そこにあるのは山より高い城
主人公は裕太
女の子ははるか
僕は今、家の近くの公園にいる。
砂遊びの真っ最中だ。
誰といるかだって?
1人に決まっているじゃないか。
僕は5歳の男の子だ。
1人で遊んでいてもなんら問題はない。
公園のベンチにはお母さんがこっちを見ながら座っているが、遊んでいるのは僕1人だ。
別に遊んでほしいとは思わない。
僕は1人である程度なんでもできる5歳だからだ!
僕は今、砂場でお城を作っている。
個人的には良い出来だと思う。
ピラミッド型のお城には、真ん中に腕が一本入るくらいの大きさの穴が空いている。
なかなか良い出来だと思う。
崩れそうで崩れない。強固な城だ。
僕はお城の穴に、ピカピカに磨かれキレイでツルツルな砂団子をすっぽりと入れた。
特になにかしたかったわけではなく、なんとなく衝動的に入れたくなったからだ。
ちなみに、砂団子は3日間かけてゆっくりじっくり固く作ってある。
作ったのは昨日の昨日の昨日だ。
と、僕が砂遊びを楽しんでいると、僕の視界の端に女の子用の赤い靴が入り込んできた。
ふと見上げるとそこには見たことのない、茶髪の良いとこ育ちっぽい、そこそこに可愛い少女がいた。
「ねぇねぇ。なにしてるの?」
少女は笑顔で話しかけてきた。
「砂のお城を作ってるんだよ」
少しひきつった笑顔で返した。
僕は少し、少しだけ、本当に少しだけ、知らない人と話すのが苦手だ。
兄はコミュ障だと言っていた。意味はよく分からないけど、なんとなく嫌な言葉だと思った。
「楽しいの?」
少女は不思議そうに珍獣でも見るような目をしながら聞いてきた。
「すごく楽しいよ!」
僕は元気に答えた。
知らない人と話すのは苦手だけど、楽しいものは楽しいから元気に答えた。
「ふーん」
少女はあまり興味なさそうな声で返してきた。
「一緒にやる?」
なんとなく聞いてみた。1人でやるより2人でやる方が楽しいかもしれない。
「やるぅー!」
少女は笑顔で答えた。
もしかしたら誘ってほしかったのかもしれない。
それから僕らは一緒に砂遊びをした。
<--1時間後くらい-->
「裕太~そろそろ帰るよ~」
お母さんから帰宅命令が出た。
この言葉が聞こえると僕は家に帰らなければならない。
だから、いつもの僕は5歳だから駄々をこねることなく、素直に帰る。
でも、今日は帰りたくなかった。
少女と遊ぶのがとても楽しかったのだ。
砂のお城を試行錯誤して最高のものを目指して作る。
2人で一緒に作る。
それがとても楽しかった。
僕は
「いやだー!まだあそぶぅー!」
お母さんに反対した。
「もう!そんなこと言わずに、ほら!帰るよ!」
お母さんは帰る気まんまんなようだ。
「やだ!」
僕はそれでも反対する。
僕は助けを求めるように少女を見た。
少女は見ているだけで助ける気はないようだ。
このままじゃ、負ける。
お母さんに連れ帰られる。
僕がどうやってこの場をくぐり抜けようか考えていると、女の子に近づいてくる人影があった。
その人はさっきまで公園の近くに車を止めて、こちらをずっと見ていた人だ。
その人は黒い車から降りると、黒いスーツで少女に近づいて言った。
「はるかお嬢様、そろそろ帰る時間でございます」
少女の保護者らしい。
「わかったわ」
はるかちゃんはすぐに了承して帰る準備を始めた。
帰る準備といってもただ服についた砂を払う程度だ。
砂場にはスコップなどがころがっているが、全て僕のだ。
「ほら、あの子も帰るって言ってるよ。裕太も帰ろ?」
母がここぞとばかりに言ってきた。
くっ、打つ手なしか。万事休す。
仕方ない、帰るか。
「はぁい」
僕はあからさまに落胆した声で返事をした。
それから、お母さんは黒いスーツの人に「うちの子がお世話になりました」とか言っていた。
よくわかんないけどそういうのを言わなければいけないのだろう。
僕は遊び道具を片付けて帰宅準備を完了させた。
別れ際に僕は、
「はるかちゃんバイバイ」
と言って手を振った。
遊んだらバイバイする。当然のことだ。
はるかちゃんも、
「裕太くんバイバイ」
と言って僕に手を振った。
どうでしたでしょうか?
まぁ面白いかと言われれば面白くないと思いますが、続きます。
少しの間、お付き合い下さい。