♯21 惜しんではダメ!
ここは私たちの住む地球で例えるところの、ヨルダン・ハシェミット王国。
こちらの世界ではユリドン・ホシュマッテ王国と呼ばれるアラブの国家だ。
首都アンマンのとある住宅街に、デッドリィたちは降り立ち裏路地を突き進む。
空がどんよりと曇っているせいもあって、日差しが入らず薄暗く。
人気も無くて、閑散としている静かなそこは。
くすんだ白茶色の質素な家壁で。
張られたロープには干された洗濯物が作るトンネルがあり。
昼食時なのか、お豆の炊き込みご飯のような、美味しそうな匂いがどこからか漂ってくる。
それらが続く入り組んだ通り道を、デッドリィたちは足早に通り抜けていった。
とある袋小路にさしかかって。
突き当たりに木戸が閉められた小窓があった。
デッドリィは耳を当てて何かを確認したのち。
木戸をリズミカルに叩いてみせた。
コンッ、カカッカ、コンコンコッ!
すると――。
「なんのようだいっ」
木戸がザッと開いて老婆の声がした。
銀鼠の布で覆い隠していて表情は窺えない。
「あたしの師匠、シャンプールを探しているの」
デッドリィが老婆に話しかけると。
「シャンプー? 雑貨屋に行きな!」
老婆が木戸を閉じようとしたので。
デッドリィは急いで手で押さえ。
「シャンプーじゃなくて、シャンプール!」
「パンダを見たけりゃ中国行きな!」
「シャンシャンじゃなくて、シャンプール!」
「なんだって?」
「シャンプール!」
「ジャン・ピエール・ドンパッチーノなんてあたしゃ知らないよ!」
「逆にだれよっ、それっ!」
「帰んなっ!」
「ちょっ、待っ!」
老婆と木戸の開け閉めを攻防しているデッドリィに、ジュテームが紙幣を掴んだ手を突き出した。
老婆はそれを素早く奪い取ると。
「夜のペトラ遺跡に行きな!」
そう言い残して、木戸を完全に閉めてしまった。
「最初から教えてよ!」
デッドリィが吠えるのを。
「情報は金と同じだ。手土産を忘れちゃいけねえな」
ジュテームが諭してみせたが。
「居場所を教えるくらいタダでもいいじゃない! でも出してくれてありがと!」
デッドリィは腑に落ちないという顔をしながらも、一応感謝の笑顔を作って見せた。
「ああ、いいってことよ。来月分の小遣いから引いとくから」
「ひぃっ、あの、老婆め~~~っ」
デッドリィの癇癪を。
「まあまあ、それじゃ夜になるまで観光でもしていましょ!」
鈴鹿がなだめながら、楽しいことを提案すると。
「スイーツが食べたい!」
クライネが挙手をして主張してきた。
「ユリドンのスイーツってどんなのがあるんでしょう!」
半が半開きのお口を開けて想像するのを。
「アラビーヤアイスクリームなんかが有名ですね!」
鈴鹿は「クリームチーズのクレープ包みも食べておくべき逸品です!」と、皆にオススメする。
鈴鹿の熱量を感じたジュテームが。
「ほう? それは新作ケーキの参考になるかもしれねえな!」
と食指を動かして。
「スイーツは正義!」
と、エターニャもガッツポーズを突き上げた。
「じゃあ、繁華街へ行ってみましょ!」
デッドリィの号令に。
「がう! がううーっ!」
みな足取り軽く歩き出したのだった。
「え、タモロナちゃんも食べれるのっ?」