第4話 「焔高の生存者達」
教室のロッカーの中で口を両手で塞ぎ
必死に声を抑えている女の子がいた。
彼女は『来恋千メグミ』
異形襲来前の異様な地鳴りの時から
驚いてロッカーに篭っている。
生徒達や異形が立てる騒がしい音が
しばらく続いていたがやがて鳴り止み
メグミはロッカーの空気穴から教室を覗く。
「ヒィッ!!」
教室には至る所に血が飛び散っていて
ロッカーの前には一人の女の子が異形に
食い散らかされた悲惨な姿で転がっている。
恐る恐るロッカーから外に出る。
「えへへ……喉乾いちゃったなぁ……」
転がる亡骸を前にそう言った。
メグミは廊下の水道に行くが
蛇口に血が飛び散っていて水が飲めず
顔をしかめている。
「一階の自販機まで行けるかなぁ……こわいなぁ~」
階段を降りようとした時に一階から
大耳の異形が上がって来てしまう。
「ふぇぇ!!なになにーーー!!!!」
声を察知した大耳の異形は
メグミの方に振り向き、発達した後脚で
地面を蹴り上げて勢い良く飛び掛る。
「ウッ――」
体当たりされて吹き飛ばされるメグミ。
「痛いよーーー!!!!」
大耳を異形はノソ……ノソっとゆっくり近づき
大きく口を開けてメグミを捕食しようとする。
「キャァァァア!!!!」
「――――えっ……?」
大耳の異形は粘着質な糸に絡まり
倒れてもがいている。
他の異形が出した物だろうか、
メグミは一命を取り留める。
「メグミーーー!!大丈夫かーーー!!」
校舎に入ったセイヤとリョウヘイ
後、ウズキがメグミの悲鳴を聞き走って来た。
「セイヤ君!!リョウヘイ君!!
何か大変なんだよーーー!!」
セイヤは大耳の異形からメグミを引き離し
リョウヘイはもがく大耳の異形の頭を木刀で
殴打して叩き割った。
「会えてよかったぁ~」
ほのぼのした満面の笑みを浮かべる。
「かっ……可愛い……」
ウズキはメグミに一目惚れしてしまう。
「おいチンチクリン、メグミに変な気持つなよ」
「べべべ別に!?惚れてねーーーよ!!」
ウズキはそう言いながら絶命してる
大耳の異形をメリケンでドスドスしている。
「レイは見てないか……?」
「そうだ!!レイを探してるんだ!!
必ず生きている筈だ!!」
リョウヘイの問い掛けに思い出すように
セイヤは勢い良くメグミは肩を揺する。
「見~て~な~い~よ~」
「セイヤ、メグミの首がモゲるぞ」
「す、すまない!!取り乱した!!」
メグミは目をグルグル回して倒れ込み
セイヤとリョウヘイに会えた安心からか
そのままヨダレを垂らして寝てしまう。
「こんな状況でよく寝れるな……セイヤ、
責任持って運べよ……」
「俺とした事が!!その罰しかと受け止めよう!!」
セイヤはメグミをおんぶした。
メグミの巨乳がセイヤの背中に当たって潰れる。
「おい!!そんなんご褒美だろ!!ズリーぞ!!
俺におんぶさせろ!!」
「お前は黙れ……いちいち喚くな……」
「お気遣い感謝する!!しかし君は身体がメグミより
小さいから君の機動力を落としてしまう!!
俺の代わりにこの木刀で怪物を退治してくれ!!」
「――しょ、しょうがねーな~」
ウズキはセイヤから木刀を預かる。
「はぁ……バカばかりで疲れる……」
余計なお荷物を拾ったと後悔するリョウヘイ。
あらかた異形は先に進行した様で
移動しやすくなっているが、
レイを中々見つけることが出来ずにいた。
「ダメだ……見つからない……」
「諦めるのが早すぎるぞ!!」
「そうだぜ!!まだ、校舎の半分も捜してないぜ!!」
「そうか……誰かさんが怪物と出くわす度に
イチャついてるから結構捜した様な気がしててな……」
「うるせぇ!!俺様はやっぱメリケンだぜ!!」
そう言ってウズキは木刀を投げ捨てて
金色に輝くメリケンを指にはめる。
「余計使い物にならなくなるから木刀を拾え……
お前のお守りしてる程暇じゃないんだ……
これ以上面倒かけるなら別行動だ……」
「焔高最強のこの俺様を置いてくだと??
後悔するぜッ!!」
「あぁ……拾った事を後悔してるよ……」
珍しく親しくない人と会話を弾ませるリョウヘイに
何故かセイヤは嬉しそうな目で見ている。
「おっ!!生存者発見!!」
突如下の階段からひょっこり現れた彼は
異形に飛び込んで行った祖埜シツキだった。
「おぉ!!他にも生存者が居たか!!良かった!!」
「待て……こいつの制服汚れ一つ無いぞ……
怪しいな……お前もこの怪物の類いだったりな……」
「おっ!鋭いねぇ~、でも安心して僕は君達の味方だよ!
そしてこれは怪物じゃなくて異形って言うんだ」
シツキは生きてるヒルの異形の尻尾を掴み
ブランブランさせている。
「おい!そいつ生きてるぞッ!!」
「大丈夫大丈夫!こいつは雑魚だから!」
そう言うとシツキはヒルの異形に付いている
黒く丸い部位をデコピンした。
「この黒いのは異形全種が共通して持っている物で
コアと呼んでいる、このコアに少しでも傷を付ければ
異形は生命活動を停止するんだ」
「おぉ!有難い情報感謝する!!」
セイヤは真っ直ぐに感謝を述べるが、
早く知りたかったとなんとも言えない顔をする
リョウヘイとウズキ。
「情報共有は助かるが……お前余計に怪しくなったぞ……?異形とか言う存在を元々知っている様だしな……」
「まぁ~信じて貰えなくても結構だよ、
とりあえず安全な場所に案内するから着いてきなよ、
詳しい話はそれからって事で」
「悪いが俺達は今、捜している人がいる……
着いて行くのは見つけてからだ……」
「雪ヶ原レイさん……かな?」
セイヤとリョウヘイは驚愕した表情でシツキ見る。
「雪ヶ原さんは既に安全な場所にいると思うよ、
僕の友達と屋上に向かって行くのが見えたからね」
セイヤとリョウヘイはレイが無事だとわかり
ホッとした。
「うぅ~ん……」
目をゴシゴシしながら目を覚ますメグミ。
「おッ!起きたか!!」
「ごめんね~寝ちゃってたぁ~」
メグミはウズキを寝ぼけ眼で
じっと見ている。
「や、やぁ!!メグミちゃん!!
俺様は蘭闘ウズキ!!メグミちゃんが寝ている間、
護ってやったんだぜい!!」
金色に輝くメリケンをはめた手を掲げ
渾身のドヤ顔を決めるウズキ。
「そうだったんだぁ~!!ありがと~♪」
「いえいえ!メグミちゃんの為ならばこの命尽きるまで
お護りしましょうッ!!」
「お前は異形に襲われてただけだろ……」
「それじゃ、雪ヶ原さんの居る屋上に
向かうとしようか、校内で生き残っているのは
君達で最後みたいだしね」
「そうか……みんな異形に……」
祖埜シツキ、輝義志セイヤ、風桐リョウヘイ
来恋千メグミ、蘭闘ウズキの五人は
校舎に留まっている少ない異形を倒しながら
屋上に向かう。