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二重帝国のはぐれ者達  作者: ✝漆黒の陽炎✝
蠢き
11/11

2

予約し忘れてました。

 澱みの発生は『門』と同時と言われている。共に似たような空間の異常なのだが、『門』は異世界、もしくは他惑星を繋ぐ文字通り『門』であるのに対し、澱みは魔界へ繋がる空間断裂のことだ。

 何故魔界かと言えば澱みの先の世界から妖怪が生まれているとされているからだ。少なくとも、向こうには妖怪しか確認されていない。妖怪は澱みの向こうから溢れ出てくるというのが最も有力視されている仮説だ。

 そんな澱みが東京都心のど真ん中に現れたって言うのに、暢気だねぇ。

 ローゼマリーは呆れたように規制線の向こうの野次馬を眺める。

 事務所の仲間と通話してすぐに現れた警察により路地とその周辺は封鎖された。そして澱みのことが周知されているにも関わらず野次馬やマスコミが囲んでいる。完全武装の請負人が珍しいのか皆が一様にカメラを向けてくる。


「各員装備点検」


 清一郎のやる気のなさそうな声に意識を戻し、目の前の蓮華、恵子と組になって装備を点検していく。点検と行っても通信は電脳だし発動体は指輪だしローゼマリーには殆ど何もないのだが。魔界内部の調査を行う蓮華の機材の点検と補給も兼ねている恵子の物品確認を進めていく。重蔵とウメコが互いの刀と弓をお互いに軽く点検し、清一郎とニーが銃器の動作確認をしている。一番時間が掛かるのは清一郎とニーだろう。


「警察が居るのになんで請負人が行くの?」


 八三式小銃の動作確認をしながらニーが清一郎に聞いていた。


「請負人は安いからだよ。俺たちも仕事が無くなったら困るしな」


 清一郎がホルスターの位置を確認しながら答える。

 近くを通った警官が怪訝な様子で清一郎を見た。警官から見たらサイアム語を喋るニーに清一郎が日本語で返しているように見えるからだ。これはニーの首に付いた咽頭マイクから拾った音声を結城が日本語に通訳して全員に伝えているからだ。何故そうしているかというと事務所の全員を翻訳するよりもニー一人を翻訳した方が結城の負担が少ないからである。


「請負人雇うのって結構お金必要だったと思うんだけど?」

「人を澱みに入れられるぐらいに育てるよりはよっぽど安い。死なれても育てた育成費が無駄にならないからな」


 元も子もない清一郎のセリフだが、その通りだ。警察や軍隊を使うよりも安いからこそ請負人の需要は消えないのだ。テレビだと請負人じゃなくて警察や軍隊に任せた方が安くて安心できるとのたまう御意見番をよく見かけるが。軍人や警官が畑から生えてくるとでも思っているのだろうか。


「はい、注目」


 装備点検を終えた清一郎が手を叩いて視線を集める。野次馬やカメラも清一郎に目を向けているが、清一郎は全く気にせず喋っていく。


「今回の澱みは発生して一ヶ月以内のもの、警察がサボってなければだがね。まあ、帝国の警察は真面目だから大丈夫だろう」


 清一郎は状況確認を口頭で行っていく。態々口頭で説明しているのは電脳化していないニーが居るというのあるが、一番の理由は事務所の戦力はあまり公にするべきではないからだ。特に電子精霊結城が通信を統括しているという辺りは。


「はい所長! 澱みが発生してからの期間ってなんか意味があるの?」

「発生してからの期間が長ければ長いほど強力な妖怪が生まれると言われてる。だから澱みの生まれた時間から大体の戦力が予想できるわけだ」

「私、祖国でそんな話聞いたことないんだけど」

「諸説あるからな」


 諸説あるというか何も分かってないというのが正しいのだが。『門』についても澱みについても殆ど何も分かっていないのだ。


「それじゃあ、澱み内部に突入する。いつも通りマリーが最初で、重蔵、俺、ウメコ、ニー、姉さん、最後に蓮華だ。質問は?」

「なし」

「え、あ、なし」


 皆が同時に返事を返し、ニーだけが遅れる。質問は? という問いにきっちり返答するのは軍のやり方に影響を受けている、らしい。清一郎はそうやって教わったとローゼマリーは聞いている。ちゃんと話を聞いているかどうかの確認らしい。


「んじゃ、頼んだぞ」


 ローゼマリーは頷き、まずはカメラを持った腕だけを内部に侵入させて数枚撮影。付近に妖怪が居ないことを確認して重蔵と共に内部へ潜入、安全を確保した後に手招きで合図をする。『門』もそうなのだが、何故か電波は空間の裂け目を超えられないのだ。

 全員が侵入したところで順番に各種装備を点検する。澱みの内部に侵入したときに何かあったことなど一度も無いのだが、それでもキチンと確認をする。澱みは何も分からない現象なのだから何があるか分からないからだ。


『いつも通り全員無事侵入成功ね』


 全員に響くアニメ声、ニーが不思議そうな顔をしている。


「結城さん、どうやって来たの?」

『私の魂を清一郎の電脳に宿らせてるんだよ。私は事務所の要だからね! 常にみんなと一緒なんだ』


 自慢げな結城の声にニーはそうなんだと曖昧に頷いた。全員の通信を統括し各人の位置情報や身体情報、確認した敵情報を整理し分配する結城は誇張でも何でも無く事務所の要だ。最終責任者である清一郎よりも重要だったりする。


「行くぞ。前進」


 清一郎の命令とともにローゼマリーと重蔵を先頭にして前進する。

 澱みの内部の風景はビルとビルの隙間、つまりは入ってきた路地に似ていた。ただし、大通りのあるはずの方角にはビルのような壁ができていて、場所としては袋小路になっている。袋小路の反対方向は道が続いているが、二つの丁字と曲がり角になっているのが見える。そして人一人が通るのが精一杯だった道幅が車がすれ違える程度の広さになっていた。

 澱み内部は複数の小部屋とそれを繋ぐ通路で構成される、迷宮型といわれる内部構造をしていた。いくつかある澱み内部構造の中では少数精鋭の清一郎達にとってやりやすい構造だ。なんせ、通路で敵の数を制限できる。


「ニー、俺の命令があるまで撃つな。ただし、自衛もしくは蓮華と姉さんを守る時は命令を待つ必要はない」

「……わかった」


 ニーは不服そうではあるが頷いた。実力と経験はあっても事務所に入って間もない上に電脳化すらしていない状況である。作戦行動をさせるには少々不安がある、見て学べという判断だ。ニーもそれが分かっているから了承していた。

 最初の丁字路を左に曲がり、まっすぐ進んだところにあった小部屋の前で停止、ローゼマリーが扉に耳を付けて中の音を聞き取る。


「……小型の二足歩行、動いているのは七体」

「餓鬼か子鬼辺りか……俺がやる。マリーと重蔵は撃ち漏らしを頼む」

「了解」


 二人が頷いたのを確認した清一郎はローゼマリーと重蔵以外を下がらせると扉を蹴り開けた。

 中には棍棒を持った十歳ぐらいの子供大きさの、緑の皮膚をした子鬼がいた。扉が開いたことに反応する前に二匹の頭に風穴があく。そして反応できた子鬼のウチ二匹に風穴が飽き、清一郎達の方へと向かって走り出そうとした二匹にも風穴があき、最後に一歩踏み出した子鬼に風穴が空いた。

 そして子鬼の奥に居た人型の石像が動き出した。

 動き出した石像の右足が突如砕け、石像がバランスを崩す。石像を確認してすぐに清一郎の背後から飛び出したウメコの弓だ。バランスを崩した石像の胸にシンプルな槍が突き刺さり、ふっと消失する。ローゼマリーの魔術、炭化タングステンにコバルトの混じった超硬合金で作られた槍だ。亜音速で石像に突き刺さった槍は石像の核に突き刺さり破壊。接合部位を失った石像はバラバラになって転がった。

 清一郎、ローゼマリー、重蔵、ウメコは部屋の安全を確認し、他の三人を呼ぶ。


「入り口付近とはいえつまらないなぁ」

「楽でいいだろ。命がけの仕事なんぞない方がいい」


 消化不良といった重蔵に清一郎が舌打ち混じりに言った。

 そんな二人の後ろでニーが目を丸くしている。


「……連携が凄い。ちょっとナメてた」

「連携は電脳があるからね」


 ローゼマリーは頭を指しながら答える。

 

「さっきの戦闘で言えば、清一郎が扉を蹴り開けて確認した情報は結城が分析して私達に伝えてくれてる。だからウメコは合図無しに部屋に入って矢を射ったし私もそれに合わせて槍を撃った」

「なるほどね……コレが最新の戦闘なのね」


 感心するようにニーが頷いている。結城の存在を前提としているため最新と言うよりも事務所特有と言うべきなのだが。


「全員異常は無いな、進むぞ」


 恵子から受け取った弾丸を装填し直した清一郎が命令を下した。

 ローゼマリーは仕事をすべく次の道へと続く扉へと向かった。

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