01.母との別れ
ベージュとダークブラウンを基調にした品の良い空間。
配置された重厚な家具は一目見れば高級品だとわかる。
ここは、数日前まで母ビアトリスが過ごす部屋だった。
母が愛したバートン公爵領地にある本邸の一室。
半年前に病に倒れてからは伏せがちで、ベッドの上から離れることは少なかったが、この部屋で最期まで領民と家族のことを慈しんだ。
わたしは、母との思い出を目の裏に焼き付けてからこの部屋をそっと離れた。
母は二十歳で婚姻を結び、その結婚を機に、バートン公爵位を継いだ。
それから病に倒れるまでの十八年間、領地を守りぬいてきた女公爵だ。
赤髪に赤目の外見は苛烈な印象を与えたが、誰もが認める完璧な淑女であった。
そして、誰もが想像もしなかった領地改革をいくつも成功させた女傑。
そんな母を領民は慕い、母も領民を愛した。
だから、領地で眠りたいという母の願いを聞き届け、領地で最期のお別れをしたのだ。多くの領民が追悼に訪れ、多くの涙が流されたが、穏やかで優しい時間だったと思う。
母は陛下の従妹にあたり、母の画期的なアイデアは文官や王宮魔術団にも好評だったため、領地に劣らず、母は王宮での覚えもめでたかった。
母の最期については、当然ながらすぐに陛下にも伝えられたが、領地でのお別れを待って王都で追悼式をする旨を許されている。
母の部屋を離れてすぐに、わたしは馬車に乗り込んだ。
今は、母の形見とともに、王都の公爵邸に向かって馬車に揺られているところである。
わたし、クリスティアは、母の一人娘で十七歳。
バレンシア学院の二年生であるが、母の看病と領地経営の教えを受けるため、学院から許可をもらって、長らく王都を離れていた。復帰後のテストで合格点が取れれば、そのまま同じ学年で学び続けられるため、勉強も怠らなかった。
そんな休みのない生活でも、母と一緒に居れることがうれしくて、苦だなんて思ったことはなかったが、馬車に揺られて領地から離れる分だけ疲れが溢れ出るように感じて、思わず苦笑した。
王都に着いてからも、やることはたくさんある。
こんなところでくたばっていては母に笑われる、と気合を入れ直した。
わたしの手には、母の形見のひとつ、領地改革を成功に導いたアイデアが詰まったノートがある。どれもが驚くべきアイデアで、目を見張るほどのものだ。
まだ実現できていないものもたくさんあるため、母のようにうまくはできないかもしれないが、このノートの引継ぎを許された者として領民の生活を守れるように努めていくつもりだ。
そして、そのアイデアノートに重なるもう一冊のノートには、母の陛下に対する貸しがたくさん詰まっている。もちろん、このノートは極秘扱いだ。
陛下からのお願い事ひとつに対して貸しひとつ。
貸しひとつの対価は、アイデアノートの中のひとつを実現させること。
ただし、実現させることが難しいものが多いので貸しが溜まったままなのだ。
溜まった貸しをクリスティアが引き継いだことをいつ陛下に話そうか。
そんなことを考えながら、王都の公爵邸への道のりを過ごした。




