よりちょっと高めの百六十センチくらいで。
自分を負かしたタモちゃんのことが大々好きな中学三年生だ。
屍を自在に操るネクロマンサーだが、冷酷な氷魔法のスペシャリストでもある。