第6話 油断
引き続き感想、レビューよろしくお願いします。いつもよりは長めになっています。
俺は宿を急いで出た。辺りを見回すと昼前より人の数がかなり多いが、見覚えのある大きな建物を見つけた。西の大通りで間違いない。俺はすぐに太陽の位置を確認した__。
「まずい!もう日が沈みそうだ!くっそ!最悪だ!間に合わなかった……。」
「あれ?アズマさん?なんで、宿屋から出てきたんですか?しかも一人で……。」
「えっ?あれなんでここに?……。」
なぜかヴィントがそこにはいた。出さないようにしているようだが、俺には分かった。滅茶苦茶怒ってる……ちゃんと説明しないとな、何か誤解をされているようだ__。
「ヴィント、歩きながら説明をするから…まずは落ち着いてくれよ」
「ええ……もちろん、ちゃんと説明してもらいますよ、なぜ宿屋にいたかを……。」
「えーっと……言われた酒屋は見つけたんだ、だがそこの店主が…あーなんというかその刺激が強くてだな……それで気づいたら宿屋にいたんだ、それで今さっき目が覚めて、急いで向かおうと思った所で、ヴィントに会ったって流れだ、どうだ?誤解は解けたか?」
なぜか更に顔が険しくなっているんだが……全くどうしたんだ?いつものヴィントならすぐに理解してくれるはずなんだが・・・説明に夢中になってて謝るのを忘れてたそれか__。
「ヴィント!本当にすまなかった!謝るのが遅くなってしまった!すまない!」
「もう、大丈夫です。まさかアズマさんがそういう人だとは思っていなかったのでびっくりしただけですから」
「そ、そうか、悪いが酒屋まで行くのを手伝ってくれないか?一人だとどうにも、勇気が出なくてな……。」
「わかりました。この先ですか?」
「ああ、そこの角を曲がって、まっすぐ行ったところの店だ__」
俺達は再びビナクスにやってきたのだが……ヴィントは今までに見たことがないほど、ブチギレていた。
「お、おい?ヴィント?だ、大丈夫か?一回深呼吸した方が…あっ」
ヴィントはそのまま中に入って行った。俺も後を追う__。
「いらっしゃいにゃ~!にゃにゃ~?目が覚めたのかにゃ?にゃはははは!今回は大丈夫そうにゃ?この子は連れかにゃ~?物凄い怒った顔で入ってきて、君みたいに固まっちゃったにゃ!」
「あー・・・はい、連れです。お~い!ヴィント大丈夫か?」
しばらくはダメそうなので、先にお礼と要件を済ませてしまおう。
「昼間は本当にすいませんでした!宿まで送ってもらっただけでなく宿代も支払っていただいたようで・・・ありがとうございました」
「にゃはは!気にするにゃ!良くあることにゃから!それで用があってきたのにゃろ?言ってみにゃ!」
ビナクスの店主は男らしい声で言った。
「実は王城の御剣 焔教官にお使いを頼まれまして、えーっとあるだけのお酒を持ってきてくれとの話でして、全てツケておいてくれとの事なんですが……。」
「にゃははははは!バカホムラの使いだったにゃんてな!君も大変だにゃ~、それにゃあこれを持っていくと良いにゃ!それにこれとこれも……」
俺は持てるだけのお酒を受け取ったので、後はヴィントの意識が戻るだけなのだが・・・。
店主が奥から気付けのお酒を持ってきて、飲ませようとしたので俺がやると言った。
「・・・はっ!あれ?アズマ・・・さん?うわっ!ばけm__もごっ!」
「ははは……ヴィント?帰ろうか?」
「は、はい・・・。」
「色々とありがとうございました!」
「ありがとうございました・・・」
「またきてにゃ~!」
「アズマさん、すいませんでした!かんっぜんに勘違いしてました・・・確かに刺激が強すぎますね・・・一人で来てたら僕も宿屋送りになっていたと思います・・・」
「ははは・・・気にしなくていいよ、知ってたら大丈夫なんだけどね・・・知らないとね?・・・」
「そうですね、急いで帰りましょうか」
「そうしよう、やっぱり教官に言われてきたのか?」
「はい、相当お怒りだったので、足の速い僕が一人で行くことになりまして、探している時にばったりって感じです!」
「なるほどな~・・・これはお怒り間違いなしだな・・・」
「ははは・・・そうなりますね」
俺達は裏道を曲がったところで呼び止められた。
「おい、お前らその酒を置いてけ」
「さもないと、野良犬の餌になるぜ」
俺達を呼び止めたのは、バタフライナイフを持った金髪の同じ顔をした男二人は、チャキチャキとバタフライナイフを出し入れしている。
現在、裏道で挟まれた形になっている。まずいな、完全に逃げ道を塞がれてしまっている。
武器も服装も同じで見分けが付かないな。
「この酒は渡すわけにはいかないな、それこそころされちまうよ」
「チッ、本当にいいんだな?」
「後悔することになるぜ」
ヴィントの僕がやりますねという一言で、戦闘が始まった。
「シッ!なんだこいつ!?くっそ!当たらねえ!」
「襲う相手を間違えたみたいですね!ハアッ!」
「ぐはっ!___畜生!いてえな!だが一発は大したことねえな!」
思ったよりタフそうだ、今ヴィントのカウンターが綺麗に鳩尾決まっていたんだがな、だが時間の問題だろう完全に速さで勝っている。
「よそ見してんじゃねえ!寄こせ!」
「おっと!こいつは渡せないな!」
「畜生!こいつもかよ!なんで俺らの攻撃が当たらねえんだ!」
「ははは・・・諦めた方がいいんじゃないか?俺達は急いでるからな、俺は見逃しやってもいいぞ?」
「アズマさん!だめですよ!こいつらは悪い奴なんだからちゃんと衛兵に渡さないと!」
「そういうと思ってたよ、そうらしいけどどうする?」
「「俺らを舐めてんじゃねえ!」」
双子が一気に距離を取ると、二人の手のひらから紫色の魔法陣が浮かびあがった。
おっと、何かを仕掛けてくるみたいだな・・・ヴィントがこちらをちらりと見た。
俺は観察眼を敵の手のひらに集中させ、観察眼の<アナライズ>を発動した。
状態:音魔法<サウンドノイズ>、<レゾナンス>
効果:不明
2人の手のひらを素早く確認すると別々の魔法を準備していた。効果までは分からないが…
「ヴィント!耳を塞げ!__。」
「「これでも食らえ!!」」
双子が叫んだ次の瞬間、骨まで震わせる程の爆音が俺達を包んだ。耳元でギーギーと不快な音が頭の中まで響き渡る、目を開ける事すら難しい程の音の暴力が続いた。
音が止んだらしい・・・まずいな・・・頭がグワングワンする、手も足も痺れて、しばらくは耳も上手く聞き取れなさそうだ。この状態は危険だ、どうにかしなければ__。
「__く!__者!__ぞ!む!聞こえていないのか!?どうだ!!聞こえるか!?遅いぞ!!」
(えっ・・・?なんで・・・教官がここに・・・)
「むぐっ!」
口の中に何かを突っ込まれた、苦い葉っぱを無理矢理甘くしたような気持ち悪い味がする・・・
「どうだ?聞こえるようなったか?聞こえるなら返事をしろ!それか首を振れ!」
「聞こえるようになりました、なんでここにって聞くまでもないですよね・・・」
「全く帰ってこないから、ヴィントを行かせたというのに二人して、何をやっている!この体たらくはなんだ!」
「すいませんでした・・・完全に格下だと思い、舐めていました・・・」
「お前達は弱い!それを自覚しろと言っただろう!本気を出せば倒せる敵を舐めているから痛い目を見るんだ!私が来なければ、お前達はよくて奴隷、最悪の場合死んでいただろう。こいつらの所属している組織は闇の組織だ、お前達二人を消すことなんて簡単にできる。」
「はい・・・それとヴィントはどうなりましたか?」
まだ完全には眼が回復しておらず、辺りがぼやけて見える。
「ヴィントなら先に帰ったぞ!もちろんお前同様説教済みだ!」
「ということは俺よりは無事だったという事ですか?」
「ああ、そういう事になるな、マイナススキルの所為だろうな、魔法に対する抵抗が著しく低いのだろう。
今回の事は良い教訓になっただろう、相手を侮らず、常に全力を尽くすことを忘れるな!戻るぞ!」
「はい、ありがとうございます!肝に銘じます!」
双子は衛兵に引き渡され、教官はお金を受け取っていた。双子は賞金がかかっていたそうだ。教官が来なければ死んでいたと思うと、異世界で生きるということの恐ろしさが今になってやってきた。
完全に日が沈んだ、夜の王都は人々の笑い声に溢れ、魔法の月に照らされて明るくなった、舗装された道を教官と二人で歩いた。
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