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七つの光が届くところ

 ルヴェニール城の広場は各国から招待された人々で賑わっていた。演奏家たちが軽やかに音楽を奏でる中、皆が祝賀会の始まりを今か今かと待っていた。そこには、ルヴェニール家の貴族はまだ誰もいない。まだ、式典の最中なのだ。


 「すごい光景だな。」

 広場のバルコニーから、ルヴェニール王家のみの式典を見ながらエルは呟いた。

 『式典の最中、絶対にホールに近づいてはいけない』

 そういい付けられていたため、式典は見ることができないものだとあきらめていたのだ。

 「何を見ているんだ?」

 祝賀の演奏で足音に気づかなかったエルは、驚いて振り返った

 「何だ、フェンか。」

 「何がみえるんだ?私に気がつかないほど、気になるものなのか?」

 そう言って、フェンはエルの隣に立った。実際、フェンはエルよりもずっと背が高いため、隣に立ってもエルの頭の上から周りを見渡すような形になった。そしてすぐにエルが夢中になっていたものに気がついた。

 「式典か。アレは王家のみの式典であるから近付けないが、ここから見る分には何も支障はないよ。むしろ、アレを見られるのは年に一度の今日だけだし、よく見ておいた方がいい。」

 フェンは過去を思い出すかのように頷きながら言った。

 「フェンは見た事があるのか?」

 「何度か祝賀会には招待されたことがあるから…前に見たのは3年ぐらい前になるかな。詳しい原理は教えてくれないからよく分からないんだが、とても綺麗で神秘的なものだったよ。」

 フェンにも分からないことがあるんだ、と驚きながらもエルは目線をホールに戻した。

 

 『魔法が長けている、ルヴェニールでしかできない式典』

 今日の祝賀会に招待されたときから、見てみたいとずっと思ってきたのだ。ホールとバルコニーは離れているため、言葉の内容までは上手く聞き取れないが、式典は歓喜の渦に巻き込まれているようだ。エルにとっても念願の式典であったため、その式典に不自然なところがあるのに、なかなか気づくことができなかった。

 ホールの隅に白い布が置いてあるのだ。ホールは床が七色に光っている何かの周りを石柱が取り囲んでいるだけで、それ以外に飾りはない。むしろ、式典の邪魔にならないように綺麗にされているかのように見えるのに、何故か白い布がたった一つだけあるのだ。何か式典に必要なものなのか?エルはそう考えながら、その不自然なものを見つめていた。

 


 ホールでは、正面の小さなフロアには一人の男性が両手を上げて皆を制するような形を取った。その動きに呼応するかのようにホールがやっと静けさを取り戻した。その男性は紺に金色で刺繍を施されている肩掛けをまとい、左胸に王家の紋章を飾っていた。ホールに集まったルヴェニール王家の人々から国王と呼ばれる彼は、若いながらも絶大な支持を持っているようだった。

 「皆、今日は本当にありがとう」

 ホールに向かってセルシアは語り始めた。今、ホールのフロアに立っているのはセルシア国王だけで側近らしいものたちもフロアの下で、セルシアの言葉に耳を傾けていた。

 「また1年、無事に過ごすことができた。ルヴェニールが今も聖地でいられるのは皆のおかげだ。今、国外では闇が少しづつ大きくなっていると聞くが、我らの力がある限り、我が王国が侵略されることはないと思う。」

 セルシアは力強く話し、ホールを見渡した。

 「この聖地を守り抜くために、また1年皆の力を借りたいと思う。」

 言い終わるとき、セルシアは左奥の白い布を見つめた。


 「私めの力は、全てルヴェニールのためにあります!」

 前列の髭の生えた男が、感極まりない表情で答えた。

 「ありがとう、アル。私も同じだよ。」

 前列に目を移して、セルシアはゆっくりと答えた。そして、ホールが再び騒ぎ始めようとしているのをさえぎるかのように、ホールに降り立ちセルシアは大きな声を出した。

 「さあ、皆、始めよう!心を一つに!祈るは、ルヴェニールの安泰と繁栄を!!!」


  

 白い布の壁越しに少女はその時がやっと始まるのを感じた。少女にとっては何も祝う気持ちも沸かない、ただの苦痛の時間でしかないのだ。さっさと終わらせて帰りたいのが本心であり、本心から祈っているのかといえば自分でも怪しい。

 そんな疑惑を振り払い、母に教えてもらったように目を閉じて呼吸を整えはじめる。身体が軽くなって、足元が自由になり、床にあった何かが体中にまとわり付くような感覚になる。前身の血液が心地よく温かくなり、まとわり付く何かと呼応するかのように脈を打ち始める。その呼応の脈が七色の光となって少女の周りから流れ始めた。その呼応の波は、セルシア国王の足元からの光の脈の波紋よりも大きく、王家の全員の波紋を打ち消して少しずつ範囲を広げていく。その範囲はホールを中心に城内を囲み、国土へと広がっていく。城下では、光の波紋の到来に、喜びの声が湧き上がっていた。

 そして、その光の波紋の中心を、セルシアだけが見つめていた。



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