♯1 赤裸の白銀姫カット
「ちょ! 体がなんか子供っぽいぞっ? こんなの、平安の大妖怪・九尾の妖狐の生まれ変わりじゃなーーいっ!」
今は使われていない涸れ井戸に、天を切り裂きながらひとつの雷火が落雷した。
まばゆい光は消えることなく人の形に変化して、ひとりの女が産み落とされた。
身長100センチ程度の小柄な背丈で。
おそらく20キロもない、華奢な体に。
生まれてこの方、一度も切ったことがないのではと思うほどの、膝裏まである長い髪。
涸れた井戸のどん底で、小さなお手々を見つめて愕然と立ち尽くすのは。
頭にキツネのお耳をちょこんとつけたタモちゃんだ。
どう見ても大人には見えない外見と言うよりも。
来年、小学校に入るのを、楽しみにしてやまない童女のルックスそのものだ。
「よく似合ってるよ。ターモちゃん」
姿見の鏡が涸れ井戸の底に舞い降りてきて、創造主の言葉を発語した。
「創造主、なに考えてんだあ! こんな体で世界征服なんか止めれるかーーっ!」
「なにも物理で止めろなんて言ってないよ。妖術を使うのに大人の体は必要ないでしょ。それに……、君が絶世の美女と云われていたのは知ってるよ。美貌で男をたぶらかしていただろう? それは封印させてもらった。(この小説は全年齢対象なんでね)」
タモちゃんの片眉がつり上がる。
「ちっ……、読まれていたか。まぁいいわ。こんな形でも男によっては……」
「ん? なにか抜け穴でも?」
「わはぁ! それより、今どき鬢削ぎなんてありえないでしょ! しかも白って! それにミミーーッ!」
姿見に映るのは、現代で言うところの、姫カットをした白髪ロングのお子様だ。
そしてキュートに動くキツネ耳。
「タモちゃんは平安時代出身でしょ?」
「出身ってなによ!」
「平安美人はそうでなきゃ!」
「平安時代の女が全員鬢削ぎだと思うなよ!」
「ちなみに、感情の起伏次第で髪の毛の色が変わるようになってるぞ!」
タモちゃんは、にわかに髪の毛がどどめ色に変わっていることに気がついた。
「ひいいっ、あたしの髪はサーモカラーかっ!」
全身の毛穴を逆立てているタモちゃんに、姿見の鏡はクスクス笑って。
「主人公は派手じゃないとね!」
「こんなのすぐに切ってやる!」
「髪は切らない方がいいよ。長さで妖力の強さが変わるんだ。弱点があったほうがスリリングで面白いでしょ?」
「もしかして、あたしに不利な試練を与えて喜んでない?」
タモちゃんが半眼で姿見を睨んでやると。
「物足りないの? なんなら尻尾も付けようか?」
「気のせいですぅーーっ! もう、すっごく大満足! きゃは!」
「はっはっは! それは良かった。一刻も早くエディモウィッチを討伐してくれることを祈っているよ。ではーーっ!」
姿見が天へと飛んで。
「ちょっと待って!」
「そのキツネ耳はヘアバンドだよ。ただし外すと精神年齢も子供になっちゃうから注意してねーーっ」
「いや、あたし、すっぽんぽんなんですけどーーーーーっ!」
無情にも、創造主の気配はなくなった。
タモちゃんは光が差し込んでくる井戸の上を仰ぎ見て。
「まったく、ロングヘアの女が井戸から這い出てくるシチュはいいのか。耳を外すと精神年齢も子供になるって? 最後にとんでもない弱点をぶっこんできたな! てゆか、さむっっ」
キツネ耳をもふもふしながら、白い吐息をふっとつくのだった。