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♯22 非日常的なケイコク

 首都アンマン(オンモン)からずっと南へ行ったところに、赤い断崖の世界遺産で有名なペトラ(プテロ)遺跡がある。


 そこへたどり着くにはシークと呼ばれる道を進んでゆくのだが。


 そこは大陸が裂けてできたような細長い回廊で。


 道幅は二メートルほどしかないのに、両脇にそそり立つ絶壁の高さといったら。


「100メートル以上はあるんじゃね?」


 皆が細長い天空を仰ぎ見る。


 しかも今の時刻は夜の九時。


 日もとっくに暮れて、普通ならば真っ暗闇になっているはずなのだけど。


「さすがは世界遺産に通じる道だけはありますね!」


 半がうっとりと景色を眺める。


「キャンドルの火がたくさん灯っていて幻想的でキレイよね! ねえ、タモちゃん! ロナちゃん!」


「ががう! がぁううっ!」


 デッドリィが愛おしく語りかけると。


 屍タモロナが両手を振り上げ、振り回した。


「ふたりとも喜んでます!」


 鈴鹿の感激に。


「ホントに喜んでるのかそれ……?」


 懐疑心を抱くジュテームであった。


 道の両脇にはずらりと洋ロウソクが並べられていて。


 LEDではない本物の揺らめく火が、とても心打たれる神秘的な光景だ。


「観光客もたくさんいるネ!」


 クライネも気分上々で飛び回る。


「でもさ、デッドリィ。なんで夜なの? あのお婆さんが映える観光スポットを教えてくれただけとは思えないけど」


 と疑問を投げつつ、エターニャがスマホでパシャリ。


 それに映りながら。


「ここを進むとエル(ウリ)ハズネ(ホジヌ)っていう遺跡があるんだけど、そこに夜だけ出没する語り部(かたりべ)がいるって話よ。たぶんそれがお師匠さま(シャンプール)に違いないわ! ほら、見えてきた!」


 デッドリィが指し示した目的地は。


「なんつーでかい建築物なんだ! 断崖に直彫りしてんのかっ?」


「ジュテームさんが驚くのも無理はありません。ガイドブックによると、高さは40メートル以上、横幅は25メートル以上もあるらしいです。この断崖は太陽の光が当たると砂岩が熱に反応して赤くなるんですよ! まさに壮大のひと言ですよね!」


 鈴鹿たちが見上げる古代遺跡は、夜の今は剥き出しになった岩肌が薔薇色にライトアップされていた。


「いかにもお宝が眠ってそう!」


「クライネさん、大正解です! ウリ・ホジヌって、宝物殿って意味なんですよ!」


 鈴鹿の解説にクライネは色めきだった。


「そなのーっ?」


「まあ、財宝は残ってませんけどね!」


「なんだあ」


「とりあえず中に入ってみましょうよ!」


 半が言った言葉に、デッドリィは耳を疑った。


「あれ? いつも入れないようになってるのに、今日、入り口開いてるの! ラッキー!」


 しかし。


「待って! なんか様子が変だ!」


 エターニャが皆の意気盛んな気持ちを抑止した。


 音がない――。


「さっきまで観光客がたくさんいたのに……」


「ボクたち以外だれもいませんね」


 クライネや鈴鹿たちの視界から、人が消えてなくなっている。


 そのとき。


 風もないのにロウソクの火が波打つように明滅しだした。


 ウリ・ホジヌの入り口に向かって、炎の波が流れていくように見える。

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