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始まりの日

 外からコトリが鳴いているのが聞こえる。


楽しそうに声を弾ませて話してもいるかのようだ。今日は快晴。まだ午前中だというのに、日の光が明るく、周りを眩しいくらいに照らしている。全てのものを、その光で輝かしくしているかのように。

 窓を開けると、それを待っていたかのように、コトリが入ってきた。一羽ずつ、まるで「おはよう」と言うかのように、さえずりながら頬をかすめていく。コトリの挨拶が終わった後、外からにぎやかな人の声が聞こえるのに気がつく。普段はめったに人の声など聞かない。いや、届かない場所なのだ。何人いるかは分からない、会話も聞き取れなく、ただざわざわと賑わいをみせている。

 その時、忘れようとしていた一通の封書を思い出した。まっさらな封書。1年に一回だけ届くその封書は、内容には意味はなく、届くことに意味があった。内容は、初めて届いたその時から同じ文字を連ねる。一度たりとも変わることのない文面は、同意を求めるものではなく、強制を示していた。

 窓はそのままにして、人を感じることができる音を傍らに朝食をすませることにした。コトリは各々好きな場所にとまっていた。窓の縁、戸棚の上、机の片隅、中には朝食のパンの隣で今か今かとその時を待つ子もいる。いつも左肩に乗るのは一番小さなコトリ。声も小さいがとてもきれいな音色を響かせる。朝食はいつもコトリたちと一緒。パンを分けて、みんなで食べる。食卓を囲む気分を味わえる、自分以外の何かの存在を感じさせてくれる瞬間でもあった。

 しかし、今日はそんな楽しみしている時間も上の空になってしまう。脳裏をかすめるのはあの封書。一週間前に届いてはいるが、開封はしていない。中身をあけても意味がないからだ。破り捨ててしまおうか、そんな思いは今まで何度も考えたが、できなかった。できない自分に腹も立ったが、どうすることもできなかった。憎らしい封書も、自分以外の存在を示すものであり、そう感じてしまう自分にさらに腹が立つのだった。


 そんな自分を慰めるかのように左肩のコトリがやさしい音色を響かせてくれた。その響きに合わせて席を立ち、白い大きな布を頭から被った。裾は足先をすっぽりと覆い、腕は自由に動かせるが手先が布の外に出ないように、しっかり縫い付けられている。フードは大きめに作られ顔を大きく隠し、足元がかすかに見える程度の作りとなっている。まるで大きな布の塊がうごめいている様だ。自分でもその光景が目に浮かび、嫌になる。しかし、これが、正装なのだ。大きく深呼吸をした後、布越しに封書をつかむと、心を決めて歩き出した。

 家の扉を開けると、暖かい日の光が背中を押してくれるように入ってきた。家の中のコトリたちもいっせいに飛び出していった。


 レンガの上を一つ一つ思い出すかのように突き進む。間違えないように。ちょうど72個目のレンガの上で足を止める。目の前には重く硬い鉄の扉。その横からは、決して登ることのできないように内側に反り返している壁が連なっている。その中央にある鉄の扉からは、布越しでも冷たい呼吸が感じ取られる。それは、外の世界の人々が与える冷たさと似ている。冷たい呼吸にさらされながら、合図を待った。

 太陽を拝むかのように上を見上げてみた。果たして、この光は励ましなのか、冷やかしなのか。扉の向こうから人々の声が聞こえてきた。嬉々とした声は、この日の重要さを物語っている。歌声が空中に響いている。


 鈍い音が突然響いた。鉄の扉が大きく呼吸をしたのだ。合図だ。ゆっくりを扉が開いていく。空から届く光の量は変わらないのに、目の前が眩しくて眩みそうだった。新たに示された道を、また歩き始めた。人々の歌声が遠くなり、自分の心の音が大きく聞こえてきた。

 目の前に人が立っていた。「封書を確認する」とできる限り、簡潔に聞いてきた。あまり関わりたくないのだろう、声をかけることにすら嫌悪感を感じているようだ。そんな、門番らしき相手に、封書を見せた。それをちらりと確認すると、彼は大きな声で確認終了の返答をした。

 

 『ルヴェニール王国、セルシア国王生誕祝賀祭、招待!!』



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