07.令嬢の正体
「よくわからないが、何故アリス嬢は姉を使用人だと思っているのだ?」
「は?姉……?」
「クリスティア嬢も、妹に対して随分と他人行儀ですね」
「イモウト、ですか…?」
イモウト。いもうと。……妹!
お母様はわたしひとりしか産んでいないから、妹となる可能性のある人間となると、生物学上の父の娘しかいない。
あの男に娘がいることは知っていたが、まさか、公爵家の令嬢としてこの学院に通わせているとは思っていなかった。本当にあの男は図々しい。
あの男の動向については、すべて陛下と叔父に任せている。
こちらに害がない限り、精神的負担の軽減のために、あの男のこともその家族も、存在そのものを気にしていないようにしているし、特に報告をしてもらうこともないのだが、さすがに、同じ学院に娘が通っていることくらいは教えてくれてもよかったと思う。……聞いていたとしても、流してしまったかもしれないが。
とはいえ、この娘に絡まれたときに思い付いてもよさそうなのに。
まったくこれっぽっちもあの男の家族の存在を思い出さなかった。
「やだ、アル様ったら!この人は使用人ですよ!」
「いや、それはないよ」
「だって庭にいるの見ましたし」
確かに、北の別邸の裏手に回れば本邸の庭や薬草園が見えるが、わざわざわたしたちが住んでいる方を伺い見ているのだろうか。
結界を張っておいて本当によかった。勝手に入られていたら堪らない。
というか、わたしは庭に出るときも、ドレスとまでは言わないが、令嬢らしいワンピースを着ているのだが、その姿を見て使用人だと思ったとでも言うのか。
そんな使用人がいるなら、それこそ教えてほしいものだ。
「もしかして、面識がないのか?」
「ええ。あの人の家族が別邸にいるのは存じていますが、この方とお会いするのは今日が初めてですわ」
「は?何言ってるの?」
「……本当に知らないようだな。こちらは、バートン公爵家のクリスティア嬢。君もバートン公爵令嬢なのだろう?ならば、姉にあたるんじゃないか?」
「何それ……知らない……。そんなの聞いてない!」
そう言われても困る。
あの男が自分の家族にどんな説明をして公爵邸に乗り込んできたのは知らないが、わたしが産まれたことくらいは知っていただろうに。
それと、正直、殿下の説明にも若干物申したいところはあるのだが、この場でわざわざ指摘すると話が長くなるので、とりあえずはやり過ごすことにしようと思う。
ということで、挨拶くらいはしておくことにした。
「改めまして。クリスティア・バートンですわ」
「嘘よ!じゃあ、どうして挨拶に来てないのよ」
「わたくしが生まれてからこれまで全く音沙汰がなかったのに、母が亡くなった途端、先触れもなくいきなり乗り込んできた人たちに、どうして挨拶しなくてはならないのでしょう?」
「うわー……………」
この心情が思わず口に出てしまったような声はオルライト様の声だろうか。
いつも冷静で隙を見せないオルライト様にしては珍しい。
殿下も何かを言おうとしたのか口を開いたものの、いい言葉が思いつかなかったようで、黙ってしまった。
あの男の娘も「そんなの知らない……」とぶつぶつ言い始めてしまう始末で、どうにも耐え難い空気になったところで、また新たな人物がこの場に現れた。