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二重帝国のはぐれ者達  作者: ✝漆黒の陽炎✝
蠢き
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1

 ローゼマリー・ボルネフェルトはガリアからの移民だ。生まれはドイツ州のベルリン、ガリアの欧州侵攻時にやってきてそのまま移り住んだガリア兵が彼女の祖先だ。二重帝国に来たときは国籍を移すつもりなんて全くなかったが、尾張事務所で仕事をしているウチに二重帝国に身を埋めようと思った。

 理由の一人がローゼマリーの隣を歩いている彼女だ。


「うん? どうかした?」


 首を傾げる中学生ぐらいにしか見えない親友に、ローゼマリーはなんでもないと首を振った。

 来栖蓮花は種族も趣味も性格もまるで違うにも関わらず、不思議と気が合った。祖国には彼女のような、親友と言えるような者はいなかっただけにローゼマリーにとって蓮華の存在は大きい。

 少なくとも、休みが重なるとローゼマリーを外へと引っ張り出してくれる親友の存在は嬉しかった。例え職質避けが理由の一つだったとしてもだ。

 ローゼマリーと蓮華は原宿をブラついていた。獣人としても長身で出るとこは出ているローゼマリーとドワーフにしても幼すぎる容姿の蓮華の組み合わせはかなり目立って注目を受けていた。いつものことなのでふたりとも気にしていなかったが。


「ニーさんは大丈夫かなぁ」


 ナンパ野郎に二人揃って中指を立てたところで蓮華が今日何度目かのセリフを呟く。


「大丈夫。清一郎が唸るぐらいだったでしょ」


 逆上して掴みかかろうとしてきたナンパ野郎を片手で締め上げ、反対の手で紫電を発生させて怯えさせながらローゼマリーが言った。


「所長が唸ったところでなんの参考にもならないし……」


 現在、事務所で唯一銃を本格的に扱うのは清一郎ぐらいだが、清一郎の扱い方は特殊すぎてあてにならない。アレはもはや魔術師と呼ぶべきだと蓮華は幾度となく述べている。

 泡を食ってナンパ野郎が逃げだし、二人の周囲に空間ができる。ナンパ目的であっただろう男が数名、逃げるように去って行くのが見えた。


「私が見てた限り問題なかった。ベテランと言って遜色なかった」


 ニーの試験はローゼマリーも見ていたが、彼女は特に気負う様子もなく適度な緊張感を持って望んでいた。つまりは試験という状況で落ち着けるほどに実戦経験があるという事だ。そして彼女の動きはエルフの種族特性を加味しても高いと言えるものだった。

 騒ぎを聞きつけてやってきた請負人らしき男達に片手を上げて挨拶すると、呆れたように首を振って去っていた。良くも悪くも尾張事務所は東京の同業者の間では有名であり、特に異邦人であるローゼマリーの事はよく知られているのだ。


「ニーはウメコぐらいの技量がある」

「マリーがそういうなら信じるけども……」


 言いつつも不満があるようだ。その不満は心配と言うよりも性格故。蓮華にとって初めての後輩だ、世話を焼きたいのだろう。

 二人は避けるように開いていく人混みの中を歩いて行く。


「あの子は技術者じゃなくて純粋に戦闘要員だから蓮華の出る幕はない」

「それはそうだけどさ」


 蓮華は前線に出ることもあるが本来は技術屋だ。戦闘を専門とするニーに対して焼ける世話は私生活のことぐらいだろう。


「……他国の王族に戦闘要員任せるのはどうかと思う」

「適材適所だからね」


 蓮華の真っ当なツッコミにローゼマリーは目を逸らしつつ答えた。

 他に技術を持っていない以上、戦闘でなければ事務辺りの仕事をさせるしかないのだが、頭のおかしいエルフに事務員や客先対応など任せておけるはずがない。ウメコを見ていれば何が起こるか想像がつく。


「一応、法的にも一般人扱いになったからってさぁ……」

「だからってその辺に放り出すわけにはいかないでしょ」


 なんせ、他国とは言え国王からよろしくされてしまったのだ。無理だってぶん投げるにしても相応の実績が必要だろう。大使館から書類まで送られてきてるのだから。


「面倒なことは清一郎に任せましょ」

「……まあ、休みだしね」


 蓮華は長いため息をつくと、気分を変えるように強く手を打った。


「どこか行きたいところある?」

「本屋……というか古書店」

「いつも通りだねぇ……」


 電子書籍全盛の時代ではあるし電脳にいくつも保持しているが、電子化されていない古い書籍となると古書店へ行くしかない。特に古い魔術本となると巡り合わせを願うしかない。


「古代魔術ってそんなに便利?」

「便利というというよりも興味」


 現代魔術は化学的性質を利用した現象を魔力により再現したものであり、古代魔術は四大元素論や五行や陰陽道やらの理論で構築された魔術になる。現代魔術の方が効率が良く威力も上げやすいため殆どの魔術師が現代魔術を運用する。

 ただ、古代魔術には現代魔術では再現不可能な現象を生じさせるものが存在する。例えば魔術による飛翔。これは超能力の念力と同じだと言われているが、そもそも超能力がどういう理屈で働いているのか不明なため現代魔法では再現不可能だ。


「まあ、使い物になることは殆ど無いけど」


 現代魔法はどういう原理か解き明かした上で運用しているから効率が良いのだ。再現性の低い古代魔術はとにかく運用するのに魔力を使う。種族特性として魔力の少ない獣人が扱うには少々キツい物がある。

 だが、知っていると知らないとでは雲泥の差ではあるのだ。


「私はともかく、蓮華はどうしたい?」

「ん~、映画とか? いい感じの恋愛映画とかあるんだよね」

「だったら男と行ったら?」

「居たら行ってるよ……」


 蓮華の顔に影が差す。容姿が容姿である。寄ってくるのは基本変態だ。


「重蔵でも誘ったら?」

「重蔵誘うぐらいなら健二と行く」


 尾張事務所の守護霊的存在である付喪精霊、健二、現在五歳。精霊なだけあって大人びては居るが五歳児は五歳児である。何でもかんでも喜んで楽しそうに見る彼は、途中で寝て鼾をかく奴よりかはるかにマシだ。


「男よけにはなるでしょ」

「代わりに警察が寄ってくるんだよ」


 無意味に巨体の魔族と童顔のせいで人間の中学生にしか見えないドワーフという男女は面白いぐらいに警察を引き寄せるのだ。最高記録で日に二十三回職務質問を受けた。日が落ちると加速度的に声をかけられた。


「でも女二人で恋愛映画は寂しすぎない?」

「男二人よりはマシでしょ」

「……清一郎と重蔵が二人で見に行ってたら面白いけど」

「明らかに何かしらの罰ゲームじゃんそれ」


 仏頂面でポップコーンを頬張る二人が目に浮かぶようだ。ウメコか恵子辺りが粗筋の説明と感想を要求しているだろうから眠ることもできないというぐらいまで想像できる。もしくは、結城が監視しているか。

 普段は表情を殆ど動かさないローゼマリーの顔がニヤニヤと、イタズラを思いついた子供のように笑う。


「さて、どうやって二人に罰ゲームを受けさせようかな」

「まーた悪巧み? 今ならニーさんに関するネタぐらいだけど」


 蓮華も同じようにニヤリと笑う。何かしらで下らない罰ゲームを押しつけ合うのは尾張事務所の恒例行事だ。二十三回職質を受けたのも罰ゲームが原因である。


「どうせならニーも巻き込みたい」

「うむ、新人には洗礼を受けさせねば」


 頑張って顰めっ面を作る蓮華にローゼマリーが吹き出し、蓮華も釣られて笑う。

 はしたなくも大声で笑っていたローゼマリーがふと足を止める。


「どうしたの?」


 ローゼマリーは路地を見つめていた。ビルとビルとの隙間にある、室外機が並んで見える路地とも言えないような細い隙間。東京には幾らでもあるような隙間をジッと見つめている。


「ペットボトルある?」

「これでいい?」


 中身が半分ほど減ったお茶のペットボトルを蓮華は渡した。

 受け取ったローゼマリーはそれを路地に向かって放り投げた。

 蓮華がちょ、と手を挙げる間もなく投げられたペットボトルは地面に落ちる前に空中で静止、そして捻られるように形を変え、最終的に姿を消した。


『報告、新宿で澱みを確認』


 蓮華が事務所の面子と通話を繋いだ。


面倒になったので一話づつ投稿します。

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