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祝祭

 『痛い…』


 もう何度目か分からない痛みに、少々憎らしさを込めながら頭を押さえた。多分、記憶が正しければ、まだ半分しか進んでないはず。目的地まで、記憶をたどって進んでいるため障害物に出くわすのだ。

 『前に15歩、右に曲がって26本目の柱を左に曲がって……』

 記憶は正確ではないかもしれないが、多分あっているだろうという自信はあった。周りを歩く人の流れが、自分の進む方向と一致していたからである。誰かが道を指し示して教えてくれるようなことはなかったし、自分の周りには一定の距離を置いて誰も近づこうとしていないのだろうという確信もあった。

 

  ドンッッ!

 せめて顔面からぶつかることがない様に、両手を不自然にならない程度に広げて歩いていたはずなのに、何かに又も正面衝突した。手探りなため、何かは分からないが硬いものなのは確かだった。鈍い痛みを感じながら、別の不安が襲い掛かってきた。

 『声を出してしまったかもしれない…』

 自分の犯してしまったかもしれない失敗に、胸が締め付けられる思いだったが、その緊張はすぐに解けた。後ろから、周囲を気遣うようにかすかに笑い声が聞こえたのだ。その堪えられなかった、人を見下すようなその微かな笑い声の主は、その行為を恥じるかのように足早にいってしまったが、その行為は憎らしい反面、ほっとした。笑われることなど、どうでもいいのだ。禁忌を犯していたのであれば、笑われることなどないし、ましてや、どんな罰が下るのか考えたくもない。その思いを、額と鼻の痛みと一緒に振り払うかのようにゆっくり頭を振った後、障害物を避けてまた歩きはじめた。

 『内装替えし過ぎなのよ!!』


 

 城のちょうど中心にあたる所には屋根がない、大きなホールがあった。そのホールの床は石でも木材でもないものが敷き詰められている。陽の光の当たりぐあいによって七色に変化するその石のような固形物は乱れることなく床に埋まっている。その上には、すでにそのホールを半分以上埋め尽くすほどの人が入っていた。彼らは皆、歓喜と興奮に満ち溢れた表情でその時をまっていた。誰もがここにいられることを幸福に思い、その名誉を存分に楽しんでいた。そのホールの一番後ろの左の隅の石のようなものの上に少女はようやく到着した。

 何度ぶつかったか思い出せないが、身体の至る所に傷がある感じがする。すっぽりと全身を覆っている布のおかげで直接的な傷は避けられたものの、打撲は覚悟しなければならない。だんだん薄まっていく痛みを感じるように目を閉じてみると、自分の周りにもう招待されたほとんどの人が集まっていることに気付いた。

 『90…… いや、もう100いったな。』


 ホールの正面に現れるはずの人を今か今かと待っている歓喜に溢れる目に、数人の護衛が映り始めた瞬間、その歓喜が喜びの声となってホールに爆発した。

 その割れんばかりの喝采の中、一人の男がゆっくりと現れてくる。多分、今この世にある、一番上等な糸で紡ぎだされた服が、陽の光をいっぱいに浴び、これ以上ないほどの輝きを放っている。そのホールで、歓喜の声を上げている者たちも、この日のためだけに仕立てた真新しい服をまとっている。左奥に佇んでいる少女を除いて。



 「ルヴェニール王国万歳!!」

 「セルシア国王万歳!!!」



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