18.愚者の捕縛
それからの動きは早かった。
男爵とダニエルの投資費用受け渡し当日。
陛下の手の者を従者に付けて我が家の北の別邸を訪れた男爵は、陛下や叔父との打ち合わせ通りにダニエルと対峙した。
男爵はなかなかの名優ぶりを見せたようだ。
ダニエルは、男爵と対面して早々に婚約の件はまだわたしに話していないだけだと言い訳をしたらしい。それに男爵が笑顔で安心しました、などと返したというから、大した茶番だと思う。
その後、男爵は、ダニエルから新規事業について更なる詳細を聞き出し、ダメ元でヴェルムとの技術提携の契約書類を見せてほしいと願えば、ダニエルは、なんと、すんなりと契約書を見せてくれたという。
これも男爵を騙すための偽造書類であろうが、それにしても、どうしてあの男は足が付くものばかりを用意していたのか理解に苦しむところだ。
その偽造書類を出したところで、ダニエルは、従者に扮していた陛下の部下に捕まったそうだ。抵抗はしたようだが、邸には騎士も派遣していたため、抵抗は長くは続かなかった。
そして、同日。
ヴェルム侯爵も捕縛された。
わたしとロン様の婚約話が広まった日、ダニエルが向かったのはヴェルム侯爵の隠れ家だったそうだ。いつもならば隠匿の魔道具等を使って慎重に行動していたのだが、今回は予想外の事態に慌てて失念したらしく、これまで隠し通してきた隠れ家の所在を影に掴ませてしまった。
そうとは知らないダニエルとヴェルム侯爵は、隠れ家で今後の計画をぺらぺらと話してしまい、その報告を受けた陛下が侯爵の捕縛命令を出したとのこと。
隠れ家には、各種偽造書類や偽宝石はもとより、偽宝石の加工場もあったそうだ。これに加え、ダニエルが持っていた偽造書類もあるから、侯爵も言い逃れはできないだろう。
実は、詐欺の申し立ては過去にも何度もあったという。
それでも捕まらず、今までうまくやってきた侯爵が今回失敗したのは、偏に、ダニエルを引き入れたからではないだろうか。ダニエルを信じたのではなく、ダニエルが持ってきたカモが叙爵したばかりの男爵だったから油断したのだろうけれど。
そして、更にもうひとり捕縛された人がいる。
学院長だ。
彼は、学院への寄付金や生徒の身なりから、カモとなり得る家の情報を流していたらしい。そんな人が学院長だったなんて酷い話だ。
――――――そんな大捕物があった日の夜。
わたしと叔父は、公爵家の北の別邸にいた。
ダニエルが捕まり、家宅捜索のために人が往来している邸の片隅で、アリス嬢とその母親がきゃんきゃんと吠えていた。
「ちょっと!あんた!これはどういうことよ!」
「随分と失礼な娘だな。どういうことも何も、ダニエルが罪を犯して捕まった、その結果だ。そして、あなた方にはこの邸からの退去命令が出ている。一週間以内に荷物をまとめて出て行くように」
「はああ?なによ、それ!」
「今の話の通りですわ。そもそも、あなた方は公爵家の人間ではありませんから、この邸にいることがおかしいのです。速やかに退去願いますわ」
「なっ!私は公爵夫人よ!」
「それは違う。ダニエルとあなたとの婚姻は受理されていないし、ダニエルはもう何年も前にこの家から絶縁されている。結婚していたとしても、あなた方はバートン家とは何の関りもない」
「そんなはずないわ!」
「そうよ!お父様は公爵なのよ!」
「いいえ。バートン家当主はわたくしです。陛下もお認めになっています」
「嘘よ!」
「あなたはいつも嘘だと決めつけますが、間違っているのはあなたの方ですわ。退去命令を出したのも陛下です。すぐに出て行って下さい」
予想通りではあるが、これは想定よりも梃子摺るかもしれない。
陛下にお願いして騎士を呼んでおこう。
「ああ、そうですわ。アリス嬢は学院も退学となっていますから、もう登院することも叶いませんわよ」
そう聞いてアリス嬢が更にきゃんきゃん喚いていたが、わたしたちはもう話すことなどない。後のことは王宮の使者と使用人たちに任せて、わたしと叔父はそのまま別邸を離れたのだった。




